1話 災獣のユートピア
VR技術が発達した現代
幾つものVRゲームが発売されて来た。
特にMMORPGは人気で数多くのゲームが発売されてきた。
災獣のユートピアは本日、4/1にサービスが開始した新しいVRMMORPGである。
有名なゲーム制作会社が発表した新作タイトルとの事でそれなりに宣伝され、多くの注目がされているゲームである。
そんなVRMMORPGをゲーム自体あまりやらない自分、水野一月がやる事になった理由は数日前に遡る。
数日前、大学1年から2年に上がる春休み。
大学入学前からお世話になっている教授に呼ばれて教授がいつもいる研究室に来ていた。
「先生、今日は何の用ですか?」
「おお?いや、なに。とあるゲームをやってみないかっていう誘いだ」
PCを操作している初老の男性。
春休み中との事もあり普段は先輩達が集い騒いでいる研究室には自分と初老の男性である先生のみである。
「ゲームですか…自分、あんまりゲームをやらないんですけど」
「知ってるとも!いいとも!」
「はぁ…」
初老の男性は元気よく言い放つ。
「まぁ君を誘ったのは他でもない!ゲームのソフトが余っているんだよ」
一生、この人のノリには着いていけそうも無いな。
「と言うのも、事前に予約して買っていたのだが、個人的に交流のあるゲーム製作会社の責任者から私用のスペシャル仕様のソフトを貰ってね。1つ余ってるんだよ!」
「他にも先輩方がいると思うんですけど」
先生の研究室はAI、いわゆる人工知能を研究している。
その研究はゲームにも大きく影響を与えていると言う事もあり、先生の研究室に集まる生徒は皆ゲーム好きばかりである。
まぁ、中には自分みたいにゲームをあまりやらない人間もいたりはするのだが…
そんな訳でなぜ先輩方ではなく自分にそんな話を持ちかけるのか不思議であった。
「チッチッチ、舐めてもらっては困るよ。既に他の人も誘ったが我が研究室に来るだけあって皆、自分で買っている。君ぐらいだよ持っていないのは」
「確かにあの人達なら…」
買っていないほうがおかしい。
「君ぐらいだよ。私の研究室に通っていてあのソフトを買っていないのは…」
2度も言わなくてもと思ったが、言いたい気持ちも理解できる。
自分が買っていないのは単にゲーム自体にあまり興味がなかったからだ。
ただ、この研究室にいる以上、耳には入っている。
なんでも、そのゲームはAIに力を入れているらしく、自分達が操作することになるプレイヤーと敵対するモンスターのAIを作成するのに何年も費やしたとか、そうで無いとか。
勿論、目の前にいる先生も制作段階で技術的な相談は受けていたらしい。
なによりも海外の凄く有名なAIの開発チームにも技術協力を依頼しており、ゲーム好きの更にAIを専攻しているこの研究室のメンバーがソフトを買わない通りはない。
「という訳で来年度の我が研究室の研究テーマは『災獣のユートピア』の研究になる。君もいずれ正式に所属する事になるのだから今の内、ゲームをやっておきたまえ。以上」
「はぁ」
いちゲームを研究テーマとして本当に良いのかは自分が考えることではない為、どうでも良いのだが、一体いつから自分がこの研究室に所属する事が確定していたのだろうか...
この学校は3年次から研究室に参加する事になる。その際、研究室ごとに定員とかはあるが基本的には自由に選べる。
だから入りたければ入れるんだけど、そもそも入りたいとか一回も言ったことない。
先生は未開封のゲームソフトを自分の目の前に置き、颯爽とPCを持ち別室へ行ってしまった。
まぁいずれやる事にはなるだろうとは思っていたし、ソフトを鞄に入れ帰り道近くの電気屋でゲーム機の予約をして帰宅したのである。
そんな訳で今日大学は入学式の真っ最中だろうが2年次にあたる自分は家でゲーム機の設定をしていた。
VR機は家に幾つかあるがどれも兄弟が使っている専用の機体なので、自分用にバイトで貯めたお金で購入した。
まぁ最新機と言うこともあり届くまで少し時間はかかったがサービスの開始日に間に合ったので良いだろう。
取り敢えず一通りの初期設定を終え自分はVR機を頭に装着しベットに横になる。
VR機を起動し宇宙空間の様な独特のVR空間に来た事を実感する。
目の前にはインストールしたばかりの一つしか存在しないソフトが表示されゲームを開始させる。
タイトルロゴともに現れる『ようこそ』の文字。
さらに表示された『スタート』のボタンを押下した。
視界に表示されたのは白い空間とマネキン、視界に映る『キャラクタークリエイト』の文字とこの空間の説明であった。
説明を読むとどうやらこのゲームは、ステータスは初期値から変更できないみたい。
一応、レベルは存在するみたいだけど、レベルが上がってもステータスは上がらない。
だから基本的にステータスは装備品とか、スキルで補う事になる。
であればレベルが上がっても意味ない?って事はなくレベルを上げる毎にスキルを取得する為のSPが貰えるみたい。
スキルは幾つでも取得できるみたいだけど、アクティブスキルとイナクティブスキルに分かれてる。
アクティブスキルに設定していないスキルを総じてイナクティブスキルと言っていて、イナクティブスキルに設定しているスキルは使用できなくなる。
アクティブスキルも全プレイヤー共通で最大10個までしか設定できないみたい。
じゃあ、最初はみんな同じスキルを取ればステータスも同じになるじゃん、つまんな!って思うやつが出てくる。
まぁ、確かにその通り何だけど。
そこで、このキャラクタークリエイトが重要になってくる。
キャラクタークリエイトで設定できるのはキャラクターの容姿と種族を設定できる。
そう、ここで重要なのは種族!
種族毎にステータスが異なるのだ!
レベルアップによるステータスの変更ができない以上、種族により異なるステータスは重要になってくる。
12種族も存在しているみたいで、例えばドワーフ族だと、ステータスの器用値と物理攻撃、物理防御が高いみたい。
恐らく武器を作ったりしたい人か近接戦闘したい人向けの種族だろう。
他にもステータスは、体力、魔力、素早さ、魔法攻撃、魔法防御があるらしい。
体力が0になったら戦闘不能になるみたいで他の説明は面倒臭くなって読み飛ばした。
多分ゲームに慣れてれば常識何だろう…
てな訳で、そろそろゲーム内の説明を読むのにも飽きて来た頃合いなので、適当にキャラクタークリエイトを終わらせてゲームを始めよう。
まず種族だが、都合が良いことに『ランダム』という項目がある。
どうやら一回だけランダムで種族を選択出来るみたい。中には自由に選択できる12種族以外のレア種族が当たる可能性もあるって書いてある。
最悪、『ランダム』の結果に納得できなければ変更は可能みたい。流石にもう一度『ランダム』を選択する事は出来ないっぽいけどやっておいて損は無いだろう。
というわけで『ランダム』を押した結果、出た種族が『人間族(キメラ亜種)』というレア種族が出て来た。
人間族は普通に選べる12種族のうちの一つでキメラ亜種って言うのがレアなんだろう。
人間族の特徴は平均的なステータスと、他種族よりスキル取得に必要なSPの消費が1ポイントだけ少なく済む事、デメリットが無い事がある。
このデメリットというのは、種族によっては金属系の装備が装着できないとかがあるみたい。
キメラ亜種の特徴は知らん。ヘルプに書いてないし。
って事で他に変更する理由も無いので種族を決定する。
すると目の前のマネキンが変化する。
容姿は丸々自分をコピーした様だが髪色は白く瞳は碧くなっていた。
どうやらレア種族である『キメラ亜種』って言うのが作用してるみたいで変更できない。
他は変更できるので取り敢えず髪の長さを肩ぐらいまで伸ばして中性的な感じにした。
仕方ないじゃ無いか!
自分の顔で白髪と碧眼になると似合わないんだよ!
せめて髪を長くする事で男らしさを減らさないと違和感が凄すぎる。
多分、現実の自分とのギャップで違和感があると思うんだけど…
おっ最後にニックネームを入力するのか。
何にしようか…正直何でも良いんだけど毎回こう言うの悩むんだよなぁ。
水野一月の最初と最後の文字を取って「ミヅキ」で良いか。
良し、完了っと。
ゲームスタート