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第33話 これでおしまいにしましょう

 一方で(なつめ)は、姉を前にして未だに戦おうとはしていなかった。

 甘いのは分かっている。だが、それでも聞きたいことがあった。

〈人間が大嫌いだった姉さん達が、人間と手を組むなんて、何か心変わりでもしたんですか?〉

 棗の問いに彼の姉は、堪えきれないといった様子で、大声で笑い出した。

〈あはははっ! あの人間達? あんな使えないゴミで魔族に挑もうとしていたから、あまりにも不憫で、利用してあげることにしたのよ。役目が終わったら、もちろん殺すけど〉

 棗は頭を抱えたくなった。やはり、自分が甘かった。この程度の年月で変わるわけがなかった。姉がこれならば、他の家族も、変わってなどいないだろう。

 棗の様子を見てある程度察した彼の姉は、口元に笑みを浮かべたまま呟く。

〈……なるほど? 一応、家族のよしみで話し合いで解決しようとしてくれたのね? でも、そんな気遣いは無用よ!〉

 すると棗の姉は、邸の中に向かって大声を上げた。

(お父様、お母様! 出来損ないの弟が帰ってきたわ! みんなで“歓迎”しましょう!)

 その直後、邸の中から六人の魔族が出てきた。彼らが棗に向けている表情は、(さげす)みと(あざけ)りで出来ている。

 美しいのに醜悪(しゅうあく)な棗の家族の顔に、実結(みゆ)は既視感を覚えた。

 ああ、本当に似ている。自分の家族や小学校の同級生とよく似ている。あまりに似すぎていて、吐き気がするほどに。

 そして実結の遥か上の方から、棗の声が降ってきた。

〈……すみません。せっかく時間を頂いたのに、無駄でした。なので、予定通りに行きましょう〉

「分かりました」

 少し寂しさを滲ませる声に、実結は頷く。棗がそう決めたなら、こちらに異論はない。


 一方で、棗の家族の一人が、棗の隣にいた実結の存在に気づく。

〈……ん? あの人間……〉

 周囲の魔力の濃度が高くて、すぐには気づけなかったが、この人間、魔力が異様に高い。いわゆる特級というやつか。魔力の高い人間と契約したから、愚かな末子は自分達の前に現れたのか。

 確かにあの魔力は自分達を遥かに凌ぐ。人間だからと侮っていたら、足元を掬われるだろう。だから、まず最初は。

〈先にこいつを殺すぞ。人間の方は後回しだ!〉

 当主である棗の父がそう言った直後、棗の家族が一斉に棗に向かって駆け出す。

 棗はその様子を凪いだ瞳で眺めている。

 こちらを先に殺そうとしているのは、実結の方が強いと思っているからだ。確かに実際その通りだ。実結の方が魔力値が高く、脅威であるだろう。だが、実結だけに任せる気などない。出来るだけ、自分がこの一族を滅ぼす。

(プルーカン)さん!」

〈はい!〉

 実結の声を合図に、棗の体に実結の魔力が流れ込む。

 棗は人間として生きることを止めて、魔族として。プルーカンとして実結と契約した。

 人間と契約した魔族は、人間からの魔力の還元を受けられる。つまり、棗の魔力は実結の魔力を上乗せされて、その場にいるどの魔族よりも魔力値が高くなった。

 棗の魔力値に最初に気づいた彼の兄が、信じられないと言ったように顔を青くする。

(あ、ありえない……一族の汚点であるお前が一番、魔力が高いなんて……)

 やがて他の家族もそれに気づくが、既に遅い。

〈そういう風に思い込んでいるから、あなた達は僕達に滅ぼされるのです〉

 家族に向けて棗が放つ言葉は、とても冷たい。

 祖先には少し申し訳ない。だが、ここで彼らを終わらせなければ、再び人間と魔族は戦争を初めてしまう。それは祖先も望んでいないだろう。

〈一族殺しの罪は背負っていくつもりです。なので、これでおしまいにしましょう〉

 すると、今まで黙っていた家族が棗を鋭い眼光で睨みつけ、叫んだ。

〈私達を、なめるなぁ!!〉

 そして棗に向かって彼らは駆け出す。

 昔の自分だったら、こんなことをまず言えないし、家族全員が向かってきたら、何も出来ずにずっと謝り続けていただろう。だが、今は違う。

 この姿は嫌いだ。家族から認められない、孤独で無能の象徴である姿だから。それに、この姿だと。


 相手の体を引きちぎり、首を引っこ抜くような野蛮な戦い方しか出来ないから。


 棗は向かってきた家族の腕や足を、容易く引きちぎった。何度も何度も引きちぎり、絶叫が響くとその首をぶちりと引っこ抜く。

 戦いは、実結が介入する間もなく終わった。

 残ったのは、ばらばらになった魔族の亡骸と、そこから飛び散った大量の血。そして、その中心で返り血を浴びた棗だけだった。


 家族全員が死んだことを確認すると、棗は元の人間の姿に変身し、後ろにいた実結に微笑む。

「……それじゃあ、帰りましょうか」

 その日、棗の一族は棗と実結以外の、誰にも知られることなく、滅亡した。


 それから間もなくして、一族が滅亡したことを知った犯罪管理局の管理官達は、疑似特級を用いた魔族の皆殺し作戦を中止した。




「―――というわけで、皆さん、これからよろしくお願いしますね!」

 にっこりと笑みを浮かべて言った棗に、ラヴィ達実結と契約した魔族達はあからさまに嫌な顔をしている。

 この男が魔族だと、魔族である自分達も気づけなかった。だが、今となってみれば、呪文を紡がずに魔法を放てるのも、実結が特級だと気づくにも、彼が魔族であると証明しているものだった。

「過去のしがらみも解消できましたし、ミユさんと契約も出来ましたので、これからは後腐れなく戦えます!」

 棗の目はきらきらと輝いている。彼が戦闘狂となったのは、苦しかった幼少期の反動みたいなものだから、致し方ないと思うべきだろう。

「さて! では早速ですが、誰か僕と戦ってください! 最近この姿で戦っていないので、感覚を取り戻す為にも是非!」

 いろいろ吹っ切れた様子の棗を、実結は眩しそうに見つめていた。


 棗もなんとかしたのだ。ならば自分もそろそろ、家族と向き合わなければ。


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