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95. F 、Tを知る

宿を出た後、タイラ様を抱え込む形で馬に乗る。


こちらの世界の男に比べると、ひどく細く、リベルを抱えて乗るのと大差ない。そう考えると、イチカは随分小さかった……


思わず手綱から手を離し、手のひらを見る。


「悪いな……抱え込むのが嫌だったら、俺が抱きつく形になるが、後ろに乗せてくれれば……」


「馬は……後ろの方が揺れがひどいぞ?」


「そうなの!? 2人で乗るときは運転……じゃなくて手綱を握る人が前で、2人目は後ろから抱きついて乗ってるイメージだったわ。」


イチカもそうだが、タイラ様もこの世界で常識とされる事に疎い。


モフモフとか言いながら半獣の子供を撫で回して親に叱られてみたり、商売で地上に降りてきた有翼族(ハーピー)を天使だと騒いでみたり……聞けば、神の国には人族と獣、動物と呼ばれる者しかおらず、魔物、魔人どころか、耳やしっぽ、羽が生えた人型(ひとがた)獣人などの生き物は居ないらしい。


全く、2人とも何をやらかすか分からないので目を離せない。歳を聞けば、俺より10近くも上……神の国ではこの世界と歳の数え方が違うのかも知れんが、取りあえず、年上の癖にノリアスよりも子供っぽいのは確実だ。


俺に抱え込まれながら、キョロキョロと周りを興味深そうに見ては馬から乗り出して、俺が押さえ込んで座り直させる。……ため息しか出てこない……。


「お? 疲れたか?? 休憩するか?」


ため息に反応して、タイラが提案する。


「まだ城下も出てないのに、休憩なんかするわけないでしょー!タイラ、少し落ち着かないとフィルソンに落とされるよ!!」


ノリアスにまで説教を喰らっている……フフッと思わず笑えば、落とすなよ! 絶対落とすなよ!! と必死に馬にしがみつく。確かに、この神が見守るこの世界は、のんびりとしていて幸せな世界かも知れない……。


ワイワイと騒ぎながら先へ進む。一旦、()族の領へ入り、そこから山越えをして帝国の北東部を守る、丑のスタイン領へ入る計画だ。


本来なら、城下町から街道を通り、子の町に寄りながらスタイン領に向かうのだが、かなりの遠回りになるため、森を真っ直ぐ突っ切って行く。


魔物に何度か遭遇するも、俺、リベル、ノリアスが出張れば案外すぐにかたがついた。始めはギャーギャーと騒いでいたタイラ様も慣れたのか、俺も魔法で攻撃してみたいと言い出す。


魔法は使えるのかと聞けば、基礎だけは……と初級魔法を披露した。


…………辺り一面が凍る。放ったのはアイスフロスト。大気中の水分を集め、霜や氷をつくり周囲を固める魔法。魔物の動きを牽制、もしくは魔物によってはそのまま凍りついてしまう。水属性の文枝の氷魔法初級の技で、放ったとしても、魔物一匹分が凍りつくかどうかの技のはず……


驚いてタイラ様を見れば、顎が外れるんじゃないかと言うくらい口を開けて愕然としてる。何故、そんな表情なのか……


「……タイラは自分でやったくせに、なんでそんなに驚いてるのさ。」


「いや、森だから火系はヤバイし、氷ならあんまり害はないかなと……あの木を魔物に見立てて、ちょびっと凍ればいいかなーなんて思って唱えてみたらこの惨状……俺の想像よりはるかに広範囲が凍りついたんだよ! 驚くでしょ……」


「初めて使う魔法なのですか?」


「あー、そういえば、この世界で起きてからずっと一緒に居たけど、魔法使ったの初めて見たかも!」


「う、うん。魔法自体初めて使った……ってか、コワッ!! こんなカッチカチに凍るものなの? 人とかに当たったら即死だよ!! ムリムリ、この魔法は封印ね。」


「他にも属性があるのか?」


「あぁ、闇以外は一応全部使えるっぽい。全部Fランクだけどな。」


「使った事が無いならFだろう。ランクは使えば使う程上がって行くからな……」


「そうなの? ……そうか、ゲーム内でも……」


なにかを1人でブツブツ言い始めたタイラ様を抱え直し、先へ進む。キョロキョロしなくなった分、移動しやすい。と、ここで熊程の大きさのある狼が現れた。しかも、魔人を2体も引き連れている。


俺は刀を、リベルは鞭、ノリアスは剣をタイラ様は……デッケェーと呟き、キラキラした目で狼を見ている。我々は戦闘に備え、武器を構える。


「ワレハ、……ヘルウルフ。マオウサマ、オムカエ!」


そういうとオオカミは座り、魔人は膝を付き、頭を下げた。


「え、ヘルウルフって……ここで??」


「タイラ様はこの魔物をご存じで?」


「え? あ、うん。でも、この魔物は帝国の辰族の領内に出没が多い魔物で、ここら辺で会うことはないはず……」


「迎えに来たって、また僕を誘いに来たの? もー!! いい加減しつこい! 僕は魔王にはならない!! ぜぇったいイヤ!!」


「……イヤ……ナラバ、マオウフタリイラナイ。ハイジョスル!!」


片言とはいえ、言語を話す迄に進化した魔物は初めて会った……どれ程の魔力を吸収したのか……魔覇刀を構えれば、ヘルウルフが空に向かい遠吠えをする。と、ガサガサと周りの木々が揺れ、魔物が俺たちを囲うように現れた。


初めて見る魔物が多い。慎重に……


「ねぇ、今、2人いらないって言った?」


タイラ様、さすがに今は危機感持って頂きたい!!


「タイラ! 呑気に話してる場合じゃ無いでしょ!!」


ノリアスも同じ事を思ったらしい。


「でも、2人って何? 魔王はノリアスだけじゃないの??」


「……マオウ、コウホウマレタ。オマエ、イヤナラ、ウマレタヤツマオウ。ソダテル……」


……律儀に答えるのか……。


「コウホ……候補? 魔王の資質を持ったものがもう一人生まれたの?ってこと??」


「マオウ、ヤラナイ。 オマエ、イラナイ!」


我々を囲う魔物達が、興奮したウルフの声を合図に一斉に遅いかかってきた。思ったより数が多そうだ。


って、まずい、タイラ様を抱えたままだと刀を思うように振れない!!と、タイラ様が何かを呟いた。


ドーン、バリバリバリ………正に天の、否! 神の御業(みわざ)か……我々を囲んでいる1番大きい魔物に落雷すると、横並びの魔物が次々と悲鳴をあげ倒れる。


すっとぼけた行動をしていても、神は神。タイラ様を見直した瞬間だった。

読んで頂き、ありがとうございました。

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