88. S への伝言
「ねー、まだー??」
相変わらずうるさいファジールと、行動が鬱陶しいダンを乗せて、シープス領の領主が治める街へ向かう。
メリーノ・ヘブ・シープス公爵。中央の法務を担当する大臣だ。確か、長男ディアン、次男のテッセル共に印があり、その場合、通常なら長男が家督を継ぐのだが、ここは珍しく継ぐのは弟の方だったか……我々とは歳が離れているせいか、茶会で少し会話した程度だ。正直、顔も覚えてない。
「ファジール、シープス公爵やディアン様、テッセル様にお会いしたことは?」
「えー、覚えてないー。」
「……そうか。」
聞く相手を間違えた。
今回の事はフレミッシュ公爵から話しは行っているのは確実。公爵は中央に居るであろうから領にいらっしゃらなくても、ディアン様かテッセル様が居られるだろう。
顔を知らないとなかなか話辛いのだが……まぁ、なんとかなるか……と、開き直り、連絡はしていないが邸へ行く。
案の定、我々が来ることを予期していたかのように丁重に出迎えられた。
「ようこそ、セレネス様、ファジール様そして、勇者マリア様。私、シープス公爵の次男でテッセルと申します。まだ、セレネス様が幼い頃に茶会で数度お話した程度ですが、覚えておいでですか?」
「お話させて頂いたことは微かに……。本日は急な訪問で申し訳ございません。」
「いえいえ、この度は領内の魔物を討伐して頂いたとか……。本来ならディアンを筆頭に、人獣を中心とした私兵団を向かわせるのですが……」
「どうかされたのですか?」
「ここ最近、魔物達が異様に強力になってきておりまして……以前でしたら、力自慢の獣人でしたら倒せていたような魔物が、今では人獣でも倒すのに苦労する程です。」
中へと促され、3人と一匹は応接室へ通された。
「魔王の噂はお聞きですか?」
お茶とお菓子が用意され、ファジールは嬉しそうに、マリア嬢は遠慮がちに、お菓子を頬張る。私はお茶で口を潤すとテッセル様と話を続ける。
「北と東の王より伺いました。魔王誕生の兆しがあるとか……」
「それが、魔王は既に誕生しているそうで……」
「「「!!!!」」」
私もマリア嬢もファジールまでもが動きを止め、テッセル様の話の続きを待つ。
「先日、魔物の出現情報があり、ディアンと人獣の私兵団が数隊討伐に向かいました。そこで現れたのが、言語能力を持つまでに進化した魔物でした。」
「言語を……?」
「はい。相当な魔力を吸収したのでしょう……その魔物が言うには、『今までに無いほど強力な魔王が誕生した。この先、魔王国を作り、この世の全てを魔王様が治めるのだ! クハハハハ』と言いながら死んでいったそうなのです。」
……魔物のセリフ、真顔で棒読みで言われると……。
「その討伐戦で人獣の大半が怪我をしてしまいまして、要請があっても直ぐ駆けつけられず……」
「鍾乳洞に来たヨウモ殿は?」
「彼は獣人の隊の隊長です。今までは前線で活躍してくれていたのですが、今は彼らでは太刀打ち出来ませんので、援護や残務をやってもらっています。」
「そうでしたか……ところで、お聞きしたいのですが?」
「あぁ、すみません。こちらの話ばかり……なんでしょう?」
「領内で奴隷商の話を聞いたことはありませんか?」
「奴隷……もしや、申の子がやっていると噂の……」
「そうです! 色々な場所に拠点を持っているそうなのですが、話が上がってきたりしていませんか?」
「申し訳ない。父が中央で調べてはいるようですが、この領内ではこれといって報告はありません。しかし、申のダスキート君でしたか……。彼が仕切っているのは間違い無いのでしょう。父がこぼしていましたから……でも、なぜ奴隷を?」
これまでの事を言って良さそうな事だけザックリと説明する。
「ははぁ……ご神託ですか。さすが勇者様ですね。では、そのイチカという女性を探してる訳なんですね。うーん、残念ながら、やはりお役に立てそうな話しはありません……。申し訳ない。」
「あ! いえ、こちらこそ色々聞いてしまって……。あの、さっきの人獣でもなかなか倒せないって言ってた魔物とか、私で役に立てることがあったら言って下さいね。」
マリア嬢が言う。と、テッセル様が躊躇う素振りを見せた。
「ここに滞在出来るだけのは数日だと思います。何かあるならば言って下さった方が……」
促してみると、実は……と話し始めた。どうやらディアン様が魔物の毒にやられ大変なのだそう。今はヒールとポーションでなんとか持ちこたえているが、このままでは命すら危ういのだそう。
治すためには、希少な花や、危険な場所にある湧水なんかが必要らしい。この領内で一番強いであろうディアンが行けない今、採りに行くことすら出来なくて困っているそうだ。
嫌な予感がするが……
「それはどこにあるのですか? 全部同じ場所? それとも別?」
「マリア嬢、採りに行くのですか?」
「勿論です。この地を守っているディアン様が寝込んでしまっては、ここで住む人々が怯えて暮らさなくてはなりません。それに、もしかしたら森にアジトがあるかも知れませんし……。」
「……分かりました。ならば今日中に支度をして、明日の朝出発します。ファジールも……ダンもいいな??」
「え、僕も行くの??」
「モグモグモグモグ………(半分にしてもらったお菓子を頬張りながら首をかしげる。)」
当たり前だ。と二人に言い聞かせ、それぞれの物がどの辺りにあるのかをテッセル様に聞く。
ザックリとした描かれた地図で確認する。✕印を付けてもらいその地図を頂く。今日はこれで……と玄関まで来ると、宿を紹介された。予約もしてくれてあるそうだ。有難い。
改めてお礼を言い、外に出る。と、待ってましたとばかりに言俐が飛んできた。リベルからのようだ。
メモ帳を出してやれば、鳥形が崩れ文字の羅列に戻る。
『タイラ、入りました~!!』
なんのこっちゃ?? よく分からない知らせを受けた。
読んで頂き、ありがとうございました。




