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第4話 夢の中で会いましょう

 闇夜の空を、複数のホウキに乗った人物達が滑空する。

「さあ! 愛しの卒業校に、堂々と凱旋(がいせん)しようじゃないか!」

 そんな声と共に、夜空に哄笑(こうしょう)が響いた。


 実結がゴールドドラゴンのコガネと契約してから、三週間が経過していた。五月に入り、今日はゴールデンウィークの三日目だ。実結はこの世界に来た当初、もといた世界と祝日がほとんど同じことに驚いたが、今では当然のように受け入れている。

 一日目は自宅に戻り、ゆっくりして、二日目は友人達と遊んだ。その後は特にすることが無かったので、学園の寮に戻ってきたのだ。実結以外にも、似たような理由で既に寮に戻ってきている生徒は少ないものの、ある程度はいるし、学園に教師は四分の一ほど来ている。


 程よい人数が学園の敷地内にいる日。だからきっと、彼らはこの日を狙ったのだ。


 夕食を食べ終えて、寮の二階にある自室で学園の図書館で借りてきた本を読んでいた時、学園の方からガラスが割れるような音が響いた。実結は驚いて窓を開けると、学園の敷地内を取り囲んでいる結界の一部に、大きな穴が開いているのを見つけた。大きさは、人一人が余裕で通れるくらいの大きさ。

 その直後、寮の一階にある広間から、悲鳴やざわめきが聞こえて、実結は静かに自室から出ると、そっと階段を下りる。広間の前まで来ると、こっそりと広間の中の様子を伺う。すると、見覚えのない後ろ姿の男と、怯える女子生徒数人、その女子生徒達を守るように立つ寮母が対峙していた。

「お前達は人質だ。大人しくしていれば、手は出さない」

 低い声で言う男に、寮母は杖を向ける。

「その程度の脅しには、決して屈しません」

 そう言って寮母は男に向けて魔法を放とうとするが、杖から魔法は出ない。戸惑う寮母だが、すぐにある可能性を見出す。

「まさか、あなた……」

 寮母の鋭い眼差しに男は口の端を吊り上げる。

「そうだ。俺の仲間に、“封印魔法”を使える奴がいてな。残念だが、ここに俺達以外で魔法を使える奴はいない。無論、お前もだ」

 そう指でさされて、寮母は悔しげな顔で杖を下ろす。魔法が使えなければ、抵抗することも出来ない。ここにいる生徒を守る為には、今は大人しくしているしかないだろう。


 実結はそこまで見届けると、再び静かに自室に戻った。

 その数分後、学園内の放送で、十人のグループによって、学園が占拠されたことを知った。彼らは十年前、度重なる魔物への暴行、ホウキの危険飛行、学園の備品の闇ルート販売などによって、退学処分になったという。

 そして彼らの目的は、学園長の解雇と、退学までに支払った学費の百倍を支払いを求めるというものだった。

 それを聞いた実結は呆れてため息をついた。完全にあちらの方が悪いじゃないか。わざわざ金の為だけに学園を占拠したという頭の悪いやり方にも呆れる。だが、やはり封印魔法は厄介だ。

 封印魔法とは、指定した範囲の者全ての魔力を封印して、魔法を使用できなくさせる魔法だ。魔力を封印できる相手は、自分と同等、あるいはそれ以下の魔力の持ち主だ。学園の関係者の魔力は全員がA-以上だったはずだから、封印魔法を使える者は、その程度の魔力値はあるということが分かる。

 実結は無論、封印魔法が効いていない。封印魔法を使った相手が特級でない限り、彼女の魔力を封印することは不可能だ。だが、そう簡単には動けない。

 ここで魔法を使えば、魔力がA以上であることが周囲に知られることになる。せっかく魔封具を使って偽装しているのに、目立つことはしたくない。それに、グループの中のリーダー格の男は、数人の女子生徒を連れて一つの教室に立て籠もっているという。今下手に相手を刺激して、その女子生徒に何かあれば、さすがに申し訳ない。

 出来るだけ目立たず、学園を占拠したグループの男達を拘束する必要がある。だが。

「さすがに今日、動くのは早すぎるな……」

 準備が整っていないのもそうだが、学園を占拠したグループが警戒していないわけがない。学園を占拠した動機や、要求するものは馬鹿馬鹿しいが、魔力値が比較的高いことと、封印魔法を使える者がいるのは本当だ。自分が特級だからといって、なめていたら危険だ。

 自分がやるべきことは二つ。学園を占拠したグループ全員を拘束する。そして、学園敷地内にいる人間にかけられた封印魔法を解除することだ。どちらも大規模な魔法を発動させる必要があるから、一人で準備するには、骨が折れる。誰かに手伝ってもらった方がいい。手伝ってもらう相手など、最初から決まっているが。

「……シロガネさん、今夜夢の中で会いましょう」


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