第23話 おかしいと思いませんか?
アレクサンド・ドゥクスが、この世界に違和感を抱き始めたのは、彼が十歳の時だ。
大和の遥か西に位置する“アントール”という国の、名家であるドゥクス家で彼は産まれた。ドゥクス家では、子どもが十歳になると、邸の地下室で魔力値を測る。子どもの魔力値を知るのは、父と母だけで、他のメイドや親戚には一切知らせないのが、暗黙のルールだった。
そこでアレクサンドは、魔力値を測る水晶を破壊した。それが特級の証であることを知っていた彼の両親は顔を青くした。
よりにもよって、自分の子どもが特級だなんて。夢だったらどれほど良かったか。
だが、アレクサンドは他人の子どもじゃない。自分達の子どもだ。恐ろしい化け物だなんて、思うわけがない。ただ、彼の将来がかなり心配になった。
母はアレクサンドの体を優しく抱きしめた。
「大丈夫よ、あなたは何も悪くないわ。あなたが誰にも特級だと気づかれないように、立派な大人にしてみせるから……!」
その横で、父も涙を流しながら、母と同じ意見だと言うように頷いている。
そんな中でアレクサンドは、疑問に思った。
どうして特級であることを隠して生きていかなければならないのだろう。
その翌日、アレクサンドのもとにマギステルがやってきた。アレクサンドの父が呼んだのだ。マギステルはアレクサンドの体に魔法陣を描き、ペンダント型の魔封具を渡した。魔力が抑えられたことにより、アレクサンドの両親はとても喜んだ。
マギステルが帰ろうとした時、一人アレクサンドは彼に駆け寄って尋ねた。
「何も悪いことをしてないのに、魔力を封じるなんて、おかしいと思いませんか?」
アレクサンドの問いにマギステルは、少し間をおいて答えた。
「ここで儂が肯定したら、儂のやっていることは悪と成り果てる。……逃げなのは認めるが、否定もせぬ」
聡いアレクサンドはマギステルの言うことも理解できた。だから、それ以上は何も言えなかった。
それから五年後、十五歳になったアレクサンドは、ティラエア中を旅していたルーと出会った。会った瞬間に互いに特級だと気づいた。二人は会話が弾み、しばらく話していた。そして、ある時、アレクサンドはルーに尋ねた。
「どうしてボク達は、特級であることを隠して生きていかなければならないのでしょうか」
その問いにルーは答えられなかった。元凶が別にいるとはいえ、このようになったのは、自分にも原因がある。数百年後の特級が影響を受けることなんて、その当時考えていなかったし、考える余裕もなかった。
ルーの沈黙に何かを察したアレクサンドは、ルーに謝った。
「すみません。今のは、忘れてください」
それ以来、特級の過去に関しての話は、どちらもしなかった。




