14話 狸
「マメは言葉は理解できてるみたいだけど、喋れはできないんだね」
手を繋ぐマメをみるがニコリと笑顔を返される。
言葉を理解できているかも心配になってきた。
スキルを使ってって言えば使ってくれたから、言葉を理解しているかと思ったが。
よくよく考えたらイナバもシロツキもテスカも戦闘の時は指示通り動いてくれるから、何をして欲しいかとかは理解できてるんだろうな。
「あっそう言えば」
フレンドリストからあるプレイヤーを探しメッセージを送る。
噴水広場で待ち合わせか。
取り敢えず噴水広場に到着する。
噴水の縁に座り、待人を待つ事にする。
イナバを膝上に乗せ撫でる。テスカは足元で寝転がりマメは自分の子供姿で隣に座り、足元のテスカを撫でている。
シロツキは『合体』中だから自分の中にいる。
なぜ今戦闘でもないのに『合体』しているのか、それは色々と楽だからだ。
『合体』していない状態だとステータスが低すぎて街を歩くのも遅くて時間がかかるのだ。
素早さのステータスがどれだけ大事かを痛感する。
「あっミヅキさんお久しぶりです」
「お久しぶりです。いきなり呼び出してすみません」
自分の目の前にいるのはカナエさん。
以前、テスカを撫でさせてくださいと、街中で話しかけてきた女の子だ。
その時に防具屋を目指してるって言ってたし、そろそろ初期装備から脱却したいなと思って連絡した。
「防具作成の依頼をしたいなと思いまして」
「本当ですか⁉︎是非是非、私に作らせてください」
「取り敢えず、この素材の中で使えるのがあれば使ってください」
そう言ってアイテム欄から送ったのは、BOSS猪を含めた猪の皮とかだ。
「あっありがとうございます。てっえっ?BOSSをもう討伐されてるんですか?凄いですね」
「ええ、成り行きで」
「じゃあ、このBOSS猪の皮を主にして作っちゃいますね。あっそう言えば余った皮とかはどうしますか?いらなければ買い取らせていただければと思いまして」
「買い取っていただけるとありがたいです」
「わかりました。作成費から引かせて貰いますね」
その後も色々と細かな防具の要望なんかを話して、本日は別れた。
その後は従術士ギルドに顔を出していた。
昨日の今日で特に変わった事はない建物に入る。
「お疲れ様です」
「あっミヅキさん。昨日ぶりですね。卵生まれたんですね。人型ですか?大変珍しいですね」
受付のお姉さんがいたので話しかける。
マメの姿を見て少し驚いた様子だ。それだけ人型って珍しいんだな。
てか人型のモンスターがいるって事だよな。
そう考えると案外、さっき見かけた幼女2人を連れた変態も...いやどっちにしろ変態だな。
「本日はどう言った御用でしょうか」
「ああ、すみません。個人用のポータルについて伺たくて」
前回、聞いてなかったなと思って今日はきた。
「成る程。因みにマイホームはお持ちですか?」
「いえ、持ってないです」
「そうしましたら、まずはマイホームの説明からさせていただきます。
マイホームは冒険者の方達にとっての行動の拠点となる場所です。簡単に言ってしまえば個人所有の家です」
だろうね。
「冒険者の皆様はまず職業ギルドのランクが2以上である事が条件になります。
職業ギルドのランクが2以上になる事で土地を買う権利が与えられます」
「その後は簡単です。お金を払って土地を買い家を建てるだけです」
説明は簡単だろうけど1番難しそうなんだけど。
「そして個人用ポータルについてなのですが、こちらは職業ギルドのランクが3以上である事が条件になります。こちらもマイホームと同様にランク3以上になると個人用ポータルを買う権利が与えられます」
買う権利が与えられるのね。
くれる訳じゃないんだ。
「ただ、幾つか抜け道も存在しております。
まず、農業ギルド等の一部のギルドは職業ギルドのランクが1の状態でも土地を購入する事ができます。幾つか制約はありますが」
これは無いな。農業やるつもり無いし。
「次に賃貸の場合です。土地を買う権利はなくとも、家を借りる事はできます。後は鍛治士として住み込みで働く場合もありますね。個人用ポータルがもともと設置されているような物件を賃貸すれば個人用ポータルが使えます」
賃貸の相場が分からないから、凄く高い可能性もある。
個人用ポータルがついている物件となると更に高くなりそう。
「最後はクランに所属する場合です。
クランに所属する場合、マイホームとは別にクランホームを設ける必要があります。
クランを設立するには設立者の職業ギルドのランクが3以上であることと、設立者とは別に所属するメンバーが6人以上、必要です」
成る程ね。クランの設立者が職業ギルドのランクが3以上であるから、その人が個人用ポータルを買ってクランホームとやらに設置すれば良いのか。
「職業ギルドのランクってどうやって上げるんですか?」
「それぞれの職業ギルド毎に異なりますが、従術士ギルドであれば、街毎に存在しているBOSSの討伐と『テイム』している従獣数が一定数を超えていいればランクを上げることができます。ランク5以上になってくると特定の依頼を達成していただいたりする必要ができます」
意外とランク4までは簡単に上げられそうだな。
「一定数ってどれくらいですか?」
「ランク1から2であれば、3匹ですね。ランク2から3は6匹です。その点で言えばミヅキさんは『テイム』数が一定数を超えているので、BOSSを討伐すればランクを2に上げることができます」
難しくなさそう....
「えっ自分、BOSS討伐してますけど、もうランク2に上げられますか?何かBOSSを討伐した証明とか必要ですか?」
「そうだったのですね。であればギルドカードをご提示ください。BOSSを討伐されていればギルドカードに記録される為、早速ランクを上げさせていただきます」
ギルドカードを渡したら何かの機械に差し込むだけで、すぐにギルドカードの更新が完了したようだ。
「土地を購入する際にギルドカードの提示を求められると思いますので、ギルドカードは忘れない様にしてください」
これで土地が買える様になった訳だね。
マジマジと手に持ったギルドカードを見るがどこが変わったのか分からない。
「早速、土地を購入しに行かれますか?行かれるのであれば、不動産屋の場所をお伝えいたしますが」
「購入はしないですけど、相場は知っておきたので教えてください」
「かしこまりました...」
不動産屋の場所を聞いた自分は早速、不動産屋に行って相場を聞く。
第1の街は空いている土地が少なく低く見積もっても土地だけで、500万Gは掛かるらしい。
そこに建築費とかが上乗せされるから、1000万Gは超える。
それに対して第2の街はどの土地も安く、なんなら廃墟も同然な家が一杯あるらしい。
なので廃墟をそのまま使用すれば建築費は0、土地の相場も100万Gと第1の街に比べれば安いもんだ。
ただ、それも長くは続かないだろう。
なんせプレイヤーが何万人いる。
皆が皆、土地を購入するとは思えないが、それでも確実に土地は高騰するだろう。
だからBOSS猪を攻略して第2の街に入ったプレイヤーは攻略情報を公開せずにいるのか。
プレイヤーが第2の街に雪崩れ込んでくる前に良い土地を購入してしまおうと言う魂胆か。
それなら自分も負けていられない。
BOSS猪を討伐した事で装備に使わない様ないらない素材を売却し少しお金に余裕ができたが、武器と防具の製作費で再び0になる予定だ。
何かしら金策を考えねばならん。
どうせなら、第2の街にいると言うアドバンテージを生かせる金策が思いつけば良いがな。
良い案は今の所思いついていないが、一旦宿屋に入ってログアウトする事にした。
リビングに行くとソファーで妹が寛いでいた。
「あっお兄ちゃん。ゲームやってたの?」
「うん」
「ふーん」
半眼で睨む妹と余裕の笑みでそれを受け流す兄。
「マジムカつくなその顔!...そういえばお姉ちゃんも同じゲームやってるって連絡きてた」
「へぇ、桜花もやってるんだ。今年就活だろうに」
2歳上の姉、桜花は実家から遠くにある大学に通う為に今は実家を出て一人暮らししている。
このくらいの年齢になると特に用事もなければ連絡すら取らない。
正直、姉がなんのゲームしてるかとかどうでも良いし、一緒にゲームしたいとも思わない。
「一緒にゲームやれば良いじゃん。折角のオンラインゲームだよ」
「ええー。なんで?」
「お姉ちゃん攻略行き詰まってるって。手伝ってあげたら?」
「ゲームの中でまで会いたくない」
正直、桜花の顔はこれまでの人生で見飽きるほど見てきた。それに会うと何かと面倒な事になる予感がする。
「お兄ちゃんは相変わらずだね」
「そういえば二刃は?」
「学校だよー。部活か生徒会じゃない」
「春休みなのに良くやるなあいつ」
「お兄ちゃんだって高校の時は春休みなのに休みなくバイトしてたじゃん」
確かにそう言えばそうだった。
あの時はどうしてもやりたい事があったからな。
「私がゲームゲットしたらレベル上げ手伝ってよね」
「はいはい、手伝うよ」
妹と駄弁りつつ買い物に出掛けたりとしていると夜になり晩飯に風呂に諸々を終わらせて本日2度目のログインである。
ログインして早速、第2の街に向かうと、面倒なのに絡まれた。
「ねぇねぇお姉さん。うちのクランに所属しない?今の時点で第2の街にいるって事は、相当優秀じゃん。うちのクラン、少数精鋭って感じだけどアットホームな感じだから楽しいと思うよ」
「興味ないです」
「そんなこと言わずにさあ。一回ギルドホームに遊びにきてよ。絶対気にいると思うから」
「結構です」
「お姉さん、掲示板でも噂になってたよ。『テイム』しているモンスターも強いって。ねぇねぇうちのギルドに遊びに来ない?」
かれこれ数分ほぼ無視して適当に第2の街を歩いているが、一向にこいつが離れない。
第2の街の散策とか第2の街周辺に出現する夜型のモンスターを確認するとか色々とやろうと思ってるのにどこまでもついて来やがる。
しつこすぎるだろコイツ。良い加減に諦めろや!
「なぁなぁ」
うぜええ。
「なぁなぁ、そんなツンケンせんとうちのクランに遊びに来ようゴギャッ」
さっきまで隣を歩いていた男は何者かによってぶん殴られて吹き飛んでいった。
「カンダ!テメェ、カタギに迷惑かけてんじゃねぇ」
「カンダ、あなたは私の知らないうちにそんなに落ちぶれたのね。団長と副団長には私の方から報告しておきます」
「失望。それ以上、何も言う事はない」
「...カンダ...キモい」
男女、2名がこじんまりとした店から出てきた。
その内の1人の男がデッカい剣を鞘に入れたまま振り抜いていたからコイツがさっきのカンダとか言うナンパ野郎を殴ったのであろう。
てか知り合いかよ。
「いやいや、だってだって今ムネトさんとどっちが優秀な新人を捕まえてこれるかって言う勝負してるんすよ。その人を連れて行けば俺の勝ちは絶対です。団長も気にいると思います」
「ほう!ムネトとそんな下らない勝負をしていたのか」
「ぎゃああ!団長いつからそこにいたっすか」
カンダとか言うやつの背後に2名の女性が出てきた。
団長と呼ばれた女性はカンダとか言う男の頭を鷲掴みにして、引きずってこちらにきた。
はぁーどんどん人が増えるじゃん。最悪だ。
凄く面倒くさい事になった。
「いやいや、コイツが迷惑かけてすまないね。何か困った事があればうちのギルドを頼ると良い。お詫びと言ってはなんだが、出来る限り協力させていただくよ」
「いえ、大丈夫です」
「君みたいな可愛い子がうちのギルドに入ってくれたら嬉しいけど、無理に誘う事はないよ。入りたくなったら言ってくれ。私らのクランは百花絢爛って言うから」
「ありがとうございます」
少し会釈してその場を立ち去る。
よし!上手く乗り切った。
後は見えない所まで逃げ切れば自分の勝ち!
「待ちなさい」
今まで黙っていた、団長と呼ばれた女性と一緒に現れた高身長の女性から呼び止められる。
「なんでしょうか?」
少し顔を後ろに向けるが身体は正面に向けたまま返事をする。こうする事でせいぜい相手からは横顔までしか見えないはず。
「舐めてるんですか?こっちを向きなさい」
「うぐっ」
なんか分からんが冷や汗が止まらんなー
「ちょっちょっと、何やってんのよサクラ」
「おうおうカンダに続きお前もとはその嬢ちゃんはそんなに強いんか?」
「強い奴にしか興味のない副団長の事だからあり得る。やっぱり俺の見立ては間違ってなかったっすよ」
「副団長が興味を示す。意外」
「何かその嬢ちゃんと因縁でもあるのかサクラ?」
周りの連中も騒ぎ始める。
それ程、副団長と呼ばれる人が自分に興味を示した事が意外だったのだろう。
「さっさとこっちを向きなさい。そして私に手を貸しなさい。紅葉からも聴いているでしょう」
紅葉...クレハときたか。
クッソ、最初に見た時から気づいてた。
桜花の顔は嫌と言うほど見てきた。まさかリアルの顔のまま弄らずゲームやってるとは思わなかった。
幸いにも自分は顔は弄ってなくても髪色とか髪型とかは全然違う。誤魔化せると思ったのに。
自分の平穏なゲームライフがああ
「いつまで、私に背を向けてるつもりですか?貴方の姉の命令ですよ。さっさとこっちを向きなさい」
「チッ、久しぶりだね。オウ...サクラ」
「私の事はお姉様と呼びなさいといつも言っているでしょうに、まぁ良いわ。貴方の姉は今困っています。手伝いなさい」
「嫌だねー。誰かテメェなんかを手伝うかよ。フグッ」
頭を鷲掴みにされ投げ飛ばされた。
ゲームの中だからって腕力強すぎだろ。
周りの連中も呆気に取られていた。
そりゃそうだろう。学校の物静かな奴と学校1の人気者が実は兄弟で、廊下でいきなり喧嘩を始めるようなものだ。
あんまり例えが上手くなかったな。
「貴方はどうしていつもそうなのですか?弟と妹の前だとカッコつけている癖に私の前になるといつもクソ餓鬼になる。もう少し姉を敬いなさい」
紅葉とあんな会話しなければ良かった。
絶対、話題に出したから出てきたんだわー。
「サクラ、もしかして彼女は君の妹かい?」
「妹?...ええ、まあそんな所です」
サクラは団長って女性の質問に自分をマジマジと観察をしてから答える。
てか、いつからテメェの妹になったんだよ。
「へぇ、て事は噂のゲーマーの妹か。強いんだろ?俺と手合わせしてくれよ」
さっき「カタギに手を出すな」的な事を言ってた奴に絡まれた。
てかゲーマーの妹ってなんだよ。
そもそも妹じゃないし。
「その子じゃないですよ。その子はゲームは殆どしない雑魚です」
酷い言われようじゃね。
「なんだ、そうか」
なんで自分を見ながら溜息を吐くんだよ。
「あっでもでも、掲示板で話題になってるすよ。テイマーの先駆者だとか、棒高跳びの人だとか」
誰だよそんな呼び方しやがったやつは。
テイマーの先駆者はまだしも、棒高跳びの人は意味がわかんね。
「君、変人だな」
団長って奴に満面の笑みで肩に手を置かれた。
なんで嬉しそうなんだよ。初対面の人に笑顔で変人とか言えちゃうお前の方が変人だよ。
「変人...確かに変人ですね。『思い立ったが吉日』がモットーの貴方は誰にも伝えず、歩きで隣県に住む祖父母のお家に遊びに行ったり」
「いつの話だよ。小学生の頃の話だろ」
「『ウエディングケーキを食いたい』と突然言い出し、大量の生クリームを買い込みリビングを数日占拠したり」
「みんな美味しいって喜んでくれたじゃんか」
「近所の子供を公園に集めて集団催眠させたこともありましたね」
「いやいや、あれはテレビでやってた振り子を使う催眠が本当にできるのかと思って試しただけだよ。その場にいた友人は皆元に戻ったし」
「まぁあげればキリは無いですが貴方は紛れもない変人です。初対面で的確に本質を見抜くとは、流石ですね団長」
「あははは、まあねー」
団長は笑っているが周りの人達は引いている。
「貴方が変人かどうかなんて議論するつもりはありません。そんな分りきっている事、議論しても無駄です。では早速フレンド交換をしましょう」
自分の不満げな目線に気づきつつも、そんな事はどうでも良いとばかりに、自分に詰め寄り逃げられ無い様に腕を拘束された。
あいも変わらず、こう言った体術においてサクラに勝てた試しはない。
このままだとどうしようも無いので言う通りフレンド交換をしたら、満足そうに腕を離してくれた。
そんなんだから彼氏ができない...
「グフ」
「貴方が考えている事はわかります。顔に出過ぎですよ」
横っ腹に肘鉄を喰らった。
「とりあえずは私たちのギルドで会話しましょう。逃しませんよ。ミヅキ」
襟首を掴まれ連行される自分を心配そうな目線で見つめてくる、イナバ達。
引きづられる自分によりそう様についてくる従獣達を撫でてあげる。
みんな、そんな心配そうな目線で見つめなくても大丈夫だよ。




