(18)太陽に捧げる踊り
ララィラーラの名前の元ネタはエルアライラー。
まぁ、太陽神と言えばラーですけどね。
祈りを捧げる儀式の為に、用意して貰ったのはふわっとした橙色のドレス。
それを着て、くるくると踊る私。
時間はまだ正午になる少し前。
正午になったらシオンがチンとベルを鳴らしてくれる予定。
場所はお庭の真ん中近く。
礼拝堂から出て真っ直ぐ行くと四阿が在って、そこからもう少し足を延ばしたその先の場所。
ナナ芋の収穫を終えた畑の中を、くるくるくるくる私は回る。
小さな机を祭壇にして、野菜で作った神像と、丸い捧げ物が積まれている。
くるくるくるくる私は踊る。
アニメだと、もっと飛んだり跳ねたりポーズを付けたり、見ていて美しく振りが付けられていた。
くるくるくるくる私は回る。
原作ではくるくる回って踊っているとしか書かれて無くて、でもその理由に自分で踊ってみて初めて私は気が付いた。
くるくる回るとふんわりドレスの裾が広がって、きっと上から見たら太陽の様。
橙色のドレスは本当に偶々で偶然だったけれど、きっとララィラーラ様も気付いてる。
だから私は原作寄りにくるくる踊る。
でもあんまり続くと目が回りそう。
――チン♪
シオンのベルの音に救われて、私は祭壇の前に転がった。
転がってから、膝立ちに座り直した。
「天に坐す偉大なる御方、ぽかぽか陽気と日溜まりの神様、ララィラーラ様にお祈り致します。ララィラーラ様の御力、太陽の恵みを受けて、美味しい野菜に果物が一杯一杯採れました。どうぞご賞味願います」
ヴァレッタお姉様とお母様の監修を受けた祈りの文言を言祝ぐと、呆気無くもお供え物と、それに加えて折角作った神像までが、すうっとその場から消え去った。
踊っていた分を除くなら、時間にして二十秒程しか経ってない。
暫し口を開けて凝視して、はっと気が付いて勢い込んで振り向きながら立ち上がって、
そしてまたころりと転がった。
むぅ……締まらない。ガクリ。
~※~※~※~
全てをその眼に納めた列席者達は、初めて目の当たりにした神の奇跡に、体の震えを禁じ得なかった。
プルーフィアの言葉を事前に聞いていたとしても、実際に目にするまでは恐らく本気で考える事は出来ていなかったのだろう。
神の実在。否応無く突き付けられたその事実に、矮小なこの身は震えるしか無いに違い無い。
ヴァレッタとヴァチェリーは、前の日にプルーフィアが太陽の神様を、ぽかぽか陽気と日溜まりの神様と呼ぶ事に拘った事を思い出していた。
「かんかん日照りの神様として来て貰っても困るじゃ無い」
そんな一言で疑問は氷解したけれど、まだ神様が相手だとの覚悟は全然出来ていなかった。
直前まで踊るプルーフィアを可愛いと愛でて、転ぶプルーフィアの可愛らしさをはらはらと見守っていた。
そんな油断している所に突き付けられた事実だ。
ヴァレッタとヴァチェリーの目から涙が溢れる。
「神様は見守ってくれてましたのね」
「……そうね」
そんな二人の目の前で、満面の笑顔のプルーフィアがころりと転ぶ。
「プルーフィアは大物ですわ」
「ふふ……そうね」
緊張していた二人にも、微笑みが戻るのだった。
イルカサルとネイサンもまた、凝然としてその事実を見届けていた。
プルーフィアが語るその言葉を、教会に対抗する手立ての一つと理解していた不遜に、猛然と後悔しながら。
「分かってるな。この情報が漏れたら、この場に居る全員が粛清されるぞ。少なくともプルーフィアは無事には済まない」
「わ、分かっている! ――プルーフィアの言っていた事は、全て正しかったのだな……」
その光景はネイサンに改めて覚悟を決めさせ、イルカサルには強烈に自覚を促した。
正しくこの時から、グリムフィード領の密かな戦いは始まったのである。
ネイサンの妻リリカと、シオン、執事、メイドやボーイ達は、朝の内にネイサンから強く言い聞かせられていた。
昼にプルーフィアが神へ祈りを捧げるが、何が起きても他言無用だと。寧ろ一言でも洩らす者は領主の館で働く資格は無く、家族で有ろうと話をしたら処罰の対象になると。それが嫌なら今日は庭には近付かず、目を向ける事もするなと、きつくきつく言い渡されていた。
結局儀式の場には館の全員が集まって、その光景を見る事となった。
神の奇跡。それ以外に言い表す言葉の無い神秘なる出来事。
「嗚呼……神様」
「プルーフィア様は神子様なの?」
そんな声がメイド達の間から漏れ聞こえてくる。
リリカもシオンもその言葉を否定出来ない。
見守る彼ら彼女らの間には、静謐な祈りの空気が流れていた。
~※~※~※~
「見た? 見た? どう? 見たよね!
ララィラーラ様にちゃんと受け取って貰えたわ! 私の魂の記憶に間違いは無かったのよ!
神様の像まで持ってかれちゃったけど、どうするのかしらね?
でも今日から忙しくなるわよ! だってララィラーラ様はちゃんと居たんだから!」
頭のふらつきが直ってから、皆の前で力説した。
ここが原作と同じ世界だと分かったなら、一時だって休んでなんて居られないと。
でもどうしてか、皆しんみりとした様子で、潤んだ目を私へと向けている。
「プルーフィア。神様は何時でも見守ってくれていたのですね」
お母様も変な事を言い出した。
「見守ってなんて居ないわよ? 太陽神ララィラーラ様は上の方の神様だもの。お供え物は受け取ってくれても、それだって太陽が一番高い所に在る時だけ。多分、今お祈りしても、もう受け取っては貰えないわ。
太陽神ララィラーラ様、月神ルーナ様、星々の神リンディラ様、大地の神レゾフォス様、虚空の神ロシュト様の五柱が最上位の神様達ね。言ってみれば王様なんだから、細かい事に構ってなんてくれないわ。
そういう身近な神様は、職能の神エリーン様だとか、商売の神シムビス様、それに生命の神エイラール様とか豊穣の神レジム様ね。名前も知らずに祈っても、その御威光を示して下さるのだから、とても慈悲深い神様達よね。
――うん、私は聖神ラーオ様なんて知らないの。今聞いた事が教会の耳に少しでも入れば、ここに居る全員、神問裁判に掛けられてしまうわね。多分教会の中に、雷を発生させる仕組みが有るのよ。
だから、今見聞きした事は絶対に内緒。家族にも内緒。内緒の話だけどなんて言って話すのも駄目よ。分かった?」
分かったと訊いているのに、皆して私を拝むのは何故だろう。
兎に角こうして、初めての実験にしてお祈りは大成功を収めたのである。
成功するって皆信じてくれていたのか、お昼ご飯にはケーキも付いてきたよ。
でも誰なんだろう。練習で作ったララィラーラ様神像を、衣を付けて油でからっと揚げようなんて考えたのは。
御蔭でちょっとそれが出て来た夕ご飯は、皆微妙な顔付きをしていたよ。
葱坊主って、食べれるらしいですね。知らなかったよ。




