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31話 大蜘蛛

今日は大学で授業を受け、『災獣のユートピア』をくれた先生のゼミに顔を出してきた。


と言っても先生もゼミ生も皆『災獣のユートピア』にハマっており、人がいなかったので特に何をするでも無く家に帰ってきた。


するとリビングでは妹が大はしゃぎして小躍りもしていた。


「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」

「なんだ?紅葉」


小躍りを続けながら自分の前まで来ると無い胸を逸らす。

可哀想に...母も姉もスタイルは良い。妹も身長や足の長さでは負けていないのに圧倒的に寸胴。

胸も尻も小さい。


そんな哀れみの視線もはしゃぎ過ぎて気づいていないのだろう。


「ふふーん!実は第3陣の発売に当選したのです!家に届くのは5月後半です!楽しみ過ぎます!ねぇねぇ、どの種族がオススメですか?」

コイツ、うざ。しかし5月後半となると、ちょうどイベントが終わったぐらいか。


はぁ、まぁ相談に乗ってやろう。このベテランプレイヤー様が。


「まず、生産職、近接戦闘、魔術戦闘とかプレイスタイルによって違うよ。何をやりたいの?」

「ああ!魔術師が良い!やっぱりカッコよく魔術でビシバシ戦いたいな。でも魔術を使いつつ近接戦闘もしたい」

「ふむ、魔術が主体で近接戦もしたいと...」

「そうそう」


普段は冷めた目つきで、最近だと目すら合わせてこない妹だが、ここぞとばかりにキラキラした目で見てくる妹。


難しいなぁ。魔術が主体となると精霊族が1番良いのだが、精霊族だと近接戦が皆無になってしまう。

それを抜くと魔人族や悪魔族、天使族なんかも魔術の適性が高い。

なんなら、エルフやドワーフでも充分、魔術が強い。

確かサクラはエルフだったな。


そこまで行くと別に人間族でも良いのでは?

む?流石に巨人族は魔術の適性が低すぎるから無しとしても、アンズさんは魚人族だったし、案外魔術を主体にしたいだけであれば、どの種族でも良いのでは?


うん、よし。やっぱりオススメはアレだろう。


「自分のオススメはランダムだ」

「はあ?なんの参考にもならないんですけど、お兄ちゃんに聞いた私が馬鹿でした。お姉ちゃんに聞きます」

そう言って、リビングのソファに戻り早速、スマホでサクラに電話をかける。


「ただいまー、あれ?兄ちゃん。そんな所で何しているの?」

「いや、なんでもない弟よ。今自分は妹にどんな仕返しをしてやるか、考え中だっただけだ」

「ええー...何?また喧嘩したの?程々にしておきなよ?紅葉が泣くと慰めるの大変なんだから」


ふっ流石弟だ。既に紅葉が泣く前提で話を進めている。

兄がこう言った事に容赦が無いのを知っているのだろう。


弟と少し会話して、弟は部活の汗を流して宿題をさっさと終わらせる為に風呂に入り、自分は自室でゲームをやる事にする。


偉いなぁ弟は。兄ちゃんは大学の友人と遊ばず、真面目に勉強もせず、大した青春もない大学生活を送っていると言うのに、弟の青春を謳歌している姿を見ると、眩しくて目を瞑ってしまう。


そして現実逃避気味にゲームの中に舞い降りる。

目覚めるとマイホームのベットの上。


近くには誰もいない。ベルかビャクあたりは一緒に寝ているかと思ったけど、どこかで遊んでいるのだろうか?


寝室を出て皆が集まっているであろう庭に、繋がっているリビングへ向かう。

まぁ予想通り、机の上で走り回るベルとシロツキ。

その机の周りを面白がって駆けるマメとコン。


部屋の隅の方で丸くなるイナバ。


庭では、テスカとハティが、昼寝を楽しんでおり、ヒノワは木の下で、胡座をかき木の実を頬張っている。

そんな木の上ではルフが羽を休めており、オリーブはのそのそと庭を徘徊し、そのオリーブの角にビャクが巻きついている。


ゴウキは相変わらず、玄関の方で寝ているのだろう。


イベントまで一週間。

自分の予定は決まっている。


取り敢えず、今日は第5の街にある墓地に向かおうかと思う。

第5の街の南側には巨大な墓地があり、そこにはアンデット系のモンスターが数多くいるらしい。


そんな訳で、自分は久々に攻略に取り掛かろう。

第4の街はゲームの前線ではあるが最前線では無い。

第4の街に到達しているプレイヤーは少ないが、第5の街には数名のプレイヤーが既にいる。


第4の街と第5の街の間にいるBOSSは大蜘蛛。

正直、見た目が見た目なだけに忌避していたが、第5の街の墓地に用事ができてしまったので仕方がない。


そんな訳で、今回連れて行くのは、

「テスカ、ヒノワ、ハティ、ルフ、オリーブだから。宜しく。他のメンバーもいつ呼び出されても良いように準備はしておいてね」


庭から玄関まで移動する。

「ギヒ」

そこには今回は戦闘しに行くって察したのだろう、準備万端って感じでこっちを見てくるゴウキ。


「ふっ分かってるって。召喚するから待っててよ」

ゴウキって意外と足遅いからね。

このメンバーで移動となると、自分はテスカの背に乗るし、他のメンバーも足は速いからね。


この中だと一番遅いヒノワですら、人間とは比べられないぐらい速い。


今日中に第5の街の墓地まで行きたいから、ゴウキには戦闘になるまでお留守番してもらう。


そして、玄関を出てテスカに跨る。

「ヒノワ、『合体』しておこうか」

「ガウ」


ヒノワと『合体』して攻撃力と耐久力を底上げしておく。

クマの耳が頭から生えて、髪は黒くフェーブがかかる。

なぜフェーブがかかるのかはわからない。


「よし!テスカ宜しくね」

テスカの背に跨り、出発する。


目指すは今自分たちがいる第4の街近くの森から真っ直ぐ北に向かう。


途中、森で襲いかかってくる虫達。

蝶々から、蜘蛛、カブトムシに至るまでこの森は虫が多い。

いちいち、相手するのが面倒だから、ハティの『咆哮』で打ち落として各々が踏み潰しながら進む。


蝶々は麻痺させてくるし、蜘蛛は毒状態にしてくるから、第4の街は人気がない。

第4の街まで到達しても第3の街にあるダンジョンでレベルを上げて、装備を整えてBOSSに挑戦する奴が殆どだ。


まぁ不人気な街って事で、人も少ないから安く家を買えたし、マイホームになれば家の中にモンスターが出ることも無いしね。


「へっっくしゅん!あっ!やべ、オリーブ!」

「グモウ」


くしゃみと同時に、蝶々の鱗粉を吸ってしまい体が麻痺する。

だが、そこは安心!


オリーブには『浄化』と言うスキルがあり、スキルを発動するとオリーブを中心に1、2メートルの範囲で状態異常を回復するスキルになっている。


プラスの効果でアンデット系にも大ダメージを与えてしまうから、クラン対抗戦では出番がなかった。

まぁオリーブは素の力でも充分強いからね。


そんな強行突破をしてついたのは空高く聳え立つ柱。BOSS戦用のポータルだ。


柱の周辺には殆んどの場合、BOSS戦前の準備をしているプレイヤーがいたりするのだが、タイミング良く周囲にプレイヤーはいない。


まぁ第4の街まで来ているプレイヤーは少ないだろうしね。


「よし、ハティ。ありがとう」

『咆哮』を容赦なく使っていたせいで、疲れたのであろう、息を切らしているハティを送還する。


そして

「ゴウキ!出番だよ」

「ギヒ!」


ゴウキを召喚する。

今にもゴウキは暴れ出しそうなので、さっさと柱に触ってBOSS戦用のフィールドに移動する。


すると、BOSS猪と戦った時とは違って、普通に森の中。

動き回れる程、開けてはいない為、自分の白凪やゴウキみたいな巨体だとちょっと戦いにくいかも知れない。


その点、大蜘蛛は木々を飛び回るので酷く戦い難い。


「ゴウキ、暴れろ!」

「ギヒヒ!」

それと同時にゴウキの前に現れる大蜘蛛。


流石にBOSSってだけあってゴウキよりは大きい。

だが、所詮は蜘蛛そんなひょろひょろな脚では、ゴウキのタックルには敵わんだろう。


ゴン!!!

ゴウキと大蜘蛛がぶつかり、吹き飛ぶゴウキ。


「えっ?マジか...よし皆んな!ゴウキのフォローするぞ!」

自分の呼びかけにより、テスカ、ルフ、オリーブはそれぞれ散り散りに行動を始める。


最近、ちゃんと指示を出さなくても動いてくれる様になった。


テスカとオリーブは周辺に発生している普通サイズの蜘蛛(と言っても1メートルは身の丈があるのだが)の相手をして、ルフは空中から大蜘蛛へ『風属性魔術』を喰らわせる。


ゴウキが立ち直るまで、自分も大蜘蛛の牽制に行く。

こう、飛ばされた時のゴウキは立ち直りが遅いのが欠点だよな。


てか、この大蜘蛛、見た目の割に馬鹿力なのか?


いや、違うな。糸と跳躍によって木々を縦横無尽に移動する大蜘蛛。

ひょっとしてあの巨体でそんな動きが出来るなら、さぞ軽いのかと思ったが、筋肉達磨みたいなゴウキが飛ばされた。


重量感を感じさせない程、筋力が優れているのかとも思ったが、それだったら着地の時とか音がするし、何より周囲の木が耐えられない気がする。


まぁ、ゲームだからで片付けられる事ではあるんだけど、試してみるか。


自分が何かしようとしているのに気がついたのであろうルフが、『風属性魔術』で自分の方へ誘導してくれる。


ルフはそう言った配慮というか、計算が得意な気がするな。


木々から飛び降りる様に、大蜘蛛が自分に突進してくる。さっき、ゴウキが吹き飛ばされた突進と同じ。


自分はそれをお得意の棒高跳びみたいなアクロバットで躱し、大蜘蛛のケツから出ている糸をすれ違いざまに、白凪で切る。


すると、大蜘蛛は勢いそのまま自分の後方にあった木に顔面から衝突し、目を回している。


ようやく、復活したゴウキがそんな無防備な大蜘蛛を見逃すわけもなく、手に持った斧で叩き潰す様に何度も何度も振り下ろす。


ルフも時折、『風属性魔術』で大蜘蛛が逃げようと飛ばした糸を切っている。


よし、これならすぐに決着がつきそうだな。


因みに、大蜘蛛がゴウキを吹き飛ばせたのは、木と糸を使って遠心力を発生させていたから。


勿論、大蜘蛛は巨体と言うこともあり軽くはない。ただ、その重さと筋力ではゴウキを吹き飛ばすほどの力は生み出せない。


そう考えると後は簡単だった。

木々を飛び回る大蜘蛛を観察していれば、徐々に移動速度が増していくのが分かった。

それに耐え得る糸と周辺の木は凄いんだけどね。


「フシュー!!!」

おお?やべ。


慌てて大蜘蛛から距離を取る。

だいぶHPが減ってきたのであろう、最後の悪あがき的な意味で周辺に蜘蛛の糸を撒き散らした。

しかも粘着性の高い糸を。


ルフはなんとか躱していたが、ゴウキはモロに喰らってしまい、身体が動かないみたいで芋虫みたくなっている。


「ファイアボール」

ゴウキに向けて『火属性魔術』を使う。

そうすると見る見るうちに、蜘蛛の糸は燃えてゴウキまで燃え始める。


「アクアボール」

『水属性魔術』で消化する。


「ギヒ」

怒り心頭なご様子のゴウキ。

自分を睨んでくるので、


「あん⁉︎」

此方も睨み返すと、そっぽを向くゴウキ。


こう言った上下関係は大事なんだと気づいた。

勿論、ゴウキ以外の従獣に対しても同じ様に接するが、特にゴウキに対しては此方が少しでも下手に出ると調子こき始めるからな。


ゴウキはこの苛立ちを大蜘蛛に向けようと決めた様だ。再び飛び回る大蜘蛛と、いつでも突進が来て良い様に構えるゴウキ。


まさか、また正面から迎え撃つ気かよ。

ゴウキのHPは最初の大蜘蛛の突進と、自分の魔術で大分減っているから、次は耐えられないと思う。


まぁ、ここはゴウキの気持ちを汲んで、手は出さないけど。


「ギヒッ」

ゴウキは斧を両手で持ち、後ろに構える。


再びゴウキに向かって飛んでくる大蜘蛛。

表情は分からないが此方も今まで嬲られて大そう怒っているに違いない。


ゴウキも怒りを力に変えるってほどではないが、斧を持つ手に力を込める。


大蜘蛛とゴウキが衝突する一瞬前、ゴウキは一歩左にずれて、後ろに構えていた斧を振りかぶる。

それはまるで、野球のバッティングの様に振り抜いた。


まさか、野球を見たことないゴウキがそんな事するとは思ってなかった。


そして振り抜いた斧は大蜘蛛の顔面に深く突き刺さり、絶命させる。


テスカとオリーブが相手していた蜘蛛も光となって消えていく。


思ったより苦戦したけど、BOSSって考えれば苦戦して当然かな。


最近、ダンジョンとか攻略情報とかが出ているモンスターしか相手していなかったから油断してたかもね。


勿論、この大蜘蛛に関しても攻略情報は出てるんだけど、少ないし今回はあまり情報を見ずに来たっていうのも大きいのかも。


「お疲れ、ゴウキは休んでていいよ」

「ギヒ」

ゴウキを送還する。


「他のみんなもお疲れ。もう少し付き合ってね」

フィールドの中央に出現した柱に触れて第5の街へ移動する。

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