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洞を穿ちて察するが如く 氷の解けるが如く  作者: みれにあむ
第一部 王国記篇  第一章 神の名前と祈りの作法
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(15)悪役令嬢の家庭環境

 そりゃ、悪役令嬢になる地盤は有った訳ですよ。

 ネイサン叔父様も加えてのそこからの話は、予めお父様から話を聞いていたからかさくさくと進んで行った。

 不思議なのは、朝には通らなかった私の提案が殆どそのまま通った事だけど、ネイサン叔父様の言葉で納得が行った。


「兄貴は格好を気にし過ぎだ!」


 やっぱりお父様は格好付けらしい。

 ネイサン叔父様は、地道に泥臭く何でもやらなければならないと理解している感じがする。

 でも、露見するのは論外とも思っているらしくて、何かいい手は無いかと私に聞いてきた。

 何かと言えば、グリムフィード領に入って来る東西二つの山の口の、防衛についての話だ。

 もしもグリムフィード領が攻められるとして、迎撃するのはこの山道が最も都合が良いが、私の魂には誰にもばれない方法に心当たりが無いかと。


「夢物語になるわよ?

 山の神様に毎日お供えをして、山の神様と契約が出来れば、落石で追い払ってくれるかも知れないわ。

 そもそも神様の名前が分からないし、何時何処でどの様にお祈りして、何をお供えすればいいかも分からないから、お供え物を受け取ってくれる条件を見付けるのと、名前を教えても良いと思って貰えるのに、何年掛かるかも分からないけどね。

 でも、神様と懇意になれば、これからもずっとグリムフィードは安泰ね」


 朝の様子を考えると、お父様は二の足を踏むと予想が付いたけど、思った通りネイサン叔父様は快諾した。


「馬鹿な!? 聖神以外に祈ればそれだけで刺激するぞ!?」

「馬鹿はお前だ! 奴らはラーオの名はおいそれと口にしてはならないとか抜かして、祝福を受ける時も職の神と祈らせるだろうが! 当然聞かれたらラーオに祈っていると答えるに決まってるだろう!?」


 成る程成る程。ネイサン叔父様の言葉は色々と為になる。

 でも、どうやら私には常識が足りないのでは無いだろうか?

 街へ行くのも必要だけど、メイドやボーイ達とももっと話をしないと駄目じゃない?


 そんな事を考えている間にも話は進んで、ダンジョンの一般開放のコンセプトも決まって、でも最後に再び私へとバトンが渡される。


「さて、色々方針は決めたが、脱出路ってのがまだだよな?

 そこでこれだ、この地図を良~く見て、何か気付かないか?」

「?? グリムフィード領と魔境の一部だけよ?」

「そう、その魔境部分をこうもっと良く――」

「? ……!? あ! そのふにゃふにゃの枠線、もしかして枠線じゃ!?」

「それだ! これは枠線じゃ無い。大河グラウプルの流れなのさ」

「え? 川?」

「このままグラウプルの流れのままに東へ行くと海に出る。少し北上すればアクトー侯爵領の港町だな」

「おお!」

「いや、そんな簡単な話では無い。魔境を流れる大河は当然それに見合った魔獣や魔魚が現れる。そんな所を行く船は誰にも作れん。そこから逃げる事など出来無いのだよ」


 それで私がネイサン叔父様と話をしてたら、やっぱりお父様が入って来ると話は止まる。

 私よりもネイサン叔父様の方が上手く話してくれそうだから、私は口出ししないけど、確かにこれではお母様も安心出来なかった筈だ。

 此方は真剣に話しているつもりなのに、微妙に意味の無い躱し方ばかりされていては、心が通じているとは思えなくなる。


 でも、そんな事はネイサン叔父様も分かっていた。


「……兄貴はもう黙っとけ。そんな事はプルーフィアも分かって言ってんだよ! 今出来ない? 当たり前だ! さっきの山の神と同じで十年先を見越して言ってるって分かれ!

 俺はプルーフィアの言う事を信じたぞ? まぁ八割は信じた。八割も信じたら危機感しか無いだろうが!

 王都の騎士が五十階層有るダンジョンで鍛えているなら、対抗するなら六十階層七十階層のダンジョンで鍛えなければならない。まぁ納得だよな?

 大河の辺りと七十階層の底とを比べてどっちが危険だ? 俺は当然ダンジョンだと思うぜ?

 じゃあそんな大河に行くのも後込みする体たらくで、どうやって王都の騎士に対抗するんだ?

 そんな事出来っこねぇから何とか逃げる方法を探してるんだろうが!

 兄貴が言う様な領の騎士団で追い返すってのはな! 百階層近いダンジョンに領の騎士を放り込んで鍛え上げたなら何とかなるかもって奴だろうが! どっちが現実的か言ってみろ!」


 うん、ネイサン叔父様の言う事は分かる。何が問題なのかを明らかにして、急所を押さえて解決策を考えてくれている。それは私と同じ考えだから。

 お父様の振る舞いは理解出来ない。これが問題だと伝えているのに、口を吐いて出て来るのは何が問題かを忘れたかの様な目先の事ばかり。

 一緒にしたくは無いけれど、前世の赤石祥子が経験した、疫禍の中での地獄の様な状況を思い起こさせた。


 疫病が発生すれば隔離が基本だ。時代によっては疫病が発生したなら村毎焼き捨てるという事も行われただろう。隔離で済んでいるのは医学の進歩と言う他は無い。

 疫病の感染者を検査で特定出来るなら、必要な人だけ隔離して、感染していない事が明らかな人は通常通りに社会を動かしていく事が出来る。

 隔離されている人にしっかり休業補償が出るのなら、隔離を拒否して疫病を散蒔く事も無い。

 この三点が、疫禍に対して押さえておかなければならない急所だった。


 多くの外国ではこの三点をしっかり押さえた施策を採ったが、赤石祥子の国は違った。

 全ての元凶に疫病の流行が有るのに、封じ込めるどころか拡散する施策を採った。

 身体的接触の多くない民族性故か、それとも他にも理由が有るのか、感染者数は波の様に増減を繰り返したが、その度に規模を拡大していった。


 押さえるべきを押さえていないからだ。

 そして赤石祥子が死んだ後も、恐らく同じ事を繰り返したのだろう。

 対策が対策になっていなければ、再発するのは当然である。


 翻ってグリムフィード領の問題はどうだろう。

 悪意を持って攻め入ってくる、遥かに格上の騎士達だ。

 実を言えば、接敵せずに逃げる以外にも、幾つか手立ては有ると考えている。

 一つはアクトー侯爵の寄子から抜け、王都の教会派に鞍替えする事。そもそも攻め入られる理由は無くなるが、王都教会派からは蔑まれ、アクトー侯爵からは憎まれ、結局グリムフィード領は立ち行かなくなるだろう。

 或いは、ネイサン叔父様の言う通り、領の騎士を王都の騎士など相手にならないくらいに鍛え上げるのも手だ。但しこれは百階層近いダンジョンを見付けなければ始まらず、また見付かるとも限らない。そういう意味で保留だ。

 教会の不正を曝いて貴族との繋がりを断つのも有効だろう。但しそんなねたを期待して計画など出来無いし、今考える事では無いのも確かだ。


 お父様は逃げ道の確保を否定しながら、ならばどう急所を押さえるかについては触れようとしない。

 何も起こりなどしないよと澄ました顔で言うけれど、それが楽観しているだけなら言い換えればそれは何も考えていないだけ。

 ……魂と繋がる前は、お父様は凄いと尊敬していたのになぁ。ちょっとがっかり。

 でも悲しい事に、お母様の心が壊れるままにしたのも、私が悪役令嬢になるしかなかったのも、このお父様だからこそなのだろう。


 お父様は少なくとも私達家族を愛しているとは知っている。

 だから決して悪人では無いけれど、こんな四方を囲まれた田舎では無く、中央に近い領地を受け持っていたならば、きっと無能の(そし)りを免れる事は出来無かったに違い無い。

 と言っても、例によって例の如くこんな展開にするつもりは無かったのですけどね。

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