7話 従術士ギルド
ゲーム開始から3日目。
来週から大学が開始するから、1日中ゲームができるのも後、数日になる。
まぁ別に気ままにプレーしてるだけだから、大学開始までに何レベ上げたいとかは特にない。
取り敢えず今日は従術士ギルドに行って猪にリベンジかな。
あっ後、キャンプ道具とか調理器具、調味料が欲しいな。結局、昨日は肉の直火焼しか出来なかったし。
宿屋を出て冒険者ギルドに向かいつつ、途中の雑貨屋とかに寄って色々とアイテムを買い集める。
なんか視線を感じるな。
道行く人全てテスカを見ている。
「あっあのう〜」
「ん?」
声をかけられて視線を落とすと、低身長な赤髪の少女がモジモジしながら此方を見上げていた。
身長は中学生ぐらいだが、少し大人っぽい雰囲気だな。
「あっ初めまして。カナエと言います。そのー、もし良かったら、その子を撫でさせていただいてもいいですか?」
「ああー、テスカ良いかな?」
「グルゥ」
「良いみたいだよ」
「ありがとうございます!テスカっていうんですね。わぁーふかふか」
テスカに飛びついて全身で堪能している。
テスカもそんなに嫌がってないしな。
「どうやってテイムしたんですか?」
「テスカの事?そうだね。肉焼いてたら森から出てきたから、それをテスカにあげたら懐いてた感じかな」
「ほおほお、自分も試してみます」
随分と動物が好きみたいだな。てか一向にテスカから離れようとしない。
「あの、もし良ければフレンド交換してもらえませんか?」
「良いよ。あっミヅキだよろしく」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。実は私、防具屋を目指してるんです。皮系とか布系メインになっちゃうんですけど、、、もし依頼とかあれば連絡ください」
「ああ、うん。ありがとう」
凄い勢いで捲し立てられ、反応に困ってしまった。
「ミヅキさんはどういう服が好きですか?スカートの方が良いですか?でもパンツスタイルの方が安全ではありますよね?」
...スカート?パンツスタイル?
あゝ最近は男性用のスカートとかあるもんな。そういう事言ってんだな。
「自分、スカートは履かないかな」
「えっそうなんですか?絶対似合うのに〜ミヅキさん髪も肌も真っ白だからウエディングドレスとかすっごい映えると思うんですよ!」
ウエディングドレスだと?流石にウエディングドレスを男が着るのは聞いたことないな。
「ウエディングドレスは着た事ないし今後、一生着ることは無いな」
「えっ⁉︎へっへぇー、あ!家庭の事情とかありますもんね。すみません、ゲーム内でリアルの話はマナー違反なのに」
家庭の事情なのかな?普通の家庭だと思うけど。
「リアルの話はマナー違反なんだ。全然気にして無いよ。自分も気をつけないとね」
「じゃあ、私はこれにて失礼しますね。連絡ください」
「うん。じゃあね」
カナエさんと別れふと、イナバ、シロツキ、テスカを見渡すと何故か「またやってるよ此奴」みたいな視線を向けてくる。
何故だろう?特におかしな所は無かったけど。
まぁ良いや。
「じゃあ、冒険者ギルドに従術士ギルドの場所を聞きに行くか」
やはり視線を感じるなぁ〜
冒険者ギルドに到着。
受付に立ってるおじさんに話しかける。
何故おじさんかというと、単純に他の女性が立っている受付より空いてるからなんだけど。
「こんにちは。従術士ギルドの場所を教えてください」
「おっおう。従術士ギルドか。それなら、出て右に真っ直ぐ行けば、噴水のある広場に着くからそこを右に曲がって暫く歩けば大きな牧場がある木造の建物が従術士ギルドだ。少し街の外れの方になるから迷ったら近くの人に聞くと良いよ」
「あっそうですか。ありがとうございます」
「あっ待て!」
普通にそのまま出て行こうとした所、おじさんに呼び止められる。
振り返りおじさんの前に戻る。
「因みに従術士ギルドに行くなら、これを届けてくれないか?」
おじさんに渡された物は手紙と小さな木箱だった。
「わかりました」
「おう、ありがとな。よろしく」
受け取った物をアイテム欄に入れ今度こそ、冒険者ギルドを出ようとすると目の前に男性プレイヤーが現れた。
「やぁやぁ。この後、良かったら僕と一緒にモンスター討伐に行かない?」
「この後、予定があるので失礼いたします」
荷物を届ける依頼を受けたばかりだったから、断った。
まぁ誰かと一緒に討伐するのが面倒いって言うのもあったけどね。
さらりと男の横を通る。
「おーい、そこの白髪の人。ちょっと待って」
暫く歩いた後、また知らない男が自分に駆け寄ってきた。
「うん?」
「さっきの見てたよ!凄いサラッと躱すからビックリしたよ。アイツも呆然としてたし」
笑いながら話しかけられたが此奴誰だ?凄いフレンドリーに話しかけてくるが、初対面だよな。
女性に話しかけられるならまだしも、さっきの男も含めてこう言う爽やかな男にフレンドリーに話しかけられるのはなんかイラっとするな。
「そうですか」
「良かったらフレンド交換しようよ。その『テイム』したモンスターの事も教えて欲しいし」
「わかりました」
その男とはフレンド交換して別れた。
従術士ギルドに向かって歩く事、数分後にフレンド一覧を開いてさっきフレンド交換した男をブロックした。
名前も興味なかったからもう忘れた。
従術士ギルドに着いた。
意外と閑散としてた。
取り敢えず受付に1人、女性がいたから話しかける。
「こんにちは」
「こんにちは。本日はどう言ったご用件で?と言うのは野暮ですね。従術士ギルドに登録されると言うことでお間違い無いですか」
「ええ、その前にこれ冒険者ギルドから預かってきた物です」
そう言ってさっき預かった物を渡す。
「ありがとうございます。確かに受け取りました。従術士ギルドの説明は必要ですか?」
「お願いします」
「従術士ギルドは冒険者ギルドの傘下という位置付けです。他にも魔術士ギルドや、武術士ギルド、錬金術士ギルドなどなどがございます」
へぇー。錬金術は興味あるな。キメラと言えば錬金術だしね。
「こう言ったギルドは、総称して職業ギルドと呼ばれております。職業ギルドは現状1つしか所属する事ができません。レベルに応じて所属できる職業ギルドも増えます」
ここで、レベルが出てくるのか。今のレベルが7だしキリよく10とかかな。
いやないな。そんな早くはないだろう。
「あと、あまりお勧めはしませんが一度、所属している職業ギルドを退会して別の職業ギルドに入る事も可能です」
「お勧めしない理由はなんですか?」
「特別納得できる理由があれば別なのですが、どの職業ギルドも同じ冒険者ギルド内の組織です。その為、職業ギルド内の横の繋がりも重要になってきます。この後に説明する職業ギルドの性質にもよりますが、意味もなく職業ギルドを転々とされるのは印象が悪いと言うのが大きいでしょう」
まぁゲームでリアルを持ち出すのはNGらしいが、リアルでも転職を繰り返してると信用を失うしな。
そういう物なんだろう。
「職業ギルドの性質についてなのですが、主には2つございます。スキルの使用方法を伝授する事と、お仕事の斡旋になります」
仕事の斡旋とな?冒険者ギルドでもやってると思うけど。
「ふふ、冒険者ギルドで行なっている依頼は害獣の討伐や、素材の採取が主になります。職業ギルドが斡旋しているお仕事はその職にあったお仕事になります。例えば薬士ギルドであれば傷を治すポーションを作成して納品する依頼になります」
サラッと心を読まれた気がした。
いや、表情にもしかして出てたのか?気をつけねば。
「従術士ギルドであれば、『テイム』や『調教』と言ったスキルが使い難いと言うのもありスキルの使用方法を伝授する目的の方に重きを置いております」
「初心者には便利ですね」
自分の場合、偶然が重なり『テイム』できたが方法を知らないとどうしようも無いだろう。
「それでも従術士ギルドに所属される方は少ないのが現状です。お陰でこの建物も農耕ギルドと併設されております」
「『テイム』って便利なのになんで少ないんですかね」
自分だとテスカに乗れば移動が楽になる。
この世界の移動手段がどうなっているかは知らないが、馬を『テイム』できれば楽に移動できると思うのだが。
「ええ、確かに『テイム』は便利ですが、スキルを取得する方の目的はペットや移動手段、偵察、連絡手段、牧畜などそれぞれの職業の補助的な役割として、『テイム』を取得することが大半です」
確かに、自分も槍?みたいな物を使ってるし、普通だったら槍?に関する職業ギルドに所属して、戦闘の補助として『テイム』が使用できれば、わざわざ従術士ギルドに所属する必要もないか。
まぁ自分の場合は『合成』のスキルもあるから戦闘のメインは従獣に任せることになるんだけど。
ふっ早速覚えた言葉を使ってみたぜ!
「1番の原因はこれになります」
と言って机の上に出したのは小さな宝石が埋め込まれた指輪だった。
「これは、召喚石と言ってこの宝石と対になる宝石を持った物や従獣を召喚することができます。残念ながら人は召喚できないですが」
自宅に残してきた従獣を召喚できるってことだよね。めっちゃ便利じゃん。これが有れば、従術士ギルドに登録する人も増えると思うんだけど何故?
自分が疑問に思っているのを察したのか疑問に対して答えてくれる。
「実はこの召喚石、冒険者ギルドでも取り扱っているんです。従術士ギルドのギルドマスターの方針でして」
今にもため息が聞こえてきそうな表情をしている。
この人も毎日苦労しているんだろう。
「あっでも、通常だと1セット50,000Gする所を従術士ギルドに所属していただければ初回特典として1セット無料で提供しております」
おお〜太っ腹だな。常に金欠気味な自分にとっては有り難い。
「それで、いかが致しますか?」
まぁ話を聞く前から決めてたからな。
それに今の自分に50,000Gを払うすべはない。
「もちろん所属させていただきます」
「ありがとうございます。ではこの書類にサインして頂ければ完了です」
差し出された書類にサインをする。
「では早速、召喚石についてご説明させていただきますね。
1に指輪は装備していないと召喚はできません。
2にパーティーの上限である6人を超えての召喚はできません。この6人には従獣もカウントされます。
3に召喚する際に召喚対象の大きさに応じてMPを消費します。
4に召喚対象を召喚した後、送還する際に再びMPを消費します。
5に召喚対象を送還しない限り指輪を外すことが出来ません。
大体、この様な所でしょうか。他にも細かいルールはあるのですが使いながら慣れて頂ければと思います」
指を折りながらわかりやすく説明してくれたがちゃんと理解できたか心配だ。
「そういえば従獣が死んだ場合ってどうなりますか?」
「おや?知らなかったのですね。従獣が死んだ場合、ポータルに近づくだけで復活させることができます。ポータルはこの街だとあの噴水広場になります」
ああ、初日に死に戻った時に近くに一緒にしに戻った筈のイナバがいたのもそれが理由か。
「因みに召喚対象の従獣が死んだ場合は強制的に送還され再召喚は不可。指輪も外す事が出来なくなります。ポータルに近づけば再召喚が可能となり指輪も外す事が可能になります」
うっ覚えておかないと痛い目みそうだな。
「此方は、召喚対象となる従獣につけておいてください」
そう言って出して来たのは動物用の首輪だった。
首輪には指輪についている宝石と同じ物がついてある。
「そちらの首輪にはポータルを設定していただく必要があります。簡単にいえば従獣が待機する場所ですね。上級の従術士になれば家に簡易ポータルを設置して家に待機させることも可能です。初心者の方にはギルド裏手にある牧場に簡易ポータルを設置しておりますので、そちらに設定頂ければ待機している従獣の面倒はギルドにて見させていただきます」
「テスカ、暫く1人にさせちゃうけど良いかな?」
「グルゥ」
「ありがとう。では、テスカをお願いいたします」
「承知いたしました。大切にお預かりいたします」
そう言って、受付のお姉さんはテスカを撫でる。
この人も動物が好きなんだろう。
「あっ忘れていました。此方もう一つ従術士ギルドに所属いただいた方への特典になります」
そう言って机の上に出したのは大きなケースに規則正しく並べられた卵。
通常の卵より大きく、サッカーボールくらいの大きさの卵だ。
「従術士ギルドでは卵も販売しており、卵から孵った動物は100%『テイム』が可能になります。卵からでしか『テイム』出来ない動物もいるんですよ」
卵を売ってるって凄いな。
「因みにこのケースに入っている卵はランダムです。なので孵化した後に気に入らなかった場合は従術士ギルドで買い取る事も可能ですので、遠慮なく申し出ください」
まぁ貰えるなら貰っておこう。
悩むなー。こう、卵の上に手を翳してスーッと手を動かすと強い奴の反応が⁉︎みたいなチート能力は無いので、勘で選ぶ。
「このど真ん中の奴で」
「承知いたしました。ではこの卵を入れる用の袋も併せて差し上げます。卵はアイテム欄に入れるのではなく装備として身に付けておかないと、孵りません。孵化するまでの時間は『鑑定』のスキルで確認できます」
ふむふむ、成る程、成る程。
「自分、まだ『鑑定』持っていません」
「えっ⁉︎『鑑定』は冒険者の必須スキルですよ。特に従術士は従獣のステータスを確認するのにも『鑑定』を使用しますので、取得する事をお勧めします」
従獣のステータスも確認できるんだ。
知らなかった。
「ありがとうございます」
そう言って従術士ギルドを出た。