3話 兎と猫
自分は今、ゲーム開始時と同じ広場に立っていた。隣には角ウサギのイナバもいる。
何故か、自分とイナバは広場に立っている。
なんでだろうなぁ。
チラリとイナバの方を見ると此方を見上げて、自分の考えを察したのか、(やれやれ、頭沸いてんじゃないかコイツ)って感じのジェスチャーをしている。
わかってんだよ!そんなことは!
そう、遡ること数分前、、、
自分とイナバは初めての『合体』に成功し格段に上がった素早さで猪3匹に立ち向かった。
素早さだけなら猪3匹に勝ってたけど、イナバの攻撃力と、そのイナバにすら負ける自分の攻撃力では猪に決定打を出すことができず、無事死に戻った。
そして、今になって後悔している。
なぜあの時立ち向かったのか、素早さが上がったのであれば走って逃げれば良かったじゃないかと...
まぁやってしまったのはしょうがない。
「改めてよろしく。イナバ」
「キュイ」
イナバへ手を差し伸べるとイナバは前足を手に乗っけてくれる。
可愛いな!もふもふで癒される。
そういえばデスペナは特にないな。
身体が重くなってるとか力が入らないとかもないしな。
「メニュー、あっ」
所持金が減ってやがる。
元々5000Gで短剣に3000Gを使った。
2000G残っているはずが、500Gしか残っていない。
所持アイテムは装備以外にそもそも短剣のみで変わりない。
もしかしたら、所持金だけでなく所持アイテムも持ってれば無くなってたのかも知れないな。
「はぁー、どうしよう」
取り敢えずイナバを頭の上に乗せて街を散歩する。
ふんふん。
頭の上でイナバが鼻をヒクヒクさせてる感じがする。
「キュイ!キュイ!」
「うあ?」
イナバが頭から飛び降りて、近くにあった屋台に直行した。
どうやら、屋台で売っている串焼きの匂いに釣られたっぽいな。
「おや?なんだこの角ウサギは?誰かのペットか?」
「すみません。うちのペットです」
屋台で串を焼いてたおっちゃんがイナバに気づき続いて自分に気づく。
イナバを頭に乗せようとするが、
「ギュイイイイ」
「コイツ、おら行くぞ。うぬぬ」
すげぇ力で踏ん張りやがる。
自分のこの非力なステータスじゃあウサギ1匹持ち上げることもできんのか。
「はっはっは!何してやがる嬢ちゃん。どうやらそのウサギは随分とうちの串焼きを気に入ってくれたみたいだな」
オッちゃんが自分達の攻防を見て笑っている。
しかし、嬢ちゃん?...嬢ちゃん?...ジョウちゃん?...じょ...う...ちゃん?
ああ成る程!
「自分の名前はジョウ・チャンと言う名前ではありません。ミズキと言います」
「ん?あーいや。あ?ああ、うん。そっかミズキか。よっよろしくな。俺はガバイトだ」
ガバイトか。NPCとは言え覚えておいて損はないだろう。
「よろしくお願いします」
「それで、そのウサギはうちの串焼きをご所望のようだが買ってくか?1つ150Gだぜ」
正直、金欠だから買いたくない。
でもこのイナバの様子じゃあ、無理矢理、連れてけば拗ねるだろうな。
何しろ、自分の力じゃあ動かない。
「はぁー、1つ買います」
「おう!毎度あり!そんな顔するな!サービスでもう一本付けといてやるよ」
「ありがとうございます」
そんな訳で屋台から少し離れたベンチに座り膝の上にイナバを乗せて串焼きを食べさせてあげつつ、サービスで貰ったもう一本の方を食べる。
「お前、ちゃんとこの後、150G分は働いてもらうからな」
「キュイ〜」
通りを行き交うプレイヤーを眺めているとやはり自分と同じ初期の装備に身を包んだ人ばかりだ。
ただ、武器に関しては人それぞれで大剣や片手剣、自分も使っている短剣、槍に盾、弓矢などなどゲームが始まったばかりしてはバラエティに富んでる。
武器だけじゃなく、種族もバラバラだ。
猫耳や犬耳をつけた獣人族に、長い耳が特徴的で細身のエルフ、逆にゴツい体型のドワーフ等々、色々な種族のプレイヤーがいる。
まぁ最低でも12種族はいるし、自分みたいにレア種族のプレイヤーが何人もいるからな。
皆が足早にどこかに向かう中、ゆっくりベンチに座り串焼きを食べながら、移ろい行く風景を眺めるのも悪くはないかな。
モンスターを討伐するのに夢中で、ちゃんとこの街を見ていなかったし。
「キュ〜」
イナバも串焼きを食い終わって寝ちゃったみたいだし、膝上のイナバを撫でながらゆっくりするか。
「にゃあ」
うん?白い猫だ。
お?ベンチに乗ってきた。
なに?自分の手にある串焼きに視線が合ってる。
まだ一口しか食ってないんだけど。
まぁいいか。どうせ貰ったものだし。
「これ、いるか?食べかけだけど」
「にゃあ」
「そう」
美味しそうに食べるな。
この串焼き動物が好む変な調味料とか入ってないよな?てか今更だけど、この肉何の肉だ?美味しかったけど。
「はっっ!」
ひょっとしてこの肉、ヤベェ肉なんじゃね⁉︎
「うーにゃぁ」
どうやら食べ終わったようで、猫がベンチの上でゴロゴロし始めた。
どれどれ、その白い艶やかな毛並みを撫でて進ぜよう。
おお〜艶々や〜
「キュ!」
おお?イナバが起きたか。
果たしてどれだけの時間が過ぎたのだろう。
撫でるのに夢中になり過ぎた。
「うんじゃ!そろそろ行くか。じゃあね猫ちゃん」
イナバを頭に乗せて、西の草原に向けて歩き出す。
結局、角ウサギを討伐する依頼を完了してないしね。イナバを討伐するわけにもいかないし。
「にゅあ」
「ん?」
振り返るとそこには先ほどの白猫がいた。
どうやらついてきたようだ。
「どうした?もう串焼きは持ってないよ」
屈んで白猫に話しかける。伝わってないと思うけど。
「キュ!キュイ!」
「お?」
どうやらイナバが何かを伝えたいみたい。
なんだろう?
...成る程。成る程。『テイム』しろってことか!
「『テイム』!」
「にゃあ」
「キュイ」
どうやら当たりだったみたい。
イナバがドヤってるけど、イナバが言ってることが理解できたわけじゃなく、単についてきたから一緒に行きたいって事かなと思っただけだ。
仮に『テイム』に失敗してもデメリットは無いしね。
「シロツキ、これからも宜しくね」
「にゃあ」
イナバは頭に、白猫のシロツキは胸元に抱えて改めて、当初の予定通り西の草原に向かう。
仲間も1匹増えた事だし、森に近づいて猪とかとエンカウントしない様にすれば大丈夫だろう。
今更だけどシロツキって戦えるのかな。
街中にいたから普通の野良猫っぽいけど。
草原に到着すると、シロツキが「にゃあ、にゃあ」と鳴き始めどうやら何処かに誘導しているみたいで、シロツキの示す方へ向かうと角ウサギがいた。
イナバとシロツキと自分で周りを取り囲み、リンチにした。まぁリンチと言っても角ウサギの正面で自分が囮になり、隙を見てイナバとシロツキで攻撃してもらう形である。
イナバは自慢の角を生かして突進を、シロツキは爪でチクチクと攻撃していた。
角ウサギ1匹に結構、苦戦したけど、まぁ倒せたから良いだろう。
そんな感じで、その後はシロツキの誘導もあり順調に角ウサギを見つけ5匹倒した所で冒険者ギルドへ依頼達成の報告はした。
取り敢えず動物OKな宿屋を借りてログアウトをした。




