81. S 、帝国へ向かう
※※注意※※
後半部分に、虫に関する表記と、多少グロテスクな表現があります。
「ねぇ、この干し果物食べていい??」
「……??(果物を持ってソワソワ)」
「ねぇ、後ろ飽きたからどっちか代わって!!」
「!!(御者台にてキョロキョロ)」
「ねぇ、イチカってさぁー……」
「(馬車内で寝転がってコロコロ)」
「……ファジール! うるさい!! それと、ダン!! お前は行動がうるさい! 少し大人しくしていなさい。」
「だってぇ……凄いヒマー。王族のゲートとか使わせて貰ってチャッチャと移動しちゃえばいいのにぃ。」「………(頬を膨らます)」
「バカを言うな。あの陣を使うだけで何人の魔導師が寝込むか知っているだろ? 使えるのは有事の際と皇族、王族の移動だけ。我々は皇帝への顔合わせの茶会際に、ついでに使わせて貰えるだけに過ぎない。」
御者をするわけでもないファジールは、幌馬車の中で飽きて駄々をこね始め、ダンをぎゅうぎゅうと握ったり緩めたりしている。
「ゲートって何ですか?」「??」
マリア嬢が話を繋げ、ダンが首を傾げる。
「各国のお城にね、魔方陣で繋がる門を設置してあるの。そこを通ると、一瞬で違う国のお城に行けるんだけど、魔力消費が膨大過ぎて、一回繋げるのに何人もの魔導師が必要なんだって! しかも、繋げた後は殆どが倒れちゃうらしい。」
「それは便利ですけど、魔導師の方には大変な試練ですね……」
「ねー!」
「……」
話している間は大人しい。そのまま二人と1匹ともに、着くまで話していればいいのに……
◇◇◇◇
この国は皇帝が住む城の周りを、各国から送られた四人獣が、爵位を賜り、囲むように領地として守り、その周りを山が囲い、さらにその外を神獣が国王となり国として守る。その国を我々、国に残った人獣が囲い守っている。
東の国から帝国に入るには、トラット領内にある山合を行くしか無いのだが、山間の国境を管理する関門で久しぶりに魔物と遭遇した。
今まではマリア嬢の気配に怯え出てこない者が大半だった。何故か出てきても、攻撃の素振りも見せずにただ、黙って我々を見送っていたのだが、今回は少し違うらしい。
真っ黒で、目玉の白と口の中の赤が嫌に目を引く、人の形をした魔物、……いや、魔人?? が武器を持ち、襲ってくる。
ためらうことなく真っ二つにしてしまおうと、手に風魔法を纏う。と……とスッと目の前に手のひらが見えた。
「待って、セス兄様。この人達、たぶん人族……だと思う……。」
「はい?」
「あちらでしょうか……? 凄く甘い香りがします。」
言われた方向に目を向ければ、鍬や、鎌、包丁等を手にした黒い人が、カクカクと操られているような動きでこちらに向かってくる。
「向こうに何があるんでしょうね……」
マリア嬢が心配そうに呟くと、
「行ってみようよ!!」
暇潰しを見つけたとばかりに、目を輝かせ馬車を下りる。
卯族に伝わるという、魔を蹴散らす魔蹴靴をいつの間にか装備し、脚に馴染ませる様にぴょんぴょんと跳び跳ねている。
「よし、行こう!!」
マリア嬢を誘って行こうとする。いや、待て待て、お前、戦闘は支援に徹するんじゃ無かったか??
マリア嬢も同じように思ったらしく、大丈夫ですか? と心配そうだ。
「うん、このブーツがある時は平気ー! ホントは姉様が引き継ぐって言ってたけど、今回、勇者のマリアさんと一緒に行くことになったからって僕にくれたの! これさえあればダイジョーブ!」
家にあった魔覇刀と同じようなものか……印の無い私には扱えない代わりに、印のある者が持てば飛躍的に攻撃力も身体能力も上がり、戦闘においてはかなり有利になると聞いた。
「それを言うなら、セス兄様の方が心配。通常魔法じゃ倒せない奴らも居るから気をつけて!」
「わ、わかった。」
確かに、魔族に関しては、訓練を逃げてばかりの印持ちと印無しでは印持ちの方が遥かに強い。
邪魔にならないよう隅にいよう……。そして、先程から怯えているダンを懐にしまう。
黒い人達は、殴って意識を失わせてみたが、目を閉じただけで、口は半開きのまま動き続ける。取りあえず我々にとってはほぼ無害なので武器だけ回収して放っておく。と、ノロノロと我々の後を付いて来る。甘い香りに向かって行くにつれ、大行進と化していた。
香りの先には大きな鍾乳洞があった。口と鼻を布で覆い極力香りを吸い込まないように奥へ進む。中には植物系の魔物と、昆虫系の魔物が居た。
植物系の魔物が甘い香りを放つと、催眠効果でもあるのか、人々が一列に並ぶ。その者達に昆虫系の魔物が順番に卵を産み付けていた。
奥には、腹に大きな水の入った透明で薄い硝子のようなモノを抱えて眠る人族や獣人の姿がある。硝子の中は真っ黒な人が膝を抱えて眠っている。よくよく見れば、黒い人達は本体にそっくりである。あれが卵なのだろうか……?
腹の上の硝子が割れると、黒い人は這って虫の方へ向かう。ガラスを抱いていた本体は、魔人にズルズルと引きずられ花の中央へ投げ込まれる。ボワッと花粉が飛び、一瞬香りが濃くなった。
「うぇー……キモチワルイ……。」
ファジールが呟く。全く同感である。今見ている光景も、この香りも本当に気持ち悪い。
「魔物と魔人を倒せば、あの方達は助かるのでしょうか??」
マリア嬢が泣きそうな顔でこちらを見る。……どうだろう。卵を産み付けられていない人達は、正気に戻れば大丈夫だろうが、卵を抱えてしまっている人は、見る限り正気に戻れるとは思えない。
が、このままというわけにもいかない。
「全員が助かるかどうかは分かりませんが、取りあえず魔族を倒してしまいましょう。」
2人はコクンと頷くと、マリア嬢は勇者の剣を構え、花の魔物がマリア嬢を捕まえようと伸ばす蔓をモノともせずに、根と花の顎の部分を上下真っ二つに切り裂いた。
ファジールはブーツの形をオシャレなものからゴツい形に変えて高くジャンプをすると、片足を前に足してそのまま落下して、羽を蹴りおとす。羽をもがれた虫は短い脚でカサカサと逃げ惑う。悠然と魔物を追いかけ、半笑いで魔物の腹? 辺りを思いっきり蹴る。ドーン、…… ミシミシ、ドシーン…………と蹴られて飛んでいった虫が当たったつららが折れる。
……アイツは鍾乳洞が崩れるって心配を一切無いのだろうか……
私はと言えば、花から漂う甘い匂いを風で吹き飛ばしながら、捕まった人々を戦闘から遠ざけることに尽力していた。
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