78. I と戌の英雄
「……確かに、同族の人獣の匂いだ。いや、でも……バセット?聞いたことが無いな……そうだ!! そんなことより、皆は?? ユリノトとセシルは!? コラドもかなりの傷を負ってムグッ???」
「ちょ、落ち着いて!! シーッ!!!」
人差し指を口に当てて、もう片方で男の人の口を無理やり塞ぐ。
「状況を説明しますから、取りあえず黙って聞いてください! いいですね?」
念を押し、頷くことを確認してから話をする。
「私は一華 影野と言います。で、そちらが先ほども言いましたがバセットさんです。」
バセットさんが、手首を擦りながら改めて挨拶をする。
「それで、ここは奴隷商の地下牢です。」
「? 奴隷商?? いや、魔物ガスキーは?」
ガスキー??っとバセットさんが聞き返す。
「ガスキーって大戦で英雄が倒した、魔王になりかけだった奴ですよね?」
「英雄が倒した??」
「はい。確か4代前の皇帝の時、勇者セシル様、戌族のナイト、ハスキス様、辰族の神魔法使いのコラド様、エルフ族の魔導師ユリノト様でパーティーを組んで、地底人達の国を滅ぼしたガスキーを倒したと伝わっています。」
男は呆気にとられたように、口を開けたままバセットさんを見つめる。沈黙の後、
「ガスキーは倒されたんだな?」
「そうですね。英雄ハスキス様が止めを刺し、勝利したそうです。残念ながらハスキス様はその時に亡くなってしまったそうですが……。」
「いや、止めなど刺していない……。」
何かボソボソと男の人が呟いたが、私には聞こえなかった。バセットさんはそのまま話を続ける。
「? 勇者様と魔導師様が皇帝にそう伝え、ハスキス様に英雄の称号が与えられたんですから、間違いない無いですよ。」
男の人はとても複雑そうな顔をした。
「ハスキス以外は皆、無事だったのだろうか?」
「そう伝えられています。勇者様と神魔法使い様は爵位を与えられ、その後、それぞれの国にお帰りになられたそうです。魔導師様は……爵位も断り、何処かの森で薬師をしてらっしゃったと聞いたことがあります。」
「4代前と言ったか? どれ程の時が経ってるのだろう……?」
「だいたい200年程でしょうか……」
「200年……ユリノトは……魔導師は何処の森に居るか知らないか??」
「詳しくは……」
そうか。と男の人は呟く。
「自己紹介がまだだったな……ハスキス・レリ・グッドル。多分、グッドル家もあれから4、5代、代替わりをしているんだろうな……。」
「……ハスキス? 英雄様と同じ名前?? グッドル家と言えば、代々続く公爵家ですが……その……」
「君の言う、英雄ハスキスとは俺の事なんだと思う。勇者セシルのパーティーでメンバーも一緒だ。あれから200年……俺はずっと寝てたのか??」
まさか!? とバセットさんは驚く。私も200年眠っていたと聞き、老けていないのに驚いた。
「ガスキーとの戦いでは、追い詰めたは良いが、人々をも巻き込んで死のうとしたんだ。だが、セシルは力尽き、コラドに守られている状態だった。そのコラドも片目を怪我で失って、立っているのが精一杯でな。俺はまだギリギリ動ける状態だったから、ユリノトに頼んで身体強化魔法をかけて貰って向かっていった。」
バセットさんが目を輝かせて聞き入っている。
「その瞬間、光る幕が俺を包んだんだ。残念ながら俺の記憶はそこまで……ガスキーがどうなったのかも、仲間達がその後どうしたのかも今知った……教えてくれて、ありがとう。」
そう言ったハスキスさんはとても悲しそうな顔をした。知り合いが一人も居ない世界に来てしまった自分とダブる。何か言ってあげたいが、自分はどうしたいのか、どうすればいいのか分からない私は何を言っていいか分からない……
「聞いてみましょう!!」
力強くバセットさんがいう。何を? と私とハスキスさんが聞けば、
「魔導師様はエルフ族なのですよね? エルフ族は平均寿命が300年と聞いたことがあります。もしかしたら、まだご存命かも知れません!! 何処の森で薬師をされているのか聞いて探しましょう!!」
そうか! とハスキスさんの顔がパット明るくなる。
「そうだな。彼女を探しに行こう。どうせこの先やることも無いだろうからな。冒険者にでもなって、また旅をするのが良いかもしれない。」
元気が出たようで良かった良かった……。って、そうじゃない!!
「あのぉ、水を差すようで悪いのですが、ここからまず出ないと……」
「あぁ、そうだな。って、君は天創人かい? 雌は初めて見たが……」
あぁ、この世界にいる限り、毎回このくだりはあるのね……。
私はバリーさんの鑑定結果を話す。
「称号が分からない? そんなことがあるんだね……。称号は神が決めると言っていたけど……」
「そうなんですか??」
「俺も初めて聞きました。」
「あぁ、これはユリノトに聞いた話でね、彼女は天創人ではなく、神について調べていたんだ。その過程で聞いた話だから、ユリノトが他に言ってなければ、あまり知られてはいないかも知れないね。」
神について調べるって……凄いな。
「イチカ? だったか?」
「はい。」
「君はここを出た後、何処に行くのか決まっているのかい?」
「南に……南の巳族のニシキさんに会いに行くように言われました。」
「そうか。じゃあ、護衛として僕も一緒に行って良いかい?? ユリノトが南に居るかもしれないし、君を紹介したら喜びそうだ。」
「エェッ? 付いてきてくれるんですか??」
「俺も! 俺も行きます!!」
バセットさんが前のめりになって手を上げるも、ハスキスさんに窘められる。
「君は中央の騎士なのだろう? 末席から中央の騎士と言えば、かなりの出世だ。辞めてしまって後悔しないかい??」
「………………」
「ここを制圧し、騎士として戻れば更なる出世も見込めるだろう。旅は仲間が多いほうが楽しいが、元の生活には戻れないと思った方がいい。まあ、ここを出るまで時間はある。ゆっくり考えるといい。」
ハスキスさんは優しい目でバセットさんを見つめ、人生の先輩としてのアドバイスをしていた。
一緒に来てくれれば嬉しいが、彼の気持ちが固まるまで見守ろうと思った。
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