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誰かと旅する、魔法と超能力の異世界で。  作者: ビターグラス
最初の出会いは幸運で
6/9

では、魔法について教えてやろう

 戦闘を終えて、イサナリは自分の持つ銃を困惑した表情で見つめた。そして、その表情のまま、さふぃを見た。


「サ、サフィ。この銃、弾に威力はないの、か?」


 緊張が解けず、それでも訊きたいことであった。


「いや、銃弾は確かに効力はあっただろう」


「でも、あれには傷一つなかった、だろ」


「もしや、魔法の特性も覚えていないのか? 一体どこの学校に通っていたというんだ」


 サフィは呆れたようにそう言って、魔獣の方に向かった。


「土よ。死者の魂を安らかに、べリエル」


 サフィが唱えると、地面に穴が空き魔獣がその穴に落ちた。その地面はゆっくりと元の形に戻っていく。もう一体の魔獣は解体して、腹部の肉を切り出した。他の肉は先ほどと同じように地面へと埋められた。


「さて、魔法については帰ってから教えてやろう」


 彼女は切り取った肉を宙に浮かせて、歩いて行った。彼も困惑しながらもその背中についていくしかなかった。




「では、魔法について教えてやろう」


 家に着き、彼女が持ち帰った肉の処理が終わり、ホットミルクを飲み始めたところでそう呟いた。


「というか、魔法がどうして使えるのか、知っているか?」


「いや、知らない」


「そうか。では、そこから話すぞ」


 彼女は頭の中でこのイサナリという男を怪しいと感じ始めた。魔法の基礎は小学校で習うものだ。もちろん幼稚園や保育園でもこの手の教育はされる。学校の記憶はあるのに、魔法の知識がない。この様子だと超能力の知識もなさそうである。都合のいい記憶喪失としか思えない。彼女は魔女でその力を利用してやろうというやつは沢山いる。しかし、目の前の男を怪しいと感じていても、こいつを利用してやろうという野望は感じ取れない。彼女が対峙してきた奴らはそういう野望を隠しきれていないやつらであった。ここにきて、野望を隠しきれる人間が来たとしても驚くことではない。しかし、彼女はイサナリをどうしてもそういう奴らとは違うと感じているのだ。人には事情がある。それは彼女も例外ではない。


「まず、魔法を使うには魔気まきというエネルギーが必要だ。これはこの世界のいたるところにある」


「空気みたいなものか」


「いや、空気は魔気がない状態のことだぞ。その土地の魔気は使いすぎれば、枯渇し、死の場所となる。生物は生きられない。あの魔獣ですら厳しいと言う。そういう場所を空気と呼ぶ」


 彼の知る知識で言えば、空気が魔気、真空が空気という理解が一番近いだろう。彼もそう理解した。


「それでだな。この魔気を体に取り込んで魔法を使うんだ」


「取り込む……?」


「君だって今もしているだろう? 呼吸することで体に魔気を取り入れてる。ついでに言えば、生物は全てこの魔気によってできているんだ」


 彼はかろうじて言っている意味を理解してなるほどと呟く。


「それで魔気には火、水、風、土と四つある。これらは濃度は違えど、世界のいたるところにある。だから、空気でなければ、どこでも魔法を使えるんだ」


 彼はそこでようやく、自分も魔法を使えるのだろうかと考えた。先ほどの話では自分も魔気を取り込んでいるらしいから、魔法を使うことはできそうだ。


「そして、魔法。魔法は、イメージだ。こうしたいああしたい、と頭でイメージする。そうすれば魔法が使える。こんな風に」


 彼女は人差し指を立てて、その先に小さな炎を出現させた。彼もそれをまねして、指先から炎が出るイメージをすると、彼女よりも大きな炎が出た。


「うわっ」


 その大きさに驚いたためか、指先の炎は消えた。


「ははは。イメージがうまくいっていないな。もっと細かく鮮明にイメージするんだよ。まぁ、練習していればできるようになる」


 彼女はホットミルクを一口啜った。


「そして、魔法の傷についてだ。魔法でいくら攻撃しても外傷はつかない。ただ、その生物の体を構成している魔気を削るんだ。生物が本来持っている魔気を生気せいきという。この生気がなくなれば生物は死ぬ。君も私も。もし魔法を受けて息が切れているなら、撤退するのがおすすめだ。外傷がない分、ダメージに気づけない」


 彼女はどこか寂し気な表情をしながら、そう語る。


「そして、最後に君に渡した銃のことだ。あれの弾は魔法でできている。魔気を弾丸の形の魔法として発砲するものだ。そして、あの魔獣を殺せなかったのは、威力の問題だな。どんな弾丸をどんな軌道で撃つかをしっかりイメージしないと銃はただ邪魔なだけの棒になる」


「なぁ、サフィが撃ったらどうなるんだ?」


 彼は単純にそれが気になった。彼ではなく、サフィがその銃を使った方が強いのではないか、と。


「はは。では、お手本でも見せようか。窓から見ていてくれ」


 彼女は玄関に立てかけてあった猟銃を持つと、白いローブを羽織って外に出た。彼女が銃を構えると、猟銃からは青い光のみが漏れていた。ダンッという音とともに衝撃が窓を震わせる。彼女がトリガーを引いたのだ。そして、その弾丸がどこまで行ったのかわからないが、その銃弾は地面の雪を舞い上がらせ、地面が見えるほどの衝撃であったことだけは確かであった。


「魔獣がいないとちゃんとした威力がわからないな」


 彼女は家に戻ってくるとそういって笑った。




 その後、買ってきたシーズニングを使って、料理を作り、二人で食べる。サフィはその料理をまた気に入ったようで、食べる勢いが止まらなかった。それに気をよくした彼はもう一品追加で作り、彼女にふるまう。それも彼女はあっという間に平らげてしまった。そして、今日もまた風呂に入り、その間に彼女が洗濯をしてくれていた。昨日と同じ寝間着を借りて、ベッドへと入った。今日も彼女はいい夢をと言って、部屋の前から去って行ったのだった。




 白いブロックの噴水。同じ素材でできた四つの道。そして、芝生。


「また、ここか。いるんだろ。魔女さんよ」


 夢の中の出来事はどうやら夢の中では覚えていることができるらしく、一つ前の夢のことを思い出してしまった。しかし、前回より怒りはない。嫌いではあるが。


「はは。嫌われたものだね。まったく」


 彼女は彼の前に姿を現した。前に会った時と何も変わっていない。


「それで、私を呼んでおいて何にもなし、というわけじゃないんだろう」


「俺はこの世界で死んだら、どうなるんだ」


「君は死なないよ。私の力があるからね。死ぬ前に私の体の魔気を君に分けてあげる」


「それでも死んだら?」


「それは死ぬだろうね。この世界の死人として、葬られる。元の世界に帰ることはできないよ」


「そうか。そうだよな」


「君は死なないさ。何せ、私がついているんだ。そう簡単には死なせるつもりもないしね」


 彼女はその綺麗な手で彼の頭をポンポンと撫でた。


 彼はやはり、この魔女のことが嫌いであった。しかし、敵か味方かと言われれば敵だとは感じない。


「なぁ、魔女さん。本当に俺を暇つぶしの遊びのためだけに呼んだのか? 俺にはあんたがそんなことをする、俺の敵には思えないんだ」


「そうよ。それは変わらない。こうしているのも、君が勝手に心折れて、王将とっしての役割を果たせなくなったら遊びとして面白くないからね」


 本当にそうなら、わざわざそれを自分に話すだろうか。この前は焚きつけられて頭に血が上っていた。そのせいだとは言いたくはないが、前回は冷静さを失っていた。改めて考えれば、色々なことが不自然だ。


「魔女さん。この夢のことを全部覚えているにはどうしたらいい?」


「……それは私にはどうしようもないことだよ。そういう超能力を持っている人を探すしかないね」


「そうか……」


 それっきり二人は口を開かず、イサナリは魔女の手を頭に感じていた。




 どこかすっきりしたような気分で目を覚ました。しかし、窓の外を見ると大雪であった。窓もがたがた言っている。ベッドから出ると、昨日よりも一段と寒かった。


「やぁ、起きたようだね。今日は家でゆっくりしていたい天気だ」


 着替えを済ませてリビングに出ると、昨日と同じようにマグカップを持ったサフィがそこにいた。その中身は今日もホットミルクである。


「さすがの大雪だな。ほんとに外には出たくねぇ」


「だが、出ることにはなるだろう。昨日の魔獣はこういう日に襲ってくる。群れから外れた小型の生物を獲物にするんだ」


 それを聞いた瞬間、彼の表情はこわばった。昨日の戦闘において自分は戦ったと言えるのだろうか。最後は油断して、サフィがいなければ死んでいただろう。それに三発目の銃弾は発砲できていない。あの時は、弾切れかと思ったが、魔気がある限りその銃は使える。その通りであるなら、自分自身の問題だ。


「君は戦わなくてもいいんだ。昨日は仕方がなかった。しかし、今日は家の中にいれば安全だ。いつも、私一人で追っ払っているのだからな」


 サフィは彼に笑いかける。しかし、彼は男の子であった。女性に守られてばかりでいいのだろうか。いや、いいわけがない。彼女は確かに強いが、命を危険にさらしている。男の自分が、家の中でおとなしく守られているだけというのは嫌だった。


「俺も、戦う。どうせならこの銃を使えるくらいには強くないとな」


 彼は昨日のあの魔獣の殺意を思い出しながらも、笑顔でその恐怖を抑える。


「ふっ。強がりだな。しかし、いいだろう。私の援護をしてもらおう」


 自身の強がりを見抜かれていたことに恥ずかしさを覚えながら、今日の朝食を作るため、キッチンへと向かった。




 昨日教えてもらった魔法の使い方を思い出して、コンロに火をつける。火の出現は練習していないが、既に扱える魔法であった。料理後、皿を洗おうと水を出そうとした途端、水があふれてキッチンを水浸しにしてしまった。サフィがその水を一つの塊にして、シンクへと流した。


「魔気には親和性というのがあるんだが、君は火の親和性は高いみたいだな。反対に水は低いみたいだが。……うん。自分の使いやすい魔法は理解できた方がいいだろう」




 彼女が彼を連れてきたのは空いている部屋の一つである。その部屋には何も置かれておらず、カーペットやカーテンすらもついていない。


「さて、まずは親和性についてだな。まぁ、知らないだろう?」


 彼はその言葉に大きくうなずいた。


「親和性はどれだけその魔気をうまく扱えるかを数値化したものだ。君はきっと、火は八十パーセント以上。水は二十パーセント以下だろうな。では、あとは風と土だ」


「どうすればいい」


「簡単だ。風はそよ風をイメージればいい。土は小さな山ができるイメージだ。風からやってみるといい」


 彼は肌を撫でるような優しいそよ風が吹く、という想像をした。すると、部屋の中の空間に微かな風が起きた。イサナリの服の裾が少し揺れる。


「よし、風は五十パーセントくらいだろう。もしかしたらそれより低いかもな。では、次は土」


 彼は子供が砂場で作る程度の山が地面から生えてくるイメージをする。すると、部屋の中に彼を中心とした山が出来上がる。その山は彼の腰のあたりまで埋めて出現した。


「よし、暴走ってほどではないから三十パーセントくらいだろうな」


 彼女は土の山に触れると、その土の山は黄色の粒子となって消え去った。


「いまのは?」


「反対の属性を与えたんだ。火と水、風と土。それぞれが干渉しあうと消える」


 彼はまた一つ魔法について学んだのであった。




 リビングに戻ってきて、外を見ると雪の勢いがほんの少し緩んでいた。


「そろそろ来るかもしれない。アームズを持って外に出るぞ」


 サフィは剣を、イサナリは銃を持つ。二人は白いローブを着て外に出た。


「戦闘になったら躊躇するなよ。いつも私が守れるわけではない。殺される前に殺せ。いいな。それと威力の小さな魔法は物理的な作用は引き起こさない。火の魔法をこの森で使っても木が燃えたり、家が燃えることはない」


 彼女の注意を聞いている間に、魔獣は二人に確実に迫ってきていた。

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