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第0-2話 ここに、ずっといたいです

「……別の、世界?」

 自分でも分かるほど震えている声で言うと、ルーは頷く。

「とても信じられないが、君はこの移動魔法で、世界を飛び越えてきたみたいだ」

 私も信じられない。自分があそこから別の世界に来たなんて。

 ルーは何かぶつぶつ言いながら、また本のページをめくっていく。そこでルーは何かに気づいて、顔を上げた。

「今なら、君を元いた世界に帰せるかもしれない」

「え?」

 思っていなかった言葉に私は驚く。そんな私に、ルーは目線を合わせて言う。

「君の反応を見る限り、君がいた世界に魔法は無いようだ。今まで魔法を知らなかった君が、この世界で生きていくのは難しいだろうね」

 そこまで言われて、私はうつむく。確かに、私はここで帰った方がいいかもしれない。でも私は迷っていた。あそこに帰ったら、私は最低でも三年、再び生き地獄にさらされる。誰も助けてくれない、あの地獄に。ここに残れば少なくとも、人間関係がリセットされる。

 私が悩んでいるのを察したのか、ルーは私を安心させるように微笑む。

「……まぁ、それを決めるのは、君自身だけど―――」

 ルーが言い切る前に、私はルーのローブの裾を掴んでいた。私が一番怖いのは、何があるか分からない未知の世界よりも、どうなるか想像できる変わることのない日常(じごく)だ。

「本当に、いいのかい?」

 そう尋ねるルーに、私は頷く。

「……帰りたくない。ここに、ずっといたいです」

 その日から、私はこの異世界で生きることにした。


 それから私は、ルーの一応の家で暮らすことになり、学園の中等部に入学する一か月後まで、この世界の基本的な知識を身につけることになった。

 この世界の名前は“ティラエア”。その中にいくつもの国があり、私達がいるのは“大和(ヤマト)”という小さな島国だそうだ。そしてこの世界は、生きとし生ける者全てが魔法を使えるのだという。それに私は不安を覚えた。ここにいたいとは言ったが、魔法が使えなかったら、笑えない。私は心配になってルーを見上げると、彼は安心させるように微笑む。

「大丈夫。君にも魔法は使えるよ。ちゃんと魔力があるからね」

 その言葉を聞いて、私はほっとする。だが、何故かルーは表情を曇らせる。

「……その魔力のことで、君に伝えないといけないことがあるんだ」

 嫌な予感がしつつも、私はルーに続きを促す。

「魔力はその値によってランク分けされているんだ。だけど、その中で一つ特別なランクがあって、“特級(とっきゅう)”と呼ばれている」

 特級は同じ時代に七人しか存在しない。その魔力はA級を遥かに超えるもので、魔力値を測る水晶を破壊するほどだという。そしてその特級は、数百年前に特級の一人がある国を一夜で滅ぼしたことにより、全世界の人間に忌み嫌われているそうだ。

 ここまで言われれば、さすがの私でも、次にルーが何を言うのかは分かる。

「一目見て分かったよ。君は特級だ。僕と同じ、ね」

 私はそれほどショックを受けなかった。きっと魔法を使えないよりはマシだと思うから。でも、生き地獄(いじめ)の次は忌み嫌われる存在か。もう笑うしかない。

「でも、安心して。僕が君を守るから。君が特級だと気づかれないようにして、必ず君を大人にしてみせる」

 ルーが私の肩に手を置いて言った。その手は少し震えている。一人の子どもの命を預かることへの不安だろうか。今の私には分からないが、ルーに命を預けることに不安は無かった。彼はきっと、私を見捨てないという確信があった。


 それから私は、ルーに魔力のほとんどを封じてもらった。右耳につけたイヤリング型とペンダント型の魔封具(まふうぐ)と、お腹に描いた魔法陣によって。魔封具はその名の通り、魔力を封じる道具で、体に描く魔法陣と併用することによって、私の魔力はC+程度まで下がっている。十二歳くらいだと、この魔力値が平均らしい。

 私の場合は、魔法陣で大半の魔力を封じ、残りをそれぞれの魔封具に分散させて封じている。イヤリングの封じを解除すると魔力がB程度、ペンダントの封じも解除するとA程度の魔力値になる。わざわざ魔力を分散して封じているのは、いざという時に魔力を解除して強力な魔法を使う為だという。そして、魔法の使い方を慣れさせる為に、魔力値を簡単に切り替えできる方が良いらしい。

 試しに魔力値を切り替えて見ると、体の感覚が微妙に変化した。お腹と胸の間あたりが、魔力値が高いと、炭酸が弾けているようなパチパチ感が強く、魔力値が低いとそれが弱いような感覚だ。もちろん、そういう感じがするだけで、痛みがあるわけではない。

 魔法の使い方は追々やっていくらしいが、基本的な魔法は中等部の授業でやるので、焦らなくても大丈夫だそうだ。

「学園への入学手続きは、僕がやっておくから。あと、この家から学園までは結構距離があるから、寮の手続きもしておくよ」

 そう言いつつ、私がここで暮らすのに大切なことをてきぱきとするルーの姿を見て、私は感心する。最初はふわふわしているような人に見えたが、意外としっかり者らしい。見た目からして、親というよりは、年の離れた兄のような気分だが。

 私に姉はいたが、外面ばかりが良くて、中身は最低だった。読んでいた小説に出てくる主人公の兄や姉は良い人ばかりで、その当時はそんなわけないと思っていたが、異世界でルーと会って、そんなことがあるのかもと思ってしまう。我ながら現金な奴だ。

 その一か月後、私は学園の中等部に入学した。


ここまで実結目線で書いていましたが、次話から第三者目線の文章になります。

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