9話 BOSS猪
「この柱に触れれば良いんですか?」
自分の目の前に天にも届きそうな程、大きな柱があった。
遠くから見る分には、小さく見えてたのに近づくにつれてどんどんと大きく存在感を増していった。
こんだけ大きいなら、街からでも見えそうなものだけど、アハ体験みたい。
「そうじゃよ。それに触れればパーティーメンバー全員が転送されるのう」
「そうですか。じゃあ」
そう言って柱に触ってみると柱は消えて、周りにいたはずの他のプレイヤーも消えた。
先ほどと場所は変わっていないが、森の中は霧で覆われて唯一この開けた場所だけに光が差し込んでいる。
「ファッファッファ、容赦なく触るのう。少しは緊張する物じゃと思ったのじゃが」
オッサンがなんか言ってるが無視しておこう。
てか、それどころじゃ無い。
自分たちの正面の森から異常な程デカい猪とそれに連れ従う様に3匹の猪が現れた。
異常な程デカい猪の方は2階建ての1軒屋ぐらいデカい。
それに比べて3匹は小さいにしても、大人1人分のデカさだ。
今まで出会った猪の中では最大サイズが3匹もいる。
「オッサン聞いてないですよ。あの3匹も強そうなんですけど」
「ファッファッファ、言っておらんかったかのう。まぁ種族は森にいる猪と同じじゃ。大差なかろう」
大差ないわけないだろう。
生物において体格と言うのは最も重要だ。
知恵が発達した人間でさえ、体が大きいと言うのはあらゆる面でアドバンテージとなる。
まぁビビっててもしょうがないか。
「あの1番でっかいのはお願いしますよ」
「ファッファッファ、言われんでもワシに任せておけば良いわい。サクッと片付けてやろうぞ」
オッサンをチラリと見たが既に魔法やスキルを使っている様で体をオーラみたいなのが纏ってる。
ピーちゃんはボス猪の周りを飛びながら注意を引いてる。
自分達も仕事するとするか。
「じゃあ、イナバとシロツキはあの3匹の猪がオッサンの方に行かない様に牽制してて、テスカは自分と一緒に猪の相手をしようか」
物干し竿を正面に構える。
ボス猪の左側に1匹、右側に2匹いる。
左側にはテスカとシロツキが向かい。右側の2匹はイナバと自分が対応する。
オッサンの邪魔にならない様になるべくフィールドの外側に追いやる様に戦う。
2匹の鼻っ面に物干し竿を一当てずつした所でこっちに注意を集める事はできた。
物干し竿の間合いを詰められない様に距離をおきつつも、猪の注意がオッサンに向かない様に攻撃出来る様に物干し竿が届くギリギリの距離に立つ。
あまり攻撃しすぎて倒してしまうと森の中から新しい猪が出ると聞いていたし、仮に自分とは逆側に現れたら面倒になる。
「キュイ!」
「ん?」
イナバの鳴き声が聞こえ、イナバの方を見ると此方を見ながら少し慌てた様子。
自分を見ていると言うか自分の背後を見ている気がする。
そう思った瞬間、自分は手に持っている物干し竿を後ろに突き刺す様に伸ばす。
今まで握っていた部分を手の中で後ろにスライドさせ、猪を叩いていた反対側を握る。
物干し竿に何か当たった感触はなかった為、体重を乗せつつ全力で体を180°回転させる。
自分の背後に伸びてた物干し竿から、敵の感触が返ってきた。
「ブヒッ」
どうやら背後に新たに1匹猪が迫ってたみたいだ。
その猪は自分が物干し竿を後ろに伸ばしたまま回転した為、横薙ぎの物干し竿による攻撃で倒れていた。
自分の筋力が低いせいで倒すと言うより体勢を崩させるだけだったけど。
「グルゥ」
「にゃあ」
テスカとシロツキが申し訳なさそうな顔でこっちにくる。
「ふふっ大丈夫だよ。一撃も喰らってないから」
2匹の申し訳なさそうな顔に「可愛い!!!!!」とか思って笑みが溢れてしまった。
2匹の反応を見るにどうやら2匹が相手していた猪を倒してしまったんだろう。
幸いな事にオッサンの方には現れなかったからオッサンの方の戦闘には影響してない。
失敗したな。テスカの攻撃力が予想以上に高いから、猪を牽制しているだけで倒してしまうのだろう。
うーん、どうしようか。
「よし、テスカ。オッサンの方のフォローに行ってくれ。自分とイナバ、シロツキで3匹を引き受けよう」
「グルゥ」
「そう落ち込むなよ。自分達の中で一番強いんだから、期待してるよ」
「グルゥ!」
少しは元気になった様でボス猪の方へ向かっていった。
会話しながらも3匹を牽制していたが、中々にしんどい。
2匹から3匹になっただけでめっちゃ難しい。
イナバ、シロツキも頑張ってくれているお陰でなんとかなってる感じかな。
よくよく考えたら自分、初期装備のままだしステータスの補正も物干し竿だけだな。
この戦い終わったら装備買いに行こう。
逆に考えればイナバと『合体』した状態でも前は猪3匹に負けてたのに、その時よりデカい猪3匹を相手に凌ぎ続けれているのは、自分の技術が上がったからであろう。
チラリとオッサン達の方を見るとテスカが参戦した事によりオッサンとピーちゃんに少し余裕ができたみたい。
テスカが上手く遊撃になってるみたい。
それにしても、さっきは3匹相手に精一杯だったのに、今はそうでも無い。
なんだろうこの感覚。
突然ステータスが跳ね上がった訳じゃない。
新スキルを発現した訳でもない。
隠し持っていたレア装備を身につけた訳でもない。
目の前に最強の武器が顕現した訳でもない。
ただ、今までは窮屈で使い辛かった体が手のひらで転がす様に自由自在に操れる様な感覚。
物干し竿を握っている腕はステータスの影響で鈍重だが、その動きは的確に猪の鼻っ柱を捉える。
自分でも思う。今の自分を傍から見れば舞を踊る巫女の様であろうと。
今のは言いすぎたな。
まぁ要するにこんな余計な事を考えても余裕なぐらい今の自分は集中している。
オッサン達の様子を窺ってみるが、そっちも問題なさそう。この調子でいけば勝てるな。
「ブゴォオオオオオオオオオ!!!!!!」
「ひゃっ」
何だ?何だ?
声のした方を見るとボス猪が燃えていた。
物理的に燃えていると言うより、比喩的な意味で燃えている。
空に向けて雄叫びをあげている。
オッサンは倒れてる。ピーちゃんも吹き飛ばされたのか地面に横たわっていた。
テスカは何とか踏みとどまったのか偶々距離を取っていたのか、問題なく動いている。
「「「ブモォォ」」」
「うお?」
自分の近くにいた猪達もボス猪に呼応する様に空に向けて雄叫びをあげる。
オッサンは気を失ってるのか?いや、よく見ると少し動いてるな。体が痺れてでもいるのかな。
取り敢えずこのままだとマズイな。
3匹の方を相手をしている暇は無いな。
そっちは無視でボス猪の注意をオッサンから自分に向ける必要がある。
「よし!シロツキとイナバはゴメンけどオッサンとピーちゃんを宜しく。可能だったら3匹の猪を相手してくれてると嬉しいかな」
「キュイ!」
「にゃあ!」
うんうん。かわ良いなぁ。
「テスカ!!!やるぞ!!!」
「グルゥ!!!」
テスカに向かって走る。
テスカも自分に向かって走ってくる。
自分の速度は大した事ないがテスカは物凄い勢いで自分に突進してくる。
ぶつかったらただでは済まないだろうが問題ない。
自分にテスカがぶつかる直前、
「『合体』!」