(14)それは後のお楽しみ
あと三日でバレンタイン大佐の誕生日ですね。
お昼ご飯を食べた後に、お父様の執務室へと行く。
着いてみれば、私のお宝は、「プルーフィアの宝物箱」と書かれた木箱に入れられて、既に執務室の中へと運び込まれていた。
私はお父様に抱き上げられていたから、前を歩いていたネイサン叔父様が「お!」と声を上げて宝物箱を物色するのを見ていただけだけど。
「色々有るな。ん~、どういう基準で選んだのやら」
私の方を見もせずに、考え事が口から漏れている様に言ったから、その答えを返しておく。
「私の魂に見覚えが有る物と、魔力を帯びている物、それから直せば使えそうな道具よ?」
「ふ~ん……魂の記憶ねぇ?」
そう言ってネイサン叔父様が持ち上げたのは、奇しくも推定治癒ポーションの青い小瓶だった。
「そう、それ。私の魂はそれを治癒ポーションだと言うけれど、見たとしても此処とは別の国みたいなのよ。同じ小瓶をしてるのよ? 謎よね」
「謎と言う程でも無いぜ? 治癒ポーションだとかの作り方は、錬金術師の頭の中に浮かんでくるらしいかんな」
「じゃあ、やっぱりそれは治癒ポーションなの?」
「ああ。昔兄貴が山程仕入れた事が有ったからな。叱り付けて無駄な仕入れは止めさせたが、その時の余りだろ。中身が減ってるから、誰かがちょっとした怪我で使って、残りは使えるかもと取っといたんだろうな」
幾つかの疑問が解決した。
生産職での品物の造り方は、頭の中にインストール方式だ。
原作知識で言えば、多分それは基本レシピで、アレンジこそが腕の見せ所と思うのだけど、そこはまだどういう状況か分からない。
職能の神エリーン様や、生産の神でも有るシムビス様のように、工夫を凝らしてこそ技が生きるとの教えなら兎も角、聖神ラーオ様の教えから外れるなどとんでもないとの教義なら、創意工夫の生きる道が無さそうだ。
「良し! じゃあ、これは俺が鑑定して貰ってきてやろう!」
「駄目よ! それは私が鑑定する時のお楽しみなんだから」
ちょっとぼーっとしている間にネイサン叔父様が余計な事を言い出したのを慌てて止める。序でにお父様に床へ降ろして貰った。
ネイサン叔父様は良く分からないっていう顔をしていたから、私は神様の祝福について説明した。
色々秘密は有るけれど、これは領の地力を底上げする為に必要となる知識だから、どうせ何れ伝えていた話だ。
「鑑定は商売の神シムビス様の祝福だから、シムビス様を祀って祈りとお供えを捧げれば、きっと祝福を賜ると思うわ。
もしかしたら違うかも知れないけれど、それも含めて試してみないと分からないわね」
ネイサン叔父様はお父様に視線を向けるけれど、お父様にもこの事は言ってない。
「私は聖神ラーオ様なんて知らないわよ?
十二歳の子供に職能を与えて下さるのは職能の神エリーン様。
治癒の力を司るのは生命の神エイラール様だし、豊穣を司るのは豊穣の神レジム様。
雷の力を司るのは雷の神ディーン様よ?
もしかしたら私の魂が居た場所が、此処とは良く似ているけれど聖神ラーオ様が居なかった世界なのかも知れないけど、でも、私の魂は聖神ラーオ様なんて知らないの」
ネイサン叔父様が蟀谷を揉む様に顔を手で覆って嘆息した。
「こいつは思っていたよりも、えげつない話が出て来たな……」
「教会を追い落とす強力なネタにはなるかも知れんが……」
深刻な顔をしている二人を、思わず呆れた目で見てしまう私。
「どうして難しい顔をしているの? そんな大した話をした訳じゃ無いわ?」
「あ? 教会に正当性が無いって話だろ?」
「行き成りそんな話に持って行ったら、直ぐに攻め込まれて終わっちゃうわよ。
い~い? 今の話はね、職能を賜るのも、治癒の力を持つのも、聖神とは違う神なんだから、教会を潰しても問題無く祝福が得られるって言う事なのよ?
それと神様が教会を庇護してないっていうのも大事な事ね。神様が相手だなんて、そんなのやってられないわ。
でもそれだって何度も言ってるけど、まだ確かめた訳じゃ無いのよ?」
「いや、しかし確かめると言っても――」
「もー、どうして神様の名前が伝わってると思うのよ。本当の神様なら人の姿を取って降臨もするし、お供え物を捧げたらちゃんと受け取ってもくれるわよ?」
「は? 受け取る?? どうやって!?」
「それもお供えすれば分かるわよ、もー。
明日はお昼の前にララィラーラ様へのお祈りとお供えね。ララィラーラ様の神像なら直ぐに作れるし、お供え物も特別な物は要らないわ。
お庭の真ん中に集合だからね!」
かなり強引に話を進めた感じがする。
うんうん、五歳児なんだから大丈夫。五歳児は唯我独尊。勢いで誤魔化そう。
でも、どうやら聖神ラーオ様はお供えを受け取らない。
益々聖神ラーオ様の実在が疑わしくなるけれど、それはそれで色々と疑問が湧いてくる。
教会の人達は、姿を見せてくれない神様という存在をどう思っているのだろうとか、
本当に神様が居ると思っているのか、それとも居ないと思っているのかとか。
まぁ、聖神ラーオ様の裁きが雷という辺りで、十中八九神の不在を知りながら神の名を利用しているのだろうけれど。
一番面倒そうなのは、エリーン様やエイラール様の存在を知りつつ、それを隠して開き直っている場合ね。その場合はきっとのらりくらりと逃げられて、口八丁で逆に窮地に立たされそう。
でも、ネイサン叔父様の反応からすると、この国には本当に神様の名前が伝わって無くて、それでも職能の神に祈れば祝福を得られたから、辻褄合わせで聖神ラーオという存在を考え付いたなんてパターンも有り得そう。
その場合は、神の奇跡を目の当たりにすれば、罪の意識に慄いてくれるかも知れないけれど。追い詰められたなら悪足掻きもしそうだから、どっちもとっちかも。
何れにしても、私が神様の実在を確かめないと始まらない話だ。
「じゃあ、私は明日の準備をしておくわ!」
ふむっと気合いを入れて準備に出ようとしたのに、
「いやいや、プルーフィアに来て貰ったのは、朝の話の続きなんだよ」
またお父様に捕まえられてしまったのだ。
わたしはきっとチョコを買うでしょう。
自分で食べる為に!




