86. T と協力
「お聞きしたいのですが……セレネスに、イチカがこちらの世界では長く生きられない、と仰ったとお聞きしました。何故か聞いても宜しいですか?」
リベルは口調を崩す気はないらしい
「うん、それは向こうの世界にイチカの肉体を置いて来てるから。因みに、俺も……多分、置いて来てる……。置いていかれた体は心臓も動いてるし、呼吸もしてる。けど、中身(魂)が入ってない。このままだと、肉体の方は食事も運動も何も出来ずに弱っていくばかりだ……」
「食事も……」
「そう、ただ、寝てるだけ。このままいけばいずれ肉体の方が使い物にならなくなるね。」
「ならば! ならば……魂だけでここに止まればいい……肉体は無くても、ここではちゃんと触れられたし、食事もとっていた。何ら他の者とかわりなく過ごせる!!」
フィルソンが提案する。
「うん。そうかもしれない。でも、向こうの世界の肉体に何かあったとして、こちらの中身の魂に影響が全く無いと言いきれるかい??」
「それは……」
「それに、向こうの世界には彼女を心配して待つ家族がいる。」
フィルソンはハッとした顔をし、家族……と呟く。
「俺は、彼女のお兄さんから彼女を助けてやってくれと頼まれている。」
「……分かりました。教えていただきありがとうございます。」
リベルがお礼を言う。ところで……、と今度はバリーが話しかけてきた。
「タイラ様、魔王をお連れになってる理由をお聞きしても?」
俺を含め、全員がギクッっとなる。俺とノリアスはバレたことで、他の人達は魔王がこの場に居ることについての反応だ。
やべぇ、ノリアスの事なんて説明しよう……
「僕はノリアス。地底人の大戦で活躍したエルフ族ユリノトと、魔人の子で、ユリノトの後継者です。ステータスの称号に魔王とありますし、魔物や魔人達に魔王にならないかと勧誘を受けてますけど、魔王にはなる気はありません!!」
この上なく分かりやすく、簡潔な説明。本当にお利口!!
「ユリノト……? あの、大戦で活躍した魔導師のユリノト様ですか?? エルフ族ですものね、まだ生きてらっしゃる!? お会いしたいのですが??」
今度はリベルが大興奮し始めた。一瞬面食らったノリアスだが、淡々とした口調で
「すみません、3、4日前に僕を迎えに来た魔物達に殺されてしまいました。」
其を聞いたリベル、バリーの従者のお爺さんが突如、ドバッと涙を流し始めた。お、おう……やっぱりそうなるよね……。小さい子の母親が居なくなると、この先の苦労とかを勝手に想像しちゃうもんね。と心の中で同調する。
「ごめんなさい! 辛いことを思い出させたわね……でも、大丈夫!! 貴方にその気がないなら、私たちが貴方を守る!!絶対に魔王になんかさせないわ!!」
リベルがぎゅうぎゅうとノリアスを抱きしめ力強く宣言する。
お爺さんがハンカチで目頭を抑えては、頷きながらリベルに小さく拍手を送っている。
その様子を呆気にとられたように、フィルソンとバリーが見ていた。と、ここでノリアスがリベルの拘束から逃れ話を戻す。
「ここにいる人が人獣ってことは、セレネスって人とマリアって人も人獣?」
「セレネスは私の弟だから人獣よ。印は無いけどね。マリアは人族の勇者よ。」
「え? マリアが勇者なの?? じゃあ、僕は会わない方がいいなかぁ……。」
「ユリノトの遺言なのだろう? 会ってみれば良い。」
うーん、とノリアスが悩むのを見て、フィルソンが話を聞き出した。どうやら、遺言と言うよりはセレネスの、引っ越したら会いに来ると良い、という伝言を実行するのと、ユリノトが売ったノリアスの馬、だーくを買い戻す為に会いたいらしい。
どうやらノリアスが魔人だった頃、子馬の時から魔素やユリノトが調合した薬草を混ぜた飼い葉を与え、大事に育てたのだそう。しかし、大人ノリアスが居なくなったと勘違いしたユリノトが、子供ノリアスを育てていく為にだーくをマリア達に売ったのだそうだ。
「アイツが居てくれれば、この体でもどこでも行けるだろ? だからお金は返すからだーくを返してほしくて……」
またリベルとお爺さんが泣く。
「お友達だったのね!! 私も一緒にお願いするわ、絶対返して貰いましょう!!」
お爺さんがコクコクと同調する。
「ありがとう。」
ノリアスがはにかんだように笑うと、リベルとお爺さん従者は、息子と孫を見るような優しい目でノリアスを見ていた。まぁ、魔王め!! と頭ごなしに戦闘にならなくて何より。
と、思ったがバリーは納得してない様子。
「魔王、なのですよね? フィルソン、オーラで判断出来なかったのか?」
「2人とも特殊すぎて比較対象が無かったんだ。だから良いも悪いも分からん。」
「……そういうことか。因みに、どう見えている?」
「タイラ様はイチカと同じ様に、眩しいほど輝いている。通常は色が付いてるだけで自ら光り輝くなんてオーラは見たことがない。ノリアスは……黒い。多分、魔人の動力源のヨルダ神の負の感情なんだと思う。他の魔人も同じ色だからな。ただ、ノリアスの場合、その黒をキラキラしたシルバーのオーラが覆っているんだ。黒が漏れ出さないように包んでいるように見える。」
「……そうか。お前から見て信じて良さそうか?」
「あぁ、嫌な感じはしない」
それを聞いたバリーは、ゆっくり息を吐く。
「タイラ様。タイラ様の事は隠匿できましょうが、ノリアスに関しては上に報告を上げねばなりません。場合によっては城に軟禁されるかも知れない。」
「却下!!」
思わぬ所から声がかかる。ノリアス親衛隊の2人である。
「魔人とはいえ、2世で髪の色も目の色も私たちと変わらないでしょ? 言わなければ分からないじゃない。現に、私もフィルも貴方に言われるまで気づかなかったわ。」
「それはそうだが……」
「国王どころか、皇帝よりも凄い神様が一緒に居るのよ? タイラ様が良いって言えば良いでしょ?」
おっふ……そういうもんなの?? 俺の一言にそんな信用を置いて良いもんなの?? でも、ノリアスが軟禁される可能性が無くなるならそれに越したことはない。
「うん、もし、ノリアスが悪いことしたら全力で叱ってやるさ!」
親指を立ててアピールする。が、このポーズ、この世界には無いようである。ポカンとしたあと、意味も分からずオズオズと全員が同じ様に親指を立てる。
「これは……なんのまじないですか??」
バリーが真剣な表情で聞く。俺はこの後、しどろもどろでグーのポーズの意味を説明した。
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