75. S と東の女性陣
ずっと動き通しだった我々は宿でハムスターのダンと合流し、一泊してから、旅支度をして出掛けることにした。何故ならマリア嬢がヒルダ神様に報告したいと言ったからだ。
確かに、勇者の証も手に入れ、新たにファジールが仲間として一緒に同行することになった。ヒルダ神の指示で動いてるからにはこまめに連絡はした方が良いだろう。
次の日の朝、マリア嬢は浮かない顔をして部屋から出来た。どうしたのかと聞けば、夕べはヒルダ神に祈りを捧げても神託を受けることが出来なかったと言う。
今までは祈らずとも声が聞こえてきたそうで、酷く不安そうにしている。取りあえず、神託通りイチカを探そうと励ます。
必要な物を買いそろえると、フレミッシュ邸にファジールを改めて迎えに行った。すると、フレミッシュ公爵から、幌付きの馬車を頂いた。どうやらファジールはあまり馬に乗るのが得意では無いらしい。甘やかしすぎでは?とは思うが、他所の家の事なので黙って、ありがたく馬達に馬車を繋ぐ。
買い物をして、荷物とファジールを馬車に積み込む。と、隊服を着た女性が近づいてくる。
「姉様!」
「……ホードル様、お久しぶりでございます。」
「セレネス様、お久しぶりでございます。マリア様、お初にお目にかかります、ファジールの姉で、騎士隊の第3部隊、副隊長を勤めます、ホードルと申します。」
騎士としての敬礼をしながら、マリアに自己紹介をすると、マリアもつられて敬礼しながら自己紹介をしている。
「マリア様は勇者だと伺いました。魔王の存在が疑われる今、印持ちで訓練実績のある私が、本来お供するところですが、弟がどうしても一緒に行くと駄々をこねたと伺いました。甘ったれで泣き虫な弟ですが、どうぞビシビシと鍛えてやって下さい。」
「こ、こちらこそ! ついて来てくれて嬉しいです。」
え、そうなの? とマリア嬢をみる。
「セレネス様も、よろしくお願い致します!!」
「あ、は、はい。」
「姉様! セレネス様もマリア様も優しいですし、イチカを絶対見つけてくれます! 僕も役にたてるようにがんばるから心配しないで!」
ホードルはファジールをじっと見つめ、1つため息をつくと、
「ファジー、陛下の許可があるので文句は言わないが、稽古をサボってばかりのお前に戦闘が出来るとは思えない。魔物や魔人と遭遇したら、とにかく足を引っ張らないように、お2人のサポートを徹底しなさい。」
「えー、心配性だなぁ。でも、うん。確かに討伐は向かなさそうだから邪魔にならないように気を付けるよ。じゃあ、そろそろ……いってきまーす!!」
ホードル様に見送られて歩きだす。
領の門を抜け、森へ入る。帝国はほぼぐるっと山に囲われた中にあり、どの国から行くにしても山間の道を進んでいく。東の国からはトラット領からしか行ける道はない。
我々はファジールにダンを紹介し、これまでの経緯やイチカから聞いたと言う、異世界の誕生日の話を聞きながら進む。
正直、緊張感の欠片もない。
しばらく走ると大きな虎がやってきた。上に女の子を乗せている。ジャワだ……。馬車を街道の端に寄せ止まると、ジャワ達も一緒に止まる。
「セレネス様、勇者マリア。それに……何であんたまで乗ってるのよ! ファジール!!」
「うるさいなぁ。ジャワには関係ないでしょ?」
「フンッ、まあ、あんたはどうでもいいわ。それよりも、あのイチカとか言う魔人を、探しに行かれるとは本当でございますか?」
「そうだが……イチカはまじ「ならば、絶対に惑わされずに退治してくださいませ!」……え?」
「あの魔人、フィルソン様やリベル様を操って北の国から脱出したのでしょう? 本当に許せませんわ!! 操ってまで優しくして貰おうなどと……あぁ、思い出しただけで腹立たしい!!」
怒り狂うジャワを冷めた目で見つめていたファジールが、ピクリと反応し、驚きの声をあげる。
「え? フィルソン様が優しく? イチカに?? えー……困る……。」
マリア嬢だけが何のことか分からずにキョトンとしている。
我々、王家と人獣は数が少ない。血を絶やさぬようにするには子を作り、繋いで行くしかないのである。特に印持ちは神力を色濃く継いでいるとされ、早くから婚約者がいるのが通例なのだ。
だが、フィルは何故か婚約を頑なに断り続けた。見目も良く、ぶっきらぼうだが慣れれば人一倍優しい。気遣いも出来る上に、料理上手。モテない訳がない。親を通してやら本人達からの直接アピールも全てスルー。好きな女がいるのかと聞いても居ないと言う。
家はリベルも印を持っている上に、東の王家との婚約話があった為、うるさく言われることは無かったのだが、リベルが候補からハズレたとたんにフィルへの話が山積みになった。どうしても断れない者とは何度か会ったようだが、大半は向こうから怒って断りの連絡がくる。ムッツリ黙ったまま会話らしい会話にもならないらしい。
そんなフィルが1人の女性に優しくしたとなれば、操られてると思っても仕方ないのかも知れない。
ファジールはフィルのそんな態度を聞いて思うところがあったのだろう。なかなか鋭いではないか……。
「ジャワ様、我々は神託と王の命を受けイチカを探し、保護をしに行くのです。退治致しません! お間違い無く。」
「な、あんなに危険な魔人を保護ですって!? フィルソン様が操られているのは明らかなのに!! ……もうっ! お父様にもう一度話して参ります。くれぐれも……くれぐれも皆様もお気をつけあそばせ!!」
告げ口の予告を残し、慌ただしく虎に乗って戻って行く。街道を使う他の人の馬達が驚き、嘶いているのが聞こえてくる。迷惑千万である。因にダンは、虎の気配を感じ取ったのか、そそくさと荷物の隅に隠れ、そのまま眠っている。小心なのか剛胆なのか……。
私の馬も例外ではなく、虎に怯えて宥めるのに苦労した。マリア殿の馬、だーくは特に慌てることもなく悠然としている。あの日、小屋であったユノ……? だったかが言っていた、昔有名だったユリノトのが調合した飼い葉を分けて貰えないか、この旅が終わったら聞きに行こう。と心に決めた1日であった。
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