20話 クラン対抗戦(カナタ)
■カナタ
本隊である私達は平原を大きく迂回しながら、敵陣の背後にまわるように移動していた。
「カナタ大丈夫か?」
「うん。大丈夫。ありがとうグレンくん」
ふぅ、それにしても結構歩くなぁ。
「ふふっカナタちゃんとグレンくんは仲良いのね」
精霊族のティアーナさんが話しかけてくれる。
はぁぁ、幸せ。
最初、ムネトさんって言うイケメンにクランに誘われて、正直私は乗り気ではなかった。
グレンくんやミツルくんが乗り気だったから仕方なく着いて行った感じだった。
だけど、団長のアオバラさんを始め、街中で見かけて一目惚れしたミヅキさんと、そのお姉さんのサクラさん、他にもクランのお姉様的存在のアンズさん、今話しかけてくれたティアーナさん、巨人族でクールビューティなディアナさん、ロリカワイイ、サユリちゃんとクロユリちゃん。
ここは私のシャングリラ!
「ふふっカナタちゃんは面白いね」
はっ。ついつい、妄想に耽ってしまった。
ひょっとしてティアーナさんに私の性癖がバレてしまっただろうか?
ティアーナさんの隣に控えるディアナさんは、表情が変わらなすぎて読めないが、ティアーナさんに関しては確実に面白がっている。
「カナタは人見知りなんですよ。ティアーナさんとも出会って1週間になるんだからそろそろ慣れろよな」
グレンくんがフォロー?してくれる。
「うっうん。そうだね。頑張るよ」
別に人見知りって訳では無くティアーナさんが可愛すぎて顔を見れないだけなんだけど、そんな事説明できないので周りには人見知りで通してる。
「ふーん、そうなんだー。ふふっ」
何か私は分かってるぞみたいな。変な含みを持たせた感じで笑われた。
ヒェー、ひょっとして心を読まれてる⁉︎
「ははっ余りカナタちゃんをいじめてやるなよ」
「むぅ、人聞きが悪いわね。アオバラさん」
さすがアオバラさんカッコいい!
頬を膨らますティアーナさんもイッツソーキュート!
「少し気を緩めすぎですよ」
「そうだよ。一応今は戦闘中なんだから気を抜きすぎないでね」
はぁ〜、サクラさんもアンズさんも美しすぎる。
エルフ族のサクラさんと人魚のアンズさんは、美人でみんなのお姉さん的な感じがする。
そんなこんなで、暫く敵本陣の背後に回り込む様に、移動する。
廃墟が見え始めた頃、突然目の前に忍者が現れた。
瞬間移動でもしてきたのかな。
「ん?フウマか?」
「すまぬ。遊撃班。壊滅」
「なに?」
「詳しく説明してくれるかしら」
「うぬ...」
遊撃班の役割は本隊である自分達と奇襲班、それぞれの戦場を俯瞰できる位置にて、状況に応じてどちらの戦場の加勢に入れる様に待機していた。
だけど、敵クランも考える事は同じ様で敵クランの遊撃班が11人もきたと言う。
しかも、此方は奇襲を受けた為、ハヤト君がデスペナになってしまったらしい。
このクラン対抗戦では一度デスペナになると戻れない。
人数的にも不利な此方側はムネトさんとタカさんの機転により、カンダさんとフウマさんを逃すことに成功したらしい。
2人で逃げる際に奇襲班が劣勢になりつつあった為、カンダさんがそちらの加勢に向かい、フウマさんが本隊に報告をしにきたと言う。
「成る程。そういう事ですか」
「思い通りに行かないものだな」
話を聞いたサクラさんとアオバラさんが神妙な顔をしている。
はぁ〜そんな表情も絵になる。
「どうする?俺がムネトとかを助けに行こうか?」
「それなら、俺も行きますよ」
「うん。ムネトさんにはお世話になってるしな」
グレンくんとミツルくんがミヤモトさんに続く様に、手を挙げる。
「いや、それはなしだよ」
「えっ?どうしてですか?」
「見捨てるって事っすか?」
テメェら、何やってんだよ。アオバラさんに詰め寄ってんじゃねぇよ!
あら、いけないわ。
ついつい、グレンくんとミツルくんがアオバラさんに詰め寄るのを見て心を乱してしまった。
「団長が言ったのは、貴方の仰る通り見捨てるって意味です。敵プレイヤーが11人もいます。仮に助けに行くとなった場合、確実に助けるにはここにいる11人全員で助けに行く事になるかと思います。11人全員で敵に見つからない様に移動するには、大変時間がかかるでしょう。今から助けに行っても手遅れの可能性が高い。助けた後の戦闘も考えると時間がかかり過ぎです」
サクラさんの捲し立てるかの様な正論にグレンくんもミツルくんも黙ってしまう。
ただ、それでもサクラさんの勢いは止まらないようで...
「元々、我々の作戦としては短期決戦だった筈です。その為に囮役として奇襲班の4人を敵本陣に突貫させて、その混乱の最中に更なる奇襲を我々でしかけようと言う作戦でした。期待通りに現在、敵本陣の大部分は混乱中です。時間が経てば時期に混乱も無くなりどんどんと此方の不利になっていくでしょう。そうなれば勝ち目は無くなります。今、私達がやるべき事は、敵本陣が混乱している中、背後から敵クランの団長を討ち取る事です」
「うん。サクラが言った通りだ。このままだとムネト達だけで無く、奇襲役を買って出てくれたメンバーも無駄死にになってしまう。私達の働きによってこの対抗戦の勝敗は決すると肝に銘じろ」
やっぱりアオバラさんはカッコ良いなぁ〜
サクラさんに言葉で殴られて暗くなっていたグレンくんやミツルくんの表情も元気を取り戻したし、さすが団長って感じだなぁ〜
「それで団長、俺達はこのまま敵本陣の背後に回り込む様に移動するって事で良いのか?」
ミヤモトさんは一刻も早く戦いたいって感じだなぁ~
「報告。敵本陣から10人程のプレイヤーが離脱していたのを確認。敵クランの団長と幹部かと思われる」
フウマさんが「逃走中に確認」したとの事。
「真っ直ぐ進めば、接敵」
「はっ!いいねぇ!正面勝負ってことか」
フウマさんは更に情報を提示してくる。優秀な忍者だぁ〜
「団長、副団長、どうする?このまま進むのは危険な気がするけど」
「私もちょっと罠な気がするわ」
「うーん、私もお姉様達に賛成!」
アンズさんとティアーナさんは、罠だと思ってるみたい、てかリンカちゃん、いつの間にアンズさんとティアーナさんの事お姉様って呼んでるの⁉︎
わっ私もさりげなくお姉様って呼んでも良いかな...
「いや、此処は罠だとしても敵の団長に少しでも近付いておくべきだ」
「そうね。此処で逃げても無駄に時間を消費するだけです。であれば、罠に警戒をしつつ敵と接触するのが得策かと思います」
さすがアオバラさんとサクラさんイケイケだぁ。
「そうと決まれば、サクッと敵クランの団長を見つけて、倒しちまおうぜ」
「フウマ、敵の位置は分かるか?」
「問題無い。把握している」
「そうか...」
フウマさんの案内の元、平原を突き進み、廃墟が立ち並ぶエリアまで来た。
皆さん警戒しながら進む。
「ふっふっふ、待ってたよ!百花絢爛の皆さん!」
数メートル先に仁王立ちする敵クラン団長がいた。
「随分と無防備だな!ルーク!」
ゴウッ!
バンッ!
団長の雄叫びとともに突然、近くから音が鳴ったと思ったら、敵クランの団長の近くで何かが弾ける音が鳴った。
「随分なご挨拶だね!アンズさん!」
「流石ね。副団長さん?」
「ふん、そう簡単に団長に攻撃出来ると思わないことです」
敵クランの団長さん、アンズさんに無視されている。
てか、敵クランの副団長さん、デカい。
見た目はミヤモトさんと同じ、竜人族だけど身長が少なくとも2mはある。
流石に巨人族のディアナさん程じゃ無いけど。
そもそも、今どんな攻防が行われていたのかもわかんない。
「相変わらず手癖が悪いよ。姉さん」
「うっさいわね!カイト!あんた実家帰った時、覚えておきなさいよね!」
何⁉︎アンズさんの弟だって⁉︎羨ましい...
家に帰ればアンズさんが待っていてあれやこれや...ぐふふ。
「おやおや?アオバラさんとサクラさんはお揃いのお守りを持ってるんだね?もしかして、蘇生アイテムだったりするかな?」
「マジっすか団長⁉︎蘇生アイテムってまだ見つかって無いんすよ」
敵クランの団長とその取り巻きが騒ぎ出す。
うん?そう言えば、たしかに2人とも腰あたりにお守りをつけてる。赤色のお守りと橙色のお守りで若干、色が異なるみたいだけど。
「貴重な装備枠を使っても装備したい御守りとは確かに気になりますね」
「姉さんは知ってる?そっちの団長と副団長は口が硬そうだから教えて欲しいんだけど」
「バカじゃないの?知ってても教えるわけないでしょ」
「チッ、役ただず...」
ええー口悪⁉︎あの男の子。最初は大人しいインテリ系かと思ったけど案外、見かけによらないんだね。
「そろそろ、我慢できないわ...ねぇ団長、攻撃していいかしら?良いよね?行くわよ?」
「まぁ落ち着け、間者を炙り出さないままだと、集中できない。戦闘中に寝首をかかれても困る」
え?間者?間者ってなんだろう...ああ、スパイの事か。
うんうん成る程。ってスパイ⁉︎そんな人がこの中にいたの⁉︎え⁉︎誰?誰?
「クックック、やはり気づいていましたか。いやはや、このまま隠れていられれば簡単に勝てたのですが...そうも行きませんね」
フウマさんがゆらりといつの間にか敵クランの団長の側に立っている。
いっいつの間に移動したんだろう。
「それは私が面白くない。確かにアオバラさんの驚く顔が見たくはあったが、やっぱりクランの団長同士、正々堂々と戦わないと面白くないからね!」
「よく言うよ。此処までフウマに化けたそいつに誘導させておきながら」
見える!見えるよ私には!団長同士の視線が火花を散らしているのが!
てか、フウマさんの顔がピエロになってる⁉︎
いつの間にか装備も忍者から道化に早変わりだ⁉︎
凄い!なんかのスキルかな。早着替えとか欲しい。
「ああ!安心して良いよ。ここら辺に罠なんてないし、伏兵もいない。正々堂々今この場にいるのが私のクランの全力だよ」
そう言って手を広げる。
その背後に立ち並ぶ様に敵クランのメンバーが並ぶ。
さっきのフウマさんだった敵プレイヤーも含めて。
「おいおい、こっちはフウマが偽物だったから10人しかいねぇんだぞ。オメェらはその偽物含めて12人。これで正々堂々かよ」
「ふっふっふ、数も力だよ。元々私達はクランメンバー全員で完膚なきまでに勝利するつもりだったんだけど、クロユリちゃんやミヅキさんの所為でこれだけしか動かせなかったんだから」
「おいおい、サイトとサユリちゃんも忘れるなよ」
「ああ、そうだったね。ホント厄介だよ幼女悪魔も天使の女の子も...まぁまぁ、安心してよ。そっちには5人の幹部を置いてきたし、中には暴れたら取り返しのつかない私達クランの切り札もいるから。寧ろそっちが早く片付いて、こっちの加勢にでも来られたら興醒めだよ...」
「あまりミヅキを舐めない事です。あの子はやる時はやる子です」
「ふっふっふ、舐めてない舐めてない。寧ろ逆だよ。想定以上にミヅキさんが厄介だったから、私達は切り札を置いてくるしかなかったんだよ。あっ!だからって安心してね。こっちにも残り3人の幹部は連れてきてるし、あっちにいる有象無象とは違ってこっちは先鋭しかいない!楽しませられるよ!」
「随分な自信だな!その勝負受けてやるよ!」
「ふっふっふ、退屈させないでね」
先程までの元気さとは裏腹に、低く影を落とした様な声は、それでいて透き通る様にこの場にいる全てプレイヤーを魅了してみせた。




