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第20話 一緒に行ってやる

 実結(みゆ)の提示した一週間の間、アレクサンド達はある場所に来ていた。

「ほんとにここにいるの?」

「ああ、間違いないよ」

 女の問いにアレクサンドは頷く。だが、まだ女は疑いの眼差しで周囲を見ている。

「ほんとにほんと? こんなところに住んでるわけ?」

 彼らが今いる場所は、崩れかけた廃墟が点在するところで、おおよそ人も魔族も住んでいるようには見えない。

 それでも、アレクサンドは再び頷く。

「もちろんだよ、アンゼリカ。前に彼とはここで会っているんだ。ずっとここで待っているって、彼は言ってくれたからね」

 アンゼリカと呼ばれた女は、アレクサンドをじっと見つめる。アレクサンドの瞳に不安などは映っていない。むしろ、確固たる自信に満ちている。ならば、本当にそうなのだろう。

 アンゼリカの顔から疑いが消えたことを確認すると、アレクサンドは安堵したように微笑み、廃墟の点在する道を歩き出した。

 数分歩いていると、道の突き当たりに比較的崩れていない家が見えた。玄関の前まで来ると、アレクサンドは足を止めて、アンゼリカと少女も足を止めた。すると、少しして玄関の木の扉が、音を立てて開く。そこには三十代くらいの男がいた。

 身長は二メートルくらいで、何も着ていない上半身は筋骨隆々である。はいているズボンも、様々な色の布で多く継ぎはぎされていて、元の色が何かは分からない。

 そんな男の鋭い目つきに、少女は思わずアレクサンドの後ろに隠れた。すると、少女に気づいた男は呟く。

「……ガキもいたのか」

 そして少女の目線に合わせるようにしゃがんだ。

「怖がらせて悪かったな、嬢ちゃん」

 そんな男の真摯な態度に少女はアレクサンドの後ろからそっと顔を出す。男の目つきは鋭いが、優しさが宿っている。どうやら彼は怖い人ではないらしい。

 空気が少し和んだところで、アレクサンドが口を開いた。

「さて。君が前に言った条件の通り、二人仲間を連れてきたよ」

「……ああ、そうだったな」

 アレクサンドの言葉に、男は少し面倒くさそうに頭を掻く。そんな二人のやり取りに、アンゼリカが首を傾げる。

「なに? どういうこと?」

 そんなアンゼリカにアレクサンドが答える。

「実は君と会う前に、彼と会っていてね。彼も誘ったんだけど、ある条件を出されたんだ」


 ―――仲間を二人は連れてこい。そしたら、ついてってやるよ。


「いくら特級(とっきゅう)だからって、たった二人で全人類を滅ぼすなんて、馬鹿げた話に乗るわけにはいかないからな」

 男が溜息交じりに言うと、当時のことを思い出したアレクサンドが苦笑いを浮かべる。

「あの時はボクもまだ考えなしに動いていたからね……」

 それでも、男はその後のアレクサンドの言葉を覚えていた。


 ―――なら、ボクが仲間を連れてくるまで、待っていてほしい。必ず連れてくるよ。


 そう言ったアレクサンドの表情は真剣そのものだった。だから男は彼を信じて待つことを決めたのだ。


「それで、君も一緒に来てくれるかな」

 あの時と同じ真剣で真っ直ぐな表情に、男は思わず小さく笑みをこぼす。

 きっと、彼の為に、己の力はあったのだ。人を滅ぼすことしか出来ない力を、彼は必要だと言ってくれた。ならば、自分はそれに応えよう。

「……約束破るわけにもいかねえ。いいぜ、一緒に行ってやる」

 そう男が言った瞬間、アレクサンドの目が分かりやすいくらいに輝く。

「ありがとう! 君ならそう言ってくれると信じていたよ」

 アレクサンドに満面の笑みで言われて、男は少し照れくさくなって顔を背ける。この毒気の抜かれるような笑顔は、自分には(いささ)か眩しい。

 男はそんな気持ちを振り払うように軽く咳払いをすると、アレクサンド達の方に向き直る。

「そういえばまだ名乗ってなかったな。―――俺はフォーティス。お前達は?」

 そう言ってアンゼリカと少女の方を見る。急に話を振られて、きょとんとするアンゼリカと少女だったが、アンゼリカはにんまりと笑って自分の名前を告げる。

「あたしは須々木(すすき)アンゼリカ!」

「わ、私はソフィア。ソフィア・カントールです……」

 ソフィアも少し恥ずかしそうにしながらも、自分の名前を言った。

「アンゼリカとソフィアだな。……アレクサンド、四人になったし、このまま全人類滅ぼしに行くのか?」

 話を向けられたアレクサンドは、首を横に振る。

「いや、まだだ。明日、返事を聞きに行く女性がいるんだ。行動を起こすのは、彼女との話が済んでからだよ」


 ―――……一週間、待っていただけますか


 自分達に怯えながらも、流されずに、はっきりと待つように言ってきた少女。出来れば彼女とは敵になりたくはない。

 特級だからというのもそうだが、強い意志を持つ者ほど、自分達にとって恐るべき脅威になるだろうから。


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