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だいたい30分小説

音楽の物語

その人があるサイトに投稿した曲は、聴いた人の心を強く掴んだ。

決してメジャーではないながらも確実に魅了される人は増えていった。

やがてその曲が有名なものとして話題に上がるようになったとき、

何の予告もないまま唐突にその曲は削除され投稿者も消えた。

様々な噂が流れた。

ある人は「歌詞が考察され、深読みされて見当違いの意味をつけられるのを嫌ったからだ」と言った。

またある人は「人気が出るにつれ増えていく悪評に耐えられなくなったのだろう」と言った。

そんなのどちらでも良いだろう、ただ残るのは消えたという事実だけなのだから。


僕もその曲に魅了されたクチだった。

けれど、他の人達のようには熱中できなかった。

やがて失われた曲は作者不明のままにネットにアップロードされた。

それに感化された人達が新たな曲を作り、その曲は更に多くの人達の心に響いた。

やがてそれらの曲は分岐し枝を伸ばし大きく広がり、一つの大樹を成した。

僕はそれを冷めた目で見ていた。

もしあの曲が今も投稿者の名の下に公開され続けていなかったのなら、

きっとここまでコンテンツが広がることはなかっただろうと思った。


僕たちには単純な物語が必要だ。

例えば、作者の決して理解してもらえない哀しみゆえの失踪。

或いは、自分の作品に苦しみ、悩んだ末の悲劇の消失。

真実がどうであろうと構わない。

ただ物語が必要だったのだ。

この作者は勝手に、好きなように祭り上げられているだけだ。

それはきっと仕方ないことだ。

物語は、音楽であろうと絵であろうと、文章であろうと容赦なく貼り付けられる。

そして、その勝手に付けられた物語のもとに本質を失ったまま

薄っぺらく消費されていく。

これは仕方のないことなのかもしれない。

善悪で語られるものではない、ただそうであるだけなのだから。


もはやあの曲が物語なしに広まることなど、ありはしないだろう。

オンラインニュースに組まれた特集欄の、あの曲から派生した偽物の物語に塗れたリスペクト作品達を

見ながら僕はどことなく寂しい、悲しい気持ちになった。

もう僕もあの曲を純粋に聴くことはできなくなってしまった。

初めて聴いた感動はありふれた物語に塗りつぶされ、汚され、つまらない何かだけが残った。

あの曲は理解されることなく、ただ呪いのように

よく分からぬ物語に振り回されながら持て囃され続けるのだろう。

けれど、僕はこうも思うのだ。

きっといつか、どこかで誰かが物語など関係なしに、

本当の意味であの曲を好きになってくれるのではないだろうか、と。



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