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70. I と戌

「ファイア!」


……あれ? 違ったか??


「ファイアー? ファ~イア~♪ 火! 炎!! うーんと、あと、なに? 燃えろ!! あ、ダメ。 ここ燃えたら火事になっちゃう!」


兄がやってた冒険ゲーム。必死に思い出せてもこのレベル。発音とかの問題では無さそうだし。あ、でも、ゲームによって呪文が違うって言ってたか?? そんなに色々あるのか? 良く分からないが、どちらにしろ火何も起こらない……


まあ、ここで火が出たら危ないからやるなら害の無さそうなやつをやってみよう。えーっと……


ゴンゴンと扉を叩く音がして、扉に近づく。飯だ。と、扉の横にある。小窓のような所から食事が入れられる。


「あの! 私、すっごい食べるんです!! こんなんじゃ全然足りないので、もう一人前持ってきて下さい!」


「あぁ? 贅沢言うな!食わせて貰えるだけありがたいと思え!」


「勝手に連れてきたんでしょう? それくらいのワガママ聞いてくれても良いじゃない!!」


と、扉の向こうで誰かと話す声が聞こえる。


「もう一人前はムリだ。だが、大盛りにしてきてやるからちょっと待ってろ!!」


そう言うと、一度小窓から入れた食事を回収し、カチャカチャと食器の音をさせながら足音が遠ざかる。


咄嗟に、『怪我人』の事が気になった。治療もせずにここに閉じ込められてた『怪我人』は、死んでしまっても構わないって扱いだった。であれば、彼の分の食事は出てこない確率が高い。


食べるかどうかは分からないけど、パンなんかはとっておけるから、起きるまで隠しておこう。


ゴンゴンとノックの音の後、先程の人が量を増やした食事を入れてくれる。


「ありがとう! 頂きます!!」


「お、おう。」


結構な重さのお盆をテーブルまで運ぶ。と、ベットからグウウウ……と腹の虫が鳴く音が聞こえた。


「起きましたか? 痛みとか、気持ち悪いとか、体調がおかしいところは無いですか??」


ベットまで近づき、小声で聞いてみる。両腕で顔を覆った『怪我人』だった男の人は小声で、問題ない。 と返してくれた。


「食事、出来そうなら一緒に食べませんか? もう一人前はムリでしたけど、起きたら食べるかも知れないと思って大盛りにして貰ったんです。断られると、正直、私だけじゃ食べきれないのですが……」


男の人は小さく頷いて起き上がった。明かりが届く場所までくると、ガシッっと頭を捕まれた。何故に今、アイアンクロー?


「お前、天創人か?」


「違います! ってか、ちょっと痛いです! 騒いだら外の人にあなたが治ったことバレちゃいます! もう、ホント痛い!!」


凄く痛くて叫びそうになるのをグッと堪え、私の顔面を鷲掴みする腕をバシバシ殴る。助けたのにこの仕打ちは酷くない!?


やっと、手が離れると今度は胸ぐらを捕まれた。


「有益の印を確認する。」


「ありませんよ!! バリーさんにも天創人かどうかハッキリ分からないって言われたんですから!!」


ピクッ反応した後、動きが止まる。今度は顎をクイッともたれ、ジッと目を見てくる。顔、近すぎじゃないですかね!?


「バリー様? 子族のバリー様を知ってるなら北で選別は受けたんだな?」


コクコクと頷く。と、男の人がゆっくりと遠のく。綺麗な顔をしている、いわゆるイケメンが迫ってくると迫力満点だった……。


「すまない。助けて貰ったのに酷いことをした。」


「い、いえ……」


「パッと見、有益印が見えなかったから魔人かと思って……でも、よく見ればあんた、女なんだな。喋ってるし、天創人な訳ないか……。」


こめかみが痛い。それよりも、良く見なければ女と認識出来ませんでしたか……そうですか。まあ、天創人じゃないと分かってくれて何よりです。ため息をつきたいのを堪え、


「はい。れっきとした人げ……人族です。あんまり信じてもらえないですけど……取りあえず、ご飯食べませんか? 温かいほうが美味しいでしょうし。」


テーブルにつき、食事を始める。聞けば、数日、水しか口にしてなかったそうで、凄い勢いで平らげていく。そう聞くと思わずどうぞと譲ってしまったが、……私もお肉食べたかった。


お腹も満たされたところで、お互い小声で自己紹介をする。


『怪我人』だったイケメンは、帝国の騎士団所属、戌の人獣の末席貴族のバセットさん。25才。独身だそうです。人獣の印は無く、ここには、同僚と飲んだ帰りに奴隷商の商品管理所とは知らずに迷い込んで、殴られてる女の奴隷を助けようとして、逆にやられて捕まってしまったそう。


で、ベットに横たわる誰かは知らないけど、戌の人獣の印を持つ男が寝ていたので守っていた。と言うことらしい。


「同じ戌の人族なんですよね?? 知らない人なんですか??」


「あぁ、今、戌の人獣で印があるのは3人。1人は公爵様の弟、あと、公爵様の次男に1人、親戚筋に1人だけだ。それ以外には居ない筈なんだが……」


ゴンゴン、と扉を叩く音。バセットさんに奥でうずくまってるように言い、返事をする。


「お嬢さん。ちょっと宜しいですか?」


「……どうぞ。」


と、私を連れてきた男がゴリラと、元はなんだろう?物凄く大きな獣人を連れて入ってきた。ってか、狭苦しい……。


男は空っぽの食器と私を見比べ、奥の二人を見る。


「かなりの量を入れたと言っていましたが??」


「ハイ! 美味しかったです。」


食ってやったぜ! とアピールするようにニッコリ笑ってやる。と、目の前の3人がビキッと固まる。


え、ナニナニ? この世界に来てからたまにこうなる人がいるけど何なの!? あ、もしかして、笑い顔変? そういえば、昔、兄に気持ち悪いから笑うなって言われたっけ……。


でも、動きが止まるのなら笑顔で走ったら案外簡単に逃げ出せたりして……とか考えてると、ゴンゴンと扉を叩く音と


「嬢ちゃん、食器よこせ。」


と声がかかる。交代したのか、差し入れてくれた人とは声が違う。固まっていた3人はハッと何かに気づいたように動き、ゴリラが代わりに食器を持っていってくれた。受け取った人は、中に居る3人を見て驚いてそそくさと食器を持っていった。


……今度、私の笑顔でどの程度足止め出来るか実験してみよう。


読んで頂き、ありがとうございました。

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