(19)明日の為の……
もう直ぐ第二章終了かな。
ララィラーラ様への祈りが受け入れられたその後は、思い出せる限りに神像の材料を書き出して、手配を掛けて貰った。
草花で作ったララィラーラ様の神像も、実は簡易の物なのだ。
これから冬になる事を考えるなら、ちゃんと木彫りの神像も欲しい所。材料だけ頼んだのは、当然私が造るから。
何故ならこの世界はスキル制だから。あの後調べた感じだと、位階と呼ばれているレベルも有るけど、それはダンジョンでしか上がらない物だから、ダンジョンに潜れない内はスキルを鍛えていく他は無い。
職能の神エリーン様は、子供を働かせるのはとんでもないという神様だから、十二歳になるまでは剣士や農家といった職能を得る事は出来無い。でも、鍛えた技術が基準を超えれば、スキルは得る事が出来る。毎日素振りしていたら上段切りを覚えたとかそういった感じで。
そしてスキルを得れば関連するステータスにボーナスを貰える。上段切りを覚えたら、筋力にプラス一とかそんな感じで。
更に言うなら職能にもスキルにも熟練度が有って、熟練すればより上位の職能へと変化したり、派生スキルに目覚めたりする。
そんな事を知っていたら、休んでなんて居られない。
そもそも私はまだ五歳児なんだから、暴れ疲れて眠ってしまうくらいが正しい在り方というものだ。
因みに一日は二十四時間で、一年は三百六十日と少し、一月は三十日だ。
昔は一日を、早い朝、遅い朝、早い昼、遅い昼、早い夕方、遅い夕方、早い夜、遅い夜で分けていたみたい。そのそれぞれを使い易く三分割したのが始まりで、つまり初めの頃は夏と冬で一時間の長さは違っていた。今は時計が出来て、一時間の長さも統一されている感じだ。
一年の始まりは、太陽が一番低く下がってからまた高く成り始めた日だ。今は経験的にその日が分かっているけれど、稀に訂正が入るらしい。田舎に行くと日付が違うなんて事は良く有るから要注意らしい。
一月三十日はこの世界にも在る月からだけど、当然月齢とは既に関係無くなっている。
そんな感じ。
街の子供達は五歳になったら幼年学校に通って、文字と算数を学ぶ。学校は半日で、必要な内容を憶えたら卒業。次に学校に行くのは十歳に成ってから。
貴族の子供は十歳までは家庭教師から色々と習う。グリムフィード領の場合は十歳に成ったら寄子の子供達と一緒に学び、十三歳になったら王都か領の学園へ通う。
私の場合はお母様の気を惹こうとして、五歳になる頃には文字も算数も学び終えていた。そこまで教えてくれたのは、寄子から来てくれた家庭教師。そこから後は、自分で図書室の本を読んだり、シオンやリリカさんに教えて貰っている。
そういう意味では十歳に成るまでは自由時間だけれど、スキルは何も脳筋な物しか無い訳じゃ無い。
だから私は早い朝に神像を造ったりの作業をして、遅い朝にお勉強をして、午後は鍛錬に費やす事にした。
お勉強が十分だと思える様になったなら、街の様子を見に行こう。
今日はそんな新しい朝。まだ神像の材料は届いてないから、私の物になった礼拝堂の計画を立てていこう。
「ここ! このお部屋の真ん中に絵柄の中心が来る様に絨毯が欲しいの。東西南北にしっかり向きも合わせてね。壁もね、大人が手を伸ばした位の高さまでは、モルタルで綺麗な白壁にしてね、照明の道具を付けたいの。あ! 絨毯は冷たく無い様に、下にコルク貼ったり木の板貼ったりしてね。このお部屋は靴を脱いで上がる事にするから、ふかふかの絨毯よ? 入り口の下にも絨毯を敷いてね。壁の隙間は窓にして。南側の大きな窓はそのまま扉にして外に出られる様にするのよ?」
「南側から出た外はね、靴を脱いだりしないと駄目だから、屋根を付けて物入れとか椅子も置きたいわ。う~ん、絵に描くわね。――と、こんな感じよ? その内竈も置きたいから、この辺りは空けておいて。手前の右側の部屋は外に出れる扉が有るよね? そこまでは屋根を繋げてね。そっちの扉からは出入りしてもいいけど、私の部屋になった事は忘れないでよ?」
「手前の部屋はこんな感じ。私の作業場にするの。右の部屋は出入りするから仕方無いけど、左の部屋に入っていいのはいいって言った時だけだからね。道具が増えたら模様替えもするけれど、今はこんな感じにして頂戴。神様の像を造らないといけないから、左の部屋を一番始めに仕上げて欲しいわ」
かなりの無茶と我が儘を言った筈なのに、全部の要求がすんなり通ってしまった。我が儘娘になってしまいそう。
どうにもララィラーラ様にお祈りを捧げた時から、皆の私を見る目が違ってしまった様な気がするけど、別に私で無くてもお祈りは捧げられるのに。
そんな気持ちを込めて、お昼のお祈りのお供え物は、幾つかの丸い野菜とララィラーラ様神像の揚げ物にした。
「お嬢様が練習に作った像をそのままにしておくのも忍びなくて、悪気は無かったんですぅ」
「どれも食べられる素材で作られてましたが故、これを粗末にする方が罰が当たると思っての事。大人の味わいに仕上がったと自負しておりますので、お怒りで無ければどうぞご賞味戴きたく!」
メイドと料理長の仕業だった。
お供え物が御査収なされた途端、メイドはふにゃふにゃと頽れて、料理長は胸を押さえながらぐはぁと安堵に仰け反った。
次からのお供え物は、持ち回りで用意する事になった。
毎日お供えをするのは大変だから、神像が揃ったら日替わりになるかも知れない。
お昼ご飯を食べたなら、鍛錬の時間だ。
只でさえ未熟児で生まれたハンデが有るのに、街の子供達と比べて多分私は圧倒的に運動量が少ない。
まずはそこに追い付くのが第一だろう。
つまり、明日の為のその一は、走る事!
「たーーーー!!」
とてちてたーではどうやって走ればいいのか分からないけど、ここは天国と地獄だろうか。位置に着いて、よーいどん! の紙火薬の音を脳裏で鳴らして、私は庭をダッシュする。
五分も走らない内に、靴が駄目だと脱ぎ捨てた。
「お嬢様ぁ~~!! お待ち下さいぃ~~!?」
メイドも振り切れないのは話にならないと思っても、ふひゅーふひゅーと息が漏れる。
到頭足も上がらなくなってきて――
「前受け身ーー!!!」
ごろん!
私が卒業した高校では、女子も柔道が必須になっていた。
肩から入って床を叩くと教えられたけれど、正直受け身は全然分からない。
何段とか持ってる先生も、私が受け身をしているつもりになっているのを見て、此奴何をしているのかという眼で見ていたから、やっぱり分かっていなかったのだろう。
でも、ここは剣と魔法のファンタジーな世界。きっと今は見る影も無い運動神経も、鍛えれば熟練度は上がっていくに違い無い!
「エビーーー!!!」
「ぎゃーー! お嬢様、どろんこにぃいいい!!」
そう、これこそ怒りの武道! 私の人生は大河の如く、渦に巻かれても滝壺に落ちようとも止まらず流れ行くのだ、ごろごろと!
その日の夜、私は熱を出して寝込む事になった。
むぅ!? 何と言う脆弱な体なのか!
まだ私の挑戦は始まったばかりである。
因みに作者は怒りの葡萄を見た事は無いです。そういうはっとする名前のPCゲームが有ったと知っているだけ。
うん、葡萄が暴れまくるゲームなんだよ。




