表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/50

第19話 夢を見たんだ

「―――マギ爺……いや、マギステルさんは、僕がこの世界で生きていけるように、いろんなことを教えてくれたんだ」

 基本的な魔法はもちろん、幼い自分に勉学や家事、お金の稼ぎ方など、マギステルは本当の親のように教えてくれた。

 時々、魔力が暴走しそうになった時はいつも懸命に止めてくれた。肉体に直接魔法陣を描いて魔力を封じる方法も、彼が考えたものだった。


「マギステルさんとの日々はとても穏やかで、ずっとここにいたいと思うくらいだったんだ」

 懐かしむようにルーは遠くを見つめて微笑む。そこで実結(みゆ)は疑問に思ったことを口にした。

「……じゃあ、どうして旅に出たんですか?」


 ―――僕は“ルー”。ただの旅人さ。


 実結と出会った時、ルーはそう名乗った。出会ったのが三百年も前だ。弟子であるアプレが一人でいたことから、マギステルはおそらく亡くなっている。それでもマギステルの後を継ぐことだってできたはずだ。ならばどうして、ルーはマギステルと別れて旅に出たのか。

 実結の問いに、ルーは少し間をおいて、記憶を辿るように答える。

「……夢を見たんだ」


 ルーメンがマギステルと暮らすようになってから、十年が経過した。特別なことはないけれど穏やかな日々は、ルーメンにとって、とても心地良かった。この暮らしをずっと続けたいくらいに。

 だが、ある日の夜、ルーメンは夢を見た。それは、十年前のルクスと両親との幸せな日々の夢だった。


 ―――こんな幸せな日が、ずっと続いたら良いよな!


 そんな満面の笑みで言ったルクスの言葉で、目が覚めた。しばらくぼうっとした後、ルーメンは泣いた。

 ずっと来るはずのない、あり得ない幸せな夢は、彼にとって残酷でしかなかった。このままではいけない。それを暗に告げられた気がした。


 ―――俺達を覚えているのは、もうお前だけなんだ。だから、お前だけには忘れてほしくないんだ。


 ここに来てからも、ルクス達のことを忘れることはなかった。それでも、どこか遠い記憶になっていた気がする。

 ならば、今日が旅立つ時なのだろう。

 それからルーメンは自分の荷物をまとめ始めた。マギステルのおかげで、一人でもなんとか生きていけるはずだ。

 朝食を食べ終わった後、少ししてルーメンは荷物を持つと、入り口の扉の前まで行く。作業台で魔封具(まふうぐ)を作っているマギステルに向かって、ルーメンが旅に出ることを言おうとした時。

「―――行くのか」

 淡々とした問いが、マギステルから聞こえた。その表情は背中を向けられている為、分からない。

「……はい」

 少しだけ緊張しながらルーメンは答える。

「そうか」

 それでマギステルの言葉は終わった。自分を止める言葉もねぎらう言葉も、言われなかった。でも、ルーメンは分かっていた。彼はそんなことを言う人じゃないし、言われなくても彼が何を考えているかなんて、とっくに知っていたから。

「今まで、ありがとうございました!」

 深く頭を下げると、ルーメンは小屋の外に出た。少し涼しい朝の空気を吸い込み、ルーメンは歩き出した。


「旅に出て、外の世界を見ないといけないって思ったんだよ」

 そんなルーメンの言葉を聞いて、実結は納得した。

 彼は人並みに恐怖心があって、それでも逃げてはいけないと自分に言い聞かせて、何かを背負い続けようとしている。

 だからきっと自分は、出会った時からそんな彼を信じることが出来たのだ。

「さて。ミユちゃんが聞きたいことは大体話せたかな。……それで、君はどうしたいのかな?」

 ルーの問いに実結はすぐには答えられなかった。少ししてから、自分の考えを言う。

「正直、まだ分かりません。もう少し考えたいです。自分で決めたことに、後悔したくないですから」

 そう答えると、ルーは優しく微笑んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ