8話 ぼたん鍋
猪狩りじゃあああああああ!!!!!!!
従術士ギルドを出た後、自分達はテスカに跨り森までやって来ていた。
狙うのは1匹でいる猪。
早速、猪を発見。シロツキさまさまである。
イナバが角による先制攻撃。
敵の注意を引きつけ、自分に向かってくる。
そして自分の真横の木の上に待機していたテスカが猪の真上からの奇襲。
無事、無傷で猪をノックアウト!!!
いや、自分何もしてなくね?
もう少し戦闘になると思ってめちゃくちゃ緊張しながら物干し竿構えてたのに、結局来なかった。
まぁ、作戦立てたの自分だし良いかなー。
「おっしゃ!この調子でじゃんじゃん狩るぞー」
「キュイ!」
「ニャア!」
「グルゥ!」
ノリの良いお前らが大好きだーーーー!
その後も調子良く3匹の猪を狩り終え川のほとりで焚き火を始める。
勿論、今日は昨日とは違う。
一応、イナバ、シロツキ、テスカ様に猪肉を素焼きにはしているが、今回の自分の目的はぼたん鍋だ!
その為に、街で鍋と野菜と調味料を買って来たんだからね。
ふっふっふ、具材を切り鍋にぶち込んで煮る。
鍋は調理工程が簡単だから良いよね〜。
暫く煮込んでいると良い匂いが漂い始めた。
「ああー良い匂い」
猪肉の素焼きを食べて満足そうな顔をしていたイナバ、シロツキ、テスカ達も匂いに惹きつけられて来た。
「しょうがないなぁ〜お前らにもよそってやろうぞ」
イナバ達用に用意していた皿にぼたん鍋をよそってやる。
「さぁ召し上がれ」
凄い勢いで食べ始めた3匹をみつつ自分もぼたん鍋を堪能する。
「はぁー至福の時」
「おうおう、なんじゃい。良い匂いがすると思って来てみればめんこい女子が、鍋を啜っとるやないか」
うん?なんか後ろの方から声が聞こえたので振り返るとそこにはいかにも、旅人って格好で肩には鷹を乗せた男がいた。
いや旅人っていうより魔術士かも。外套というよりローブって感じがするし、三角帽子もまさに魔術士って感じだ。
まぁ色が茶色で髭面の渋いオッサンだから魔術士には見えないけど。
杖も魔術師の杖というより登山家とか冒険家が使ってそうな杖だし。
それにしても、こいつめんこい女子って言ったか?なんだ、目ん玉に髭でも生えてんのか。
そりゃ見えないな仕方ない。
「お主、『料理』スキルを持っておるのか?難儀な事をするのう」
「そうですか?意外と楽しいですよ」
「ほうほう、お主が掲示板で騒がれておったモフモフさんじゃな?」
「はぁ?誰ですかモフモフさんって」
「ファッファッファ、知らんのならええわい」
このオッサン調子狂うな。
明らかに爺さんでは無いのに爺さんみたいな喋り方しやがるし、かと言って見た目が特別老けているわけでも、若いわけでも無い。
「のうのう、良かったら少しワシとこのピーちゃんにも分けてくれんか?」
そう言えってオッサンは肩に乗っている鷹にをチラリと見た。
恐らくこの鷹がピーちゃんなんだろう。
「ええまあ多めに作っているので良いですよ」
「おお!感謝、感謝じゃあ」
「ピーー」
「ファッファッファ、ピーちゃんも喜んでおる」
新たに皿とお箸を出してぼたん鍋をよそってあげた。
「おお美味いのう、心と身体がポカポカと温まる様じゃ」
「ピ〜」
「そりゃ良かったです」
オッサンはともかくピーちゃんは可愛いな。
近くに鷹が出現する様な場所あったかな?後でネットで調べてみよう。
「お主は何の目的でこの森に来たんじゃ?」
「うん?いや、猪狩りとレベル上げですかね」
「ほじゃ!それならワシと一緒にBOSS狩りにでも行かんか?」
BOSS?ボス。
「って言うとこの森に猪のBOSSがいるって事ですか?」
「なんじゃい、お主は何も知らんのう。そうじゃこの森に猪のBOSSがおってのう。その猪を倒さんと次の街に行く資格が貰えんとあってみんな躍起になっておるんじゃ」
「へぇー」
そっか、ゲーム内の街は一つだけじゃ無いんだな。
しかも、簡単には次の街にはいけないっていう。
「かく言うワシもその1人で何回か挑戦してるんじゃがな。なかなか倒せなんだ」
「そんなに強いんですか?」
「ほうじゃ。しかも、通常猪を3体、引き連れておる。その3体が厄介でのう倒しても倒しても新たに補充されるんじゃ」
それ1人じゃ不可能だろ。いや6人のフルパーティーで挑んでも勝てなさそう。
「それって自分達が参加した程度じゃ倒せなく無いですか?」
「ファッファッファ、心配するでない。お主には3対の通常猪の方を頼む。ワシとピーちゃんでBOSSの方を討伐するゆえ」
それなら自分としては問題ないけど。
「本当に大丈夫ですか?聞いた感じ6人のフルパーティーで挑んでも負けそうな敵ですけど」
「そうじゃな〜。6人以上で挑めれば良いのじゃが、BOSSに一度に挑めるのは6人と決まっておる。じゃから、どちらにしろこれ以上増やすことはできん」
6人?自分、オッサン、、、ああイナバ、シロツキ、テスカ、ピーちゃんで6人分のパーティーが埋まっているのか。
それなら仕方ないな。
「ちなみに今までBOSSを倒したプレイヤーって何人ぐらいいるんですか?」
「んん?本当にお主は、何の情報も収集しておらんのじゃな。昨日時点では誰一人としてBOSSを討伐できたプレイヤーはおらん」
マジか。所謂、攻略プレイヤーとかは何やってるんだ。BOSSが発見できているならその日中に討伐出来そうなものだけど。
「えーっと、じゃあ自分たちの勝算は?」
「さてなぁ。BOSSの序盤の行動は分かっておるが終盤まで体力を減らせたものは誰もおらん。もしかしたら、体力が終盤になった頃に特殊な行動をするって言う考察もされておるから、勝算は今の所、未知数じゃな」
マジか。高確率で死に戻るってことだよな。
さてさてさーて、どうしたものか。
「わかりました。やりましょう」
「ほう!ありがとじゃ。これで勝ったも同然じゃな」
「いや、多分負けますよ」
「ファッファッファ、負ける気で挑むのか。それも良しじゃな」
この人、変わったオッサンだな。
「では早速、森の奥へ向かうとするかのう」
「道中、レベル上げもして良いですか?」
「良いぞ良いぞ。ファッファッファ」
このオッサンも森の奥まで行くってことはそこそこのレベルって事だよな。そうは見えないな。
「そう言えば名前聞いても良いですか?自分はミヅキって言います」
「そうじゃった、そうじゃった。まだ名乗ってもおらんかったのう。ワシの名はミタカという。皆からはタカさんと呼ばれておる。よろしくじゃ」
タカが鷹をテイムしたのか。
なんかオッサンが物欲しそうな顔をしているが別にツッコんでやらない。心の中に留めておこう。
「ニャア」
「ん?どうしたんじゃニャンコちゃん」
「敵が近くにいるみたいです」
「ほうほう、そのニャンコちゃんは索敵か気配感知かそれっぽいスキルを持っておるのかのう?」
「えっ動物がスキルを持つことがあるんですか?」
「うん?『鑑定』すればわかるじゃろう?」
「『鑑定』のスキルを取得していないので」
「なっ」
「あっ敵がこちらに気がついたみたいです。取り敢えず自分が戦うんで見ててください」
猪が3体こっちに向かってくる。
BOSS戦前の良い予行演習になるかな。
取り敢えず1体はテスカの奇襲で倒した。
残りの2体はイナバとシロツキに注目している。
その隙に練習した空中からの攻撃。
あれから、スキルの影響もありだいぶ上達し空中で2回攻撃できる様になった。
上空に飛び上がると横なぎで猪の横腹へ叩き込む。さらにその勢いそのまま全体重を乗っけた一撃を体制の崩れた猪の背中に叩き込む。
これで1体は終わり。もう1体もテスカを主軸にしてイナバ、シロツキ、テスカによる連携攻撃で倒し終わっていた。
なかなかに良い調子だな。
おっレベルも上がったぜ!これでレベルは8、残りSPも12だ。
「ファッファッファ、流石じゃな。して、何故お主は『鑑定』を取っておらんのじゃ?」
「特に理由は無いです。取ろうと思ってますけど、他の必要なスキルを優先させていました」
「うーむ。一番必要なスキルじゃと思うのじゃが」
「あっそれなら、オッ...ミタカさんならイナバ達のステータスとかスキル確認できますか?」
イナバ達のステータスが確認できるにであれば凄くありがたいんだけど。
「いや、それはできん。プレイヤーと同じで『テイム』されたモンスターも『鑑定』の対象外じゃ。本人でしか『鑑定』はできんのじゃよ」
「あれ?ひょっとして『鑑定』があれば自分のステータス確認できますか?」
「あー言い方が悪かったのう。残念ながらそれもできないんじゃよ。まぁそこら辺は『鑑定』を取得すればわかるじゃろう」
ふむふむ。次に『鑑定』を取得できるとすれば後、2レベルあげないとなんだよな。
「そう言えばオッサ...ミタカさんは今レベル幾つ何ですか?」
「うっうむ。今は14レベルじゃよ。10レベルを超えてから上がりにくくてのう」
自分より全然上だな。
「そうなんですか。では次はミタカさんの戦闘を見てみたいです」
「ファッファッファ、良いぞ良いぞ!ワシの戦闘が参考になるかは分からんがのう」
早速、猪が4体群れているのが見えた。
オッサンは散歩でもしているかの様な足取りで猪に近づく。
うん?もしかして今光ったか?
なんか、オッサンが猪に近づきながら、偶に光ってる気がする。
おっ今度はなんか赤いオーラみたいなのがオッサンの周りを漂い始めた。
猪もオッサンに気付いた様でオッサンに突進してきた。
オッサンは自然体で待ち受ける。
猪がオッサンの間合いに入った瞬間、猪の脳天に向けて手に持った杖を振り下ろす。
その1発で猪はお亡くなりになったみたい。ってか消える前に猪の頭が陥没してた。
残りの3体も同じ様に杖の1発で叩きのめしていた。
杖に殴られ飛ばされた猪が木にめり込んだのをみた時は少しチビった。
怖ええぇぇぇよ!オッサン。
「ファッファッファ。そうじゃな?ワシの戦闘スタイルは見てもらった通り、攻撃力をスキルによって上げて殴る。至極簡単じゃが敵の動きをちゃんと見切る必要があってのう。プレイヤー自身の技量が重要となってくるんじゃよ。参考になったかのう」
「全然」
「ファッファッファ。そうじゃろうなお主は見るからに人間族じゃろう?ワシは魔人族じゃからな魔法と物理共に攻撃力が高いんじゃよ」
魔人族だと⁉︎なんだそのカッコいい種族は人間族とは大違いじゃ無いか。
「自分は人間族ですが、キメラ亜種なのでさらに全体のステータスは低いです」
「なんじゃと⁉︎キメラ種も亜種も掲示板で話題になっておったレア種族じゃぞ。確率が凄く低いレア種族なのに、どちらもステータス低下の影響が大きく得られるスキルも弱いから、キャラ再作成は必須と書かれておったぞ。それを両方ともとはお主、大丈夫か?生きていけるかのう」
余計なお世話だ。まぁでも普通はキャラ再作成するよな。
「魔人族の特徴はどんな感じなんですか?」
「ほうじゃな。物理攻撃と魔法攻撃が多種族より高い代わりに物理防御と魔法防御が低くなっておるな。後、『魔装』という魔力を纏う種族スキルが使えるのう」
へぇ〜。まぁ自分とは縁が無い話だな。
「もうそろそろBOSS戦の場所に着くぞい」
そこは森の開けた場所で、中央には柱が数本何かを囲う様に円形で配置されていた。
柱の外側には複数人のプレイヤーがいる。
多分、BOSS戦前に準備しているんだろう。
「おお!タカさんじゃないっすか!また挑むんですか?」
「ファッファッファ。勝つまで挑むに決まっておるじゃろう」
「タカさん!!!元気でしたか?私、あの猪を怯ませられる様になったんですよ!」
「おう、おう成長しておるのう」
オッサンは人気者の様で色んな人から話しかけられている。
別に自分が誰にも相手にされたないからって拗ねたりはしない。これでも大人だからな。
でも不愉快だな。あんな髭面のオッサンが人気者なのに、自分で言うのもなんだが平均よりは美形な顔の自分が見向きもされないなんて。
いや、厳密に言えば見向きもされないわけではなく、チラチラこっちを見る視線は感じているが、友好的というよりは「誰だこの怪しいやつ?」って言う懐疑的な目線だ。
ふっ自分にはイナバとか、シロツキとかテスラがいるからいいもんねー。
みんな自分に寄り添ってくれるもんねー。
「ファッファッファ。それじゃあミヅキよ早速BOSSに挑むとするかのう」
「了解です。オッサン」
「ファッファッ...はぁいつの間にか呼び方がオッサンになっておるのう。まあええワイ」
そう言って中央の柱に近づこうと歩き出そうとすると周りがざわつき始める。
「えっえ!ちょっと待ってタカさんあんなに色んな人の誘い断ってたのにその人とパーティー組むんですか?」
さっきオッサンと楽しげに話していた人が驚き呼び止める。
周りも有り得ないって感じの表情をしている。
「ファッファッファ、興が乗ったと言うのもあるがミヅキとなら、あの猪にも勝てると思ったんじゃよ」
そのオッサンの返答には更に驚愕した様相の周りのプレイヤー達。
「それだと、自分がオッサンにパーティーに入れてくれって懇願したみたいじゃないですか」
「ファッファッファ、たしかにそれじゃと誤解を招いてしまうのう。ワシがミヅキにパーティーに入ってくれと懇願したんじゃよ」
周りのプレイヤーは更なる驚愕と静寂に包まれる中、話は終わったとばかりに自分とオッサンは中央の柱に向かって歩みを進める。
もう自分の頭の中からは先程のプレイヤー達の事は抜けていた。
この後、初めて対面する事になるBOSSの事しか頭になかった。