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8. I の疑い

「ごめんイチカ、仕込みの時間だ。話はまた後で!」


そう言うとリベルさんは地図を片付け椅子をセットし、テーブルを拭きはじめる。フィルソンさんはキッチンへ向かった。


「待って! 待って待って…… 今の話だけ聞いて、そうですかお邪魔しました。ってならないですから。とりあえず……交番! 交番の場所を教えて下さい。バック落としたので届いてないか確認したいんです。」


先程の話は理解できないので一端考えるのはやめて、警察を頼ろうと思う。


二人は哀れみ目を私に向け、フィルソンさんが仕方がないとばかりに教えてくれる。


「コウバンが何かわからないが、落とし物が届いてるとしたら屯所だな。表へ出て右曲がった突き当たりにある。」


「ありがとうございます! ちょっと行ってきます!」


頭を下げそのまま扉に向かうと、少し大きな声で呼び止められる。


「イチカ!! その格好じゃダメだ! リベル、仕込みも支度も一人でなんとかなるからイチカをみてやれ。」


リベルさんがフィルソンさんを見てニヤリと笑う。


「そうだね、その上等な細工布の変わった形のドレスじゃ目立ってしょうがないよ。風呂の用意してやるから入って着替えな。」


確かに普段着として着るような服でもないし、夕べの事で少し汚れている。お風呂に入れるのは嬉しいかも知れない……


リベルさんに案内され、自宅として使っている3階へ移動する。彼女の部屋なのか、かわいらしい置物が置かれた部屋に案内されるやいなやポイポイと物を渡され思わず受けとる。


「下着は全部新品だから。服は……どうしようか。私のじゃ大きいねぇ。」


どうやら着替えを用意してくれているらしい。が、リベルさんは背が高くいわゆるボン・キュッ・ボンの体型に対して、私は彼女より10…いや15センチ位背が低い。そしてツル・ストーンと表すのが妥当な体型。彼女の服は借りても、ダボダボで引きずるのは明白だ。


リベルはタンスの奥まで探していたが、お目当ての物がなかったようで、下着だけ持って私が使っていた客室まで二人で移動した。


「すぐに入れるようにしてやるから支度しておきな。」


部屋の奥に私を押し込むとそう言ってユニットバスに向かって行った。


支度と言われ気づいたのだが、イミテーションの安いネックレスとイヤリング、それに腕時計をしていたはずなのだが、夕べの追い剥ぎに取られたのか身につけていない。


ものの1、2分位しか立っていないのに出来た! とユニットバスから出てくると、私の後ろにまわる。で、ワサワサと背中を触り始めた。


「ぅわーお! ちょ、リベルさん! 何するんですか!?」


「何ってドレス脱ぐんだろ? このドレスは動きやすそうだけど一人じゃ脱げないだろ。着せるのは無理だが、脱がす位は出来ると思う!!」


鼻息荒くワサワサと触り続ける。


ウヒャウヒャと笑いながらリベルさんに伝える。


「ヒッ!ひひっ…… 一人でも脱げますけど、折角なんでチャック……フフッ……チャック下ろして下さい。」


何かを探すように動いていた手が止まり、顔のすぐ横にリベルさんの顔が並ぶ。


「チャックゥ? どれだい??」


「あの、首の後ろ辺りに小さい玉がプラプラしてませんか?」


自分で首の後ろを探す。すぐにチャームを見つけてコレコレと教えると、


「待って! 私がやる!!」


興奮ぎみに玉を指先でつまむとグッと引っ張られグエッと、変な声が出た。


「リベルさん。下に、玉を下におろして下さい。」


リベルさんはゴメンゴメンと言いながらこうか?とゆっくりとチャックを下ろす。


ジーっという音と背中だけが空気に晒される感覚を味わうも、直ぐにまたジーっと閉められた。


「ナニコレー!」


初めて見るような反応である。が、今は服を脱いでしまいたい。大興奮のリベルさんをなだめ、服を脱ぎ下着姿になると急いでユニットバスに向かう。着替えの服を探してくるからゆっくり入れとリベルさんが部屋から出ていく。部屋の鍵を掛けてくれたのを確認すると下着も脱いで盥の横で掛け湯をする。どういう構造なのかいくら使ってもお湯が減らない。


備え付けの石鹸と薄いゴワゴワタオルで体を洗い、深めの盥にゆっくり浸かる。深いため息とともにゴチャゴチャの頭を整理してみる。


まず、先程の衝撃発言。国が違うとはどういう事か。確かにこのホテル……ロッジの作りや拘りには驚いたけれど、言葉も通じるし、国外に出た記憶もない。そういえば、私はなぜ外で寝ていたのだろう?


あと、人族かどうかの確認をされたなぁ…あれは何の確認だったのだろう。


………兄と幼馴染みと昔見た、ある有名なアニメ映画をフッと思い出す。家族で神様達の湯治場に迷い込んでしまった話。それに伴い、前に暇潰しで読んでみた転移や転生などのラノベやコミックも幾つか思い浮かべる。


気がつけば別世界……そんな話が溢れていた。


「まっさかぁー……」


苦笑いと共に呟きが漏れ、温かいはずの湯船のなかでブルッと身震いした。

読んで頂き、ありがとうございました。

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