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洞を穿ちて察するが如く 氷の解けるが如く  作者: みれにあむ
第一部 王国記篇  第一章 神の名前と祈りの作法
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(22)生命を慈しむ誓い

ストックが~!

 最近夕ご飯にもネイサン御夫妻が御一緒しているから、ちょっと食事が賑やかだ。

 代わりにお父様がどんどん憔悴している様に見えるけど、どうも既に呪われたダンジョン作戦は始動しているのだと、ネイサン叔父様がこっそり教えてくれた。

 お父様のあれは小心者なだけだけれど、その正体を無くした様な狼狽えっぷりが、寧ろ呪われたダンジョンの実在に真実味を持たせているのだとか。

 お父様は人前に出る時はいつも自信満々な姿を見せていたから、怪我の功名と言えるだろう。


 自信満々な姿なんて、頭の中が空っぽでも出来る。

 私にはまだお父様の真価は分からない。


 まぁ、そんな私の真価は我が儘娘かも知れないけれど、我が儘娘なら我が儘娘なりに実はそろそろ街へも行ってみたいと思っていたりする。

 兎に角、街のお店にはどんな物が売っているのかとか、そんな事も私は知らないのだから。

 前世の赤石祥子がファンタジーなお店をウィンドウショッピングしたいと騒いでいるのも有るけれど、領主の娘として館の敷地から一歩も出た事が無いのはどうだろうと思うのだ。


 そんな事を思いつつも、夕ご飯は美味しく頂いた。

 ファンタジー世界の食文化は遅れているというのが、前世ラノベ(軽小説)の一つの様式だったけれど、普通に美味しい。

 これなら街での買い食いにも期待出来そうだ。


 食後のまったりした空気が漂う中で、お母様の膝の上から降りて、シオンの袖を引いた。

 グリムフィード家では食卓に侍女までは一緒に着いている。

 シオンには、布を掛けて運んで貰っていたエイラール様の神像を、食卓の上に持って来て貰うのだ。

 私が運ぶのは危ない。服の裾を台座まで伸ばしているとは言え、特に足回りとかが危険だ。


 微笑むシオンが食卓に布が掛かったままの神像を置いた所で、私は皆に声を掛けた。


「注目してね」


 シオンへと目を向けると、被せた布をゆっくりと取っていく。

 現れるのは三十センチの小さな像だけれど、中々の自信作だ。

 自然と皆、表情を呆けさせて、椅子から立ち上がって近寄ってくる。


「生命の神エイラール様の像よ! 出来上がったばかりなの」


 皆の視線が私に集まる。


「私の礼拝堂が出来たらそこに並べるけど、それまで何処に置いとく? お母様の部屋でいい?」

「え? ――いえ、プルーフィアの部屋に置きましょう。

 プルーフィアがこの女神様を造ったのよね?」

「凄いじゃ無いか! 丸で本職の彫刻家の作品みたいだぞ!」


 お母様とお父様の言う事を聞いて、ちょっと考える。

 お父様の言葉は何かがずれている様な気がする。

 何だろうと考えて、神像だからと思い当たった。


「そういう言い方は良くないわ。祈りの軸にする神像だもの、出来映えより気持ちよね。その点私は魔術で簡単に造れてしまったから、あんまり良くない様な気がするの。ここを切り離すって描いてる線に沿って刃を入れただけな感じだから、彫刻したっていう気もしないのよ」

「魔術で? プルーフィアは魔術を使える様になったの?」

「?? 言って無かった? 魂との合一を果たしたんだから、私はもう魔術師よ?」


 私にとっては今更だったけど、何故か驚かれてしまうのだった。

 そんな時に、鋭い質問をしたのはメイドさん。


「あの、プルーフィア様? そのエイラール様にはどんなお供え物を捧げるのが良いのでしょう?」


 きっと、ララィラーラ様へのお供え物と同じく、自分達で用意するのを楽しみにしているからこんな質問が飛び出て来るのだろう。

 でも、人々の生活には直接関わらないララィラーラ様達上位の神々とは違って、エイラール様の力は人々に直に触れて来る。恩恵も大きいが求められる物も大きい。

 原作でも神々の描写は主人公や民衆視点でしか語られなかったけれど、エイラール様は慈悲深くとも厳格な神と言い伝えられていた。

 寧ろララィラーラ様に対するよりも、身近な神で有るが故に、気を引き締める必要が有る。


「う~ん、そうね。エイラール様は慈悲深いけれど厳格な女神様なのよ。

 エイラール様が求めるのは、誓いなの。生きとし生ける物に誠実に生きるという誓いね。それが守られるなら大怪我だって治してくれるけど、疎かにしているなら掠り傷も治してくれないわね。

 そしてね、エイラール様へのお供え物だけれど、私にも何をお供えしたらいいかは分からないのよ。食べ物をお供えしても受け取らなかったとも聞くし、でもチーズを受け取ったという話も聞くし。

 生き物を傷付けるのを厭うから、神像も木では無く石なの。だから料理された生き物を嫌がったとも考えれるけど、もしかしたら神様への捧げ物にするのでは無く自分達で食べるようにと受け取らなかったのかも知れないの。

 だから試すとしても、雛の生まれない玉子とか、仔から取り上げたのでは無いミルクとか、そういうのから作った小鉢くらいかしらね。

 あ、祈る時間は決まって無いわよ? 怪我をするのも時間が決まっていたりなんかしないからね」


 ふんふんと頷きながら一言も漏らすまいと耳を傾けているメイドさん。

 もしかしたら私よりも、メイドさんの方が子供らしい感動に溢れているかも知れない。


 そして私の言葉に納得の声を上げるのが他にもちらほらと。


「成る程、そういう事か。教会は高い金を取って治癒を施しているが、その効果は区々だ。金を積んだからといって効果が上がる訳でも無かったが、そういう絡繰りが有ったとは」

「まぁ、魔石で払おうとしても足下を見やがるから、庶民は薬屋にしか頼らんがな」

「ん~~……女神様が髭の神様にされた恨みも有りそうだけど」


 リリカさんの言葉にちょっと目を逸らして遠くを見る。

 この分だと、職能の神エリーン様も、髭面にされてしまっているのかも知れない。


 お母様は始めに置き場所を答えた後は、エイラール様と同じく胸の前で緩く手を組んで、エイラール様の神像から目を離せないでいる。

 う~ん、どうしよう。


「お母様? エイラール様にお祈りするのは明日にする? 今は誓いを立てるだけの落ち着きとか覚悟とか無さそうよ?」

「ええ……そうね。そうしましょう」


 そうと決まればといった感じで、厨房から食堂に顔を見せていた料理長が、表情を引き締めてすっと引っ込んだ。

 食器を下げていくメイドさんもきりっとした顔付きなので、きっと控え室で今の会話が共有されるに違い無い。

 明日の朝は、いつも通りに使用人達も全員集まっての礼拝になりそうだ。



 いつもの夜話で、お母様に聞く。


「教会は治癒を施すのに大金を要求するの?」

「……そうね。一月働いても足りないくらいの御布施をせびるわね」

「そのお金は何に使われているの? 孤児院?」

「孤児院は領で面倒を見ているわよ? ……ですから何に使っているのかは知りませんけど、随分と贅沢な暮らしはしているようね」


 ヴァレッタお姉様も、嘆息しながら言った。


「見れば直ぐに分かりますわ。ぶくぶく太った働き者とは真逆の方が居れば、大体教会の関係者ですわよ」


 何だか目に浮かぶ様だけど、聞く人聞く人皆して唾棄する有様は、まだ自分の目で見ていないからと擁護しようとした気持ちも間違いに思えてくる。

 でも、誰もがそんな風に嫌悪しているのに、変わらず有り続けているその事実が、私に教会の姿を酷く薄気味悪い物として見せたのだった。

 教会の人をぶくぶくにしたのはちょっと安直だったかも知れぬ。

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