63. T 、カウントダウン始まる
病室を出て、一旦会社に戻る。
「なんでお兄さんと飲みに行くことになってるんですか!?」
「しょうがないでしょ? あんたこそ、なんで突然あんなこと聞くのよ? すっごい怖い顔してたじゃない!!」
「あれは、ハルさんが言ってたことを思い出したんですよ。あの、現実逃避の話!!」
「あー、リアルなこの世界から、現実逃避のスキルを使ってゲームの世界に逃げ込んだってやつ?」
「そう! それです!! こっちの世界でなんか嫌なことがあったのなら、あの話も信憑性が出てくるかと思って……」
「で、確認したのね。」
「……はい。」
プロデューサーはため息混じりに、
「……まあ、あの様子からするに、逃げ出したくなるような何かがあったのは間違いないのでしょうね。」
「どう切り出して、どう話せばいいですかねぇ?」
「どうって……私達にもよく分かって無い部分の方が多いんだから、今までの事をありのまま話すしかないかな。」
「発売前ですけど、ムービーだけでも持っていっていいですかね?」
「そこはハルさんと要相談ね。」
社に着くと、ハルさんは本来の仕事をしていた。
「おう! おかえりぃー。」
「「ただいま」です。」
「もう少ししたら、部屋に行くから先に入ってて。」
プロデューサーも、本来の仕事を片付ける、と一旦自分の席に戻り、俺は会議室に戻る。約束の時間まであと2時間程度。
ハルさんの許可が出るかどうかは分からないが、取りあえずムービーをスマホにコピーし、今までのイチカの発言やステータスを思い出せる限り書き出したものを写真に納める。
確か、カズヤさんの話しはしたけど、イチカの年齢等の話しは雑談でもしてないはず。ステータス通り本人が25歳ならばそれが話すきっかけとかになるかな……?
等と考えていたが、何より一番心配なのは俺の対人スキル。
ほぼ初対面と変わらない人と飲みに行くとか、何の罰ゲーム……。共通の話題も、一瞬擦れ違っただけのイチカの話題しかない。あぁ、胃が痛い……
部屋をノックされ、返事をすればハルさんが入ってきた。
「お待たせ。で、どうだった??」
「黒子は確認できました。ゲーム内のキャラと同じ位置にありました。あと、どうやら現実世界で逃げ出したくなるような何かはあったようです。」
「そこまで聞いたの!? 凄いねえぇ。」
やたらと感心しているが、
「お陰で今夜、仕事終わりに飲みに行く事になりました。それで、流れで説明することになったらイチカが出ているムービーを見せても構いませんか?」
「あー…………発売前なんだよねぇ。うーーーーん。」
「無理なら、一応スマホにコピーしたものは消します。」
「いや、オリジナルとは別物だからいいや。何より、もし我々の仮説が当たりなら、お兄さんにも協力をお願いしなきゃいけないかも知れないし、最悪、ここに来て貰う事になるかも知れないね。」
……確かに。イチカを見つけたとして、逃げ込んだ世界から戻るように他人が説得して出てくるとは限らない。それなら、イチカの身内を巻き込んでおいた方が良いかもしれない。
「そうですね。イチカの性格なんかが分かれば、行動が読めるかも知れないですからね。」
「まあ、行動が読めたところで、自分の意思とは関係なく連れていかれちゃったら結局分からないんだけどね……。」
そうでした。イチカは今、奴隷商人に連れていかれたんでした……。
街の人達に聞いても、奴隷商人どころか猫族も見つからない始末。次の行動をどうするべきか……。
コンコン、とノックの音と共に、入るよー! と声がかかる。終業時間迄、あと1時間弱。3人揃ったところで、今後の予定を話し合う。
「今日、もし、お兄さんに話して協力して貰えるのであればここに来て貰うってことで良いですか?」
「信じてもらえればねぇ。」
「そうね、私も始め聞いたとき、2人とも仕事しすぎておかしくなったと思ったからね。身内が大変な時にそんな話されたら、すごーく怒るかも知れないけど、頑張ってね!!」
「うわぁ……他人事だと思って……。」
「うん、まあ、取りあえずそこは平良次第だからね。最悪、どうしようも無くなったら呼んで。12時位迄なら待機しとく。」
やっぱりハルさん最高ー!!
「ありがとうございます!! 何とかがんばります。」
「じゃあ、ゲームはまた明日だね。」
「そうですね。今からじゃ時間も無いですし。」
「結局、手がかりは見つかったの??」
「うーん、流れ的には、御神木に猫族の証明書があったってことは、そこに用があって行ったんでしょうから、取りあえず御神木に行こうかと。」
「そっか、どっちみち勇者の証も要るしね。ファジール連れてるなら一石二鳥だね!!」
ああ、また本編が飛んでた。そうそう、勇者の証を貰って来なきゃ……
罰ゲームまで刻一刻と時間がすぎる。カズヤさんが怒らずに話を聞いてくれますように!!と密かに願いながら、胃痛との闘いのゴングが鳴るアフター5を迎えました。
読んで頂き、ありがとうございました。




