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第21話 人類の殲滅を始めよう

 ついに、その日がやってきた。

 アレクサンド達に言った約束の一週間が経過して、実結(みゆ)は緊張の中、放課後の学園の図書館で待っていた。

 あの日からずっと考えていた。自分は、どうすればいいのか。

 アレクサンド達についていってもいいだろう。きっと特級(とっきゅう)が嫌悪されることのない世界になる。そうすれば、特級であることを隠す必要はなくなるのだ。

 ルーから話を聞いた後もしばらく、実結はまだ迷っていた。“特級”という言葉がなかった時から、人間は特異な存在を恐ろしく思い、排除しようとするのは変わらず、結果的にルーの親友が殺され、一国を滅ぼす結末に至った。

 これだけで考えたら、アレクサンド達についていった方がいいと思ってしまう。だが、彼は言ったのだ。


 ―――犯罪管理局の管理官はもちろん、この世界のほぼ全ての人間を滅ぼす。ここまで特級への嫌悪が強くなっている時点で、それ以外に選択肢はない


 犯罪管理局の管理官。つまり、棗は殺す対象になってしまう。彼は管理官でありながら、自分を幽閉しようとはしなかった。むしろ、信用してくれている。それに、“ほぼ全ての人間”がアレクサンド達の中でどこまでを指すのかが問題だ。

 その範囲によっては、親友のカンナもユリもアカネも彼らに殺されるかもしれない。実結はそれが怖かった。もしもアレクサンド達が「君の親友ならもちろん滅ぼさない」と言ってくれたなら、自分は彼らの手を取るかもしれない。


 その時、唐突に周囲の空気が変化した。結界か空間魔法が使われ、周囲から人がいなくなる。来る。

 複数の足音がこちらに向かっているのが聞こえてきた。そして一週間前と同じ三人がやってきた。

「一週間ぶりだね。早速だけど、この前の返事を聞かせてくれるかな」

 アレクサンドの言葉に、実結の緊張が一気に高まる。ここで返事を間違えてはいけない。

 実結は一度深呼吸をして心を落ち着かせる。そして彼女ははっきりとした口調で言った。

「私は、あなた達とは一緒に行きません」

 一瞬時間が止まったように、静まり返った。緊張感が実結達を支配する。

「理由を聞いてもいいかな」

 アレクサンドに静かな声で尋ねられ、実結の心臓が跳ね上がりそうになるが、努めて冷静に答える。

「……特級が堂々と生きられるように人間を滅ぼす。それが過去にただの人間が特級にしたこととあまり変わらない気がしました」

 話している間、実結の頭の中に浮かんでいたのは、ルーの目の前でルクスが殺された情景だ。

 確かに、当時の人間がルーを恐れて殺そうとしたのは、あまりに身勝手で許されないことだ。だが、アレクサンド達がやろうとしていることもまた、“自分達だけの為の身勝手なこと” だと思ったのだ。

「なので私は、あなた達とは一緒に行きません」

 実結はもう一度、はっきりと拒絶した。

 それを聞いていたアンゼリカの魔力が高まり、ソフィアは戸惑った様子を見せる。その中でアレクサンドは変わらず静かな笑みを浮かべて頷いた。

「……分かった。それが君の答えなら、ボク達はそれを尊重しよう。だが、君と平和に話すのは、これが最後だ」

 そう言ってアレクサンド達は姿を消した。その後すぐに、結界か空間魔法が解除されたのか、図書館の中に人の気配が戻る。実結は恐怖で座り込みそうになるが、後ろから体を支えられた。振り向くと、いつの間にかシロガネがいた。

「シロガネさん……?」

 どうしてここにいるのだろう。

 そんな実結の問いを察して、シロガネは答える。

「特級達の話は、ルーさんから聞いているよ。それに、君の決めたことも」

 そこで実結は気まずくなってうつむく。そういえば、ラヴィを始めとした自分が契約した魔族達に、このことは話していなかった。これはあくまで人間同士の問題だ。だから、魔族達まで巻き込むのはどうかと思って、事態が落ち着くまで話さない方がいいと考えたのだ。

「とりあえず今夜、君の家の前で話そう。契約したみんなと一緒にね」

「……はい」

 その時のシロガネの顔を、実結は見られなかった。


 その日の夜、実結はラヴィ達を久しぶりに集めた。全員がルーから話を聞いたらしく、実結に対して複雑な顔をしていた。

「……ごめんなさい。みんなを巻き込むべきではないと思って、何も言わなくて」

 謝る実結にラヴィが声を上げた。

〈オレ達はミユの仲間だぞ! もっと頼ってくれよ。巻き込んでくれよ!〉

〈そうです! 私達は自分の意思でミユ様と契約したのです。ですから、もう少し私達に甘えていいんですよ〉

 プルムも実結の手を取って真っ直ぐな声で告げた。他の魔族も、どうやら同じことを思っているようだ。

 実結は目頭が熱くなった。この世界に来てから、自分は本当に恵まれている。こんなにたくさんの仲間がいる。それは分かっていたはずなのに、自分はどこかで、あまり頼ってはいけないと線引きしていたのかもしれない。こちらの世界に来るまでは、誰かに頼ることさえ出来なかったから。

「……みんな、ありがとう」

 感謝を述べて、涙を軽く拭った後、実結は真面目な表情になる。

「お願い、力を貸して!」

 実結の言葉に、ラヴィ達は大きく頷いた。


 実結との交渉が決裂したアレクサンド達は、フォーティスが待つ廃村へと戻ってきた。戻ってきた彼らのもとに、実結がいないことに気づいたフォーティスは、アレクサンドにからかい半分に言った。

「返事を聞きにいった女に、フラれたのか?」

 アレクサンドは眉を下げて苦笑する。

「ああ。こうなる可能性は充分にあったからね。想定の範囲内だよ。少し、残念だけどね」

 彼女には、出来ればこちら側に来てほしかった。そうすれば、ルーも共に来てくれる可能性が高かったから。だが、過ぎたことを悔やんでも仕方ない。

 アレクサンドは瞼を閉じて、一度深呼吸をした。そして次に瞼を開けた時、彼の瞳は()いでいた。

「ただ今より、人類の殲滅(せんめつ)を始めよう」

 それが開戦の合図だった。


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