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68. S 、面倒事が増える

猫族のアジトを出ると、近所で店を構える幾つかの店主や客に話を聞く。しかし、ここの周りの人達は獣人になりきれなかった猫族。程度の認識で、人獣とは思っていないようだった。


何の収穫もないままフレミッシュ公の許へと戻ろうとすると、一番帰らなくてはいけないであろうファジールが、このまま勇者の証を取りに行こう。と言い出した。


多分、皆、御神木にいると思う。と言うファジールを信じ、連れだってご神木に向かう。


数時間かけ着いた御神木の周りは、驚く程警戒体制が敷かれていた。


「ファジール!!」


「お母様! ご心配おかけしました。セレネス様とマリア様が助けて下さいました。」


「セレネス様、マリア様。本当にありがとう。」


「私からも礼を言おう。」


声の主を見れば、東の王様がいらっしゃる。驚いて急いで敬礼をすれば、


「畏まらなくていい。我々は勇者マリアに証である鎧の胴を渡すために出向いたのだ。まさかここで猫族に会うとは思わなかったがな。所で、例の黒髪、黒目の女性は何処に居るのだ??」


私とファジールは、猫族と取引のある奴隷商が強制的に連れていった事を伝えると、捕らえられていた猫族が連れてこられた。


「猫のお頭! イチカが連れていかれちゃったんだ! 見張りをしてたおじさんもやられちゃって、起きた時には居なかったから多分一緒に連れていかれたんだと思う……。」


「お頭とやら、お主達と取引があった奴隷商とは? 何処に拠点を持っておる??」

「………………」


猫族は横を向いたまま話さない。と、王様は静かに話し始める。


「猫族の今の境遇については、私も思うところがある。こんなことをせずとも、証明を持って繋ぎをつければ話をすることも出来たであろう。」


「何代にも渡ってお前達に訴え続けたと言い聞かされた。だが、結果はご覧の通り、何一つ、改善どころか、あんたやそこの公爵達にすら直接会うことも叶わなかった。何が証明だ! あんなボロ切れに何の効力も無かったわ。」


「……それはまことか!? どこかで行き違いがあったのであろうか……。ともあれ、今はお主に会えた。この場で願いを聞かせてはくれぬか?」


「……俺達を人獣にしろ! 中途半端に神力を受けたせいで人にも獣人にもなれねえ。魔物と闘うには神力が足りず、魔法を使うにも魔素を取り込め無い。生き辛くて叶わねぇ。神力を受け継いだ奴はどういう訳か魔物に狙われやすい。だから生き残ってる奴は少ねぇ。そいつらだけでも人獣にしてやってくれ。」


確かにそれは生きていくのが大変かも知れない……どうするのかと王様を見れば、


「猫の……気持ちは解るが、残念な事に我々も、もはや神力を分け与えられるほど受け継いでおらん。各国の王族も似たり寄ったりらしいが、受け継がれる度に神力も弱まっておる。私の神力を全て渡したとて、1人、人獣になれるかどうかだろうな……。」


「な……、なんだよそれ! そんなんで魔王が産まれたらどうするんだよ!?」


それは私も思った。神力が弱まっている等とは初めて聞いたし。各国と言っていたが、王族だけか?…………フィルやリベル、バリー氏や北の国の王族も神力が弱っているのだろうか??


「猫の。提案なんじゃが、城に仕える気はないか? 一族引き連れて来て貰って構わん。幼きものや弱き者達はこちらで保護しよう。」


「あぁ?」


「城にな、ネズミが多くてかなわんのだよ。駆除しようにも寅では逃げて行かない上に、上手く捕まえられんようでな、国秘が流出してしまって頭を抱えていたところなのだ。聞けば、猫族が居ればネズミは近づかないのであろう?? のう、トラット、フレミッシュ。」


「そうですな。今回、イチカ殿が別荘から逃げ出したのも、ネズミによる情報漏洩があったそうですし。」


「警備の面から見ても、奴らは取り締まるのが大変ですからね。城に入って来られない様になるならこれ以上は無いでしょう。」


…………あぁ、オヤジ殿とバリー殿に知らせておいてやらねば……。


「勿論、今回の事はそれなりに罰を受けて貰うが、まあ、それは追々で良かろう。」


「……勝手に決めるなよ……。ハァ。取引のある奴隷商だったな。」


そう言うと、猫族のお頭は奴隷商について話し始めた。


「西の公爵家の嫡男だった男か?」


「モンキーニ公爵家のダスキート……? 幼き頃から茶会や夜会でも問題が多かったはず。」


「……たしか、帝国の戌の一族と揉め事を起こして廃嫡されたと聞いております。」


ジャワにちょっかいをかけていた奴か。廃嫡されているとは知らなかった……。


「まあ良い、まず、その奴隷商の後を追おう。」


「畏まりました。」


「ハッ!!」


トラット公爵とフレミッシュ公爵がそれぞれ部下に指示をだしに行く。


「待たせて悪かったな。ファジール、鍵を開けなさい。」


国王は、猫族を下がらせると、我々に向き直りファジールに指示を出す。ファジールは御神木の虚の前に手を翳すと何か唱え始める。と、虚に無かったはずの扉が出現し、開ければ飾るように仕舞われた鎧の胴が姿を現した。


「マリア殿。これを持ち魔王の兆しを調べてくれ。」


「御意。」


「それと、イチカだったか。天創人にしろ、そうでないにしろ、これだけ心配する者達がおる。見つけて保護してやってくれ。」


「畏まりました。」


王様と公爵達が帰り支度を始める。われわれも無事に勇者の証を手に入れたので、猫族から聞いた話を元にマリア嬢と今後の相談をする。


「船に乗って西に行かれてしまうと大変ですが、港は、陛下が帝国に連絡して警備を強化して下さるそうです。なので、取りあえず一旦立ち寄るという帝国のアジトを探しに向かいませんか?」


と、マリア嬢の提案を受ける。依存は無いので了承し、早速出発しようとすると、


「まって!! 僕も行く!!」


頭脳は子供、身体はガチムチのファジールが叫ぶ。


「僕、イチカを婚約者にするって言ったからね。迎えに行かなくちゃ。」


いやいや、フレミッシュ公爵が愕然としてますけど??


「ファジール、それはまことか?」


「ハイ! 陛下。私はイチカを婚約者に迎えたいと思っております!!」


「イチカは了承しておるのか??」


「んーー、まだですけど、必ず説得します!」


「……分かった。無事に保護をしてまず連れてきなさい。」


え!? 陛下、認めないで!! 旅にこれ以上の面倒事はゴメンです!


この後、一度フレミッシュ公爵邸に連れていかれ、ファジールの説得を試みるも敢えなく玉砕。結局、私、マリア嬢、ファジール、宿屋で合流したバリー&ダンで帝国セクトリアに向かうことになった。

読んで頂き、ありがとうございました。

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