79. I の脱出計画
「さて、ここからの脱出の仕方だが……奴隷商について何か知っているかい? というか、君たちは何でここへ?? まあ、僕も何故ここにいるか分からないのだが……」
ハスキスさんが私達を交互に見て聞く。
「俺は、殴られてる奴隷を助けようとして捕まったんだと思います……記憶があやふやでハッキリとは思い出せないですけど……」
「私は、えーと、北の国の王族と、東の国の王子様に捕まらないように逃げてる途中で、猫の獣人さん達に捕まって……」
「……もしかして、罪人??」
「ち、違いますよ!! 何か珍しいから捕まえてこいって命令が出たらしくて……」
あぁ。と2人とも納得した様子。
「確かにね。北の何番目かの王子は天創人の研究狂いで、東は愛玩用の天創人収集家だっけ? 珍しい上に可愛かったらそりゃ捕まえてみたくはなるわな……。」
「……今の各国は大丈夫なのか……??」
ハスキスさんの心配は痛いほど分かります!! そんな人達が国の重鎮になったら大変そう……ってえ!?可愛いって言った???言ったよね??……やっぱり地球と美的センスが違うみたい。
ありがとう、バセットさん!! 私、この世界でなら幸せになれる気がする!!
照れたうえに、興奮して顔を真っ赤にした私を見て2人は驚いたらしい。大丈夫か? と随分心配された。
「と、とにかく、その猫の獣人さん達は私を売る気は無かったようなんです。でも、ここの偉い人? とゴリラとマンドリルの獣人が来て、私を無理やり袋に入れて運んで来たって感じです。どうも私は高く売れるそうで……」
そうか……。と呟くと、ハスキスさんがバセットさんに目を移す。
「バセットは捕まってどれくらい経つ? 逃げられそうな感じは無かったのか??」
「俺、昨日位迄死にかけてたんですよ……なんで、時間の感覚は丸っきり無いです。」
「具合が悪かったのか?」
「いえ、呪いを受けまして。刺された傷が塞がらなかったんです。もう少しで死ぬところでした……」
「……今は?」
「……多分、イチカに治して貰いました。傷1つ残っていません。」
バッと勢いよくハスキスさんが私を見る。うん、言いたいことは何となく分かる。分かるけど、何がどうなったか良く分からない内に治ってたので説明は出来ない……。
「呪解……と回復って事か? どちらも使い手は少ないが……」
「多分……、本人に聞いても良く分かってないみたいですし、治した自覚も無いようです。因に、ハスキス様の200年の眠りを起こしたのはイチカだと思いますよ?」
「そうなのか?? ならば状態異常の回復も出きるのか……凄いな、ありがとう!」
「い、いえ……。」
両手をすっぽり包まれ、ブンブンと振りながらお礼を言われた。
そこからバセットさんと私の話をハスキスさんにして、脱出の計画を立てた。
◇◇◇◇
ゴンゴン! 初めてこちらから扉を叩く。結構固く、思いっきり叩かないと音が出ない。
「なんだ! 煩いぞ!!」
「あの、怪我していた人が動かなくやっちゃって……どうしたらいいですか?」
「……死んだのか?」
「どうでしょう……やっぱり確認した方がいいですか……? ずっと唸っていた声も聞こえないですし、話しかけても返事も無くなりました……」
「わかった。少し待て。」
遠ざかる足音を聞くと、バセットさんはベッドの脇へ、ハスキスさんは上に横になる。2人とも椅子の足を折り、魔法で加工した木の棒を隠し持っている。武器になるそうだ。
散々話し合ったが、特に名案も浮かばず、確認しに来るであろう上役の人、もしくは獣人を人質にとり脱出という力業で押しきる事になった。
どうも、2人が回復したことが知られると、今以上にややこしくなる可能性が高いそうだ。
椅子に座り見るともなしに2人の居る方をボンヤリ見ていれば、ガチャッとノックもなしに扉が開いた。ズカズカと入ってきたのは、ゴリラとオラウータンの獣人だった。
「アイツは何処だ?」
先に入ったゴリラがバセットさんを探す。
「下っぱとはいえ、人獣の遺体が手に入るとは有難い。」
ベッドに背を向けそう言うと、バセットさんの頭ををゴンゴンと蹴る。
「あ、あの!!」
思わず止めさせようと声をかけ、獣人2人がこちらを向いた瞬間に、ハスキスさんとバセットさんが動く。
素早く起き上がると、ハスキスさんがゴリラを、バセットさんがオラウータンの獣人2人を後ろから抱え込み、口を抑えながら、太股や足の甲に椅子の脚で作った武器を刺す。
ヒイッ!! 私が一番煩かったかも知れない。脅すだけだと思っていたので、衝撃的な光景に耐えられませんでした……。
獣人は痛みで顔を歪めるも、ハスキスさんとバセットさんが軽快に動いてる事に驚いたようだ。
「お、お前、あの怪我で何故動ける!? !! お前も、あの失われた魔法をどうやって……」
口を抑えられているので、モガモガとハッキリとは聞き取れない。
「ロストマジックと言ったか? 俺には何の術が掛かっていた?」
ハスキスさんはゴリラの腿から杭状の武器を抜き、今度は目玉を狙うとばかりに先を目の前で止めたまま質問する。
「リ、リプタイムって術だそうだ。一定の同じ時間を永遠と繰り返すらしい。怪我をさせて回復をかけて傷を治す。この一連の動作を指定して術をかけると怪我の痛みが永遠と繰り返されたりするから、昔は拷問としても使われてたそうだ。ただ、今は禁術扱いで、使える奴もいないから解き方が分からないって……」
「リプタイム……禁術ね……」
ここで、バセットさんが捕まえているオラウータンが話始める。
「お前達、ここから出る気か?」
抵抗するわけでもなく、ゴリラのように慌てふためく訳でもない。ただ、普通に会話をするトーンで私達に話してくる。
「!! オラウ! お前何を言う気だ!?」
「この人があの英雄ハスキスなら、何とかなるかも知れないだろ?」
「ヤメロ! バレたらどうする!?」
なにやらゴリラと言い争いを始めた。あまり騒いで欲しく無いのだが……と、突然糸が切れたマリオネットのようにゴリラがその場にグシャッと崩れ落ちた。ハスキスさんがなんかしたらしい……
「話を聞く。が、その前にここを出る手伝いをして貰う。」
低い声で、オラウと呼ばれた獣人に言えば、コクンと頷き両手を上げた。
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