59. I 品定め
ファジール君と他愛ないお喋りをしていたら、子分Aが焦ったように牢まで降りてくる。
「あんた、ちょっと隠れて!」
「え? 何処に?」
「え? あー、ど、どうしようか……?」
「おじさんがここからイチカを出せばいいんじゃない?」
「バカヤロウ! そんな事したらお頭に怒られちまうじゃねぇか。」
「そもそも何故隠れる必要が??」
「それは……「隠すなんてつれないですねぇ?」……!?」
階段を、1人の男の人と、ゴリラ? とマンドリル? の獣人が降りてくる。街で見たブァッファローの獣人にも圧倒されたけど、ゴリラの獣人も体が大きくて威圧感が凄い。
「珍しい者をあなた方が手に入れたらしい、と耳にしましてね、先に見せていただこうとこうして足を運んできたのですよ。」
「今回、俺達は出品しねぇ。お頭もコイツらは売らねぇって言ってたからな。」
男の人は鉄格子の間に顔を突っ込むようにしてファジール君と私を見る。
「…………素晴らしい!! こちらの男の子も可愛らしい顔で高値で売れるでしょうが、こちらの雌の天創人!! 是非出品して欲しい。」
「だから! 売らねぇって言ってるだろうが!!」
「そうおっしゃらずに。これだけ見目が良い上に、雌。しかも、先程喋ってませんでしたか? 売りに出せば、市場最高値は間違い無い!!」
「売らねぇのに高値も何もねぇだろえが……、ここに居たって意味はねえだろ。さあ、さっさと帰ってくれ。お頭達が帰ってきて、あんたらにコイツら見せたことがバレたら叱られちまう。」
「……チッ」
男の人は、舌打ちをすると同時に顎をしゃくった。子分Aがゴリラの陰に入ったかと思うと、 ウッ と言う呻き声と、ドサッと人が倒れる音がした。
「おじさん!?」
ファジール君が子分Aに声をかけるも返事はない。ファジール君も私も牢の一番奥まで下がり、私はファジール君を庇うように格子越しに抱き締める。
「猫族のお頭が出掛けてて良かったです。彼も一応、うっすらと印をお持ちですので、私達じゃ敵わないですからね。」
そう言うと、ファジール君の牢の鍵を開け、ゴリラとマンドリルは中に入った。ファジール君は私にすがりつくようにして震えている。
「やだ! 来ないで!!」
「ちょっと!! そんな大きな二人が寄って集って子供に何するつもり!?」
ギューっと抱き締める手に力を込めるも、アッサリ引き離されて、勢い余って鉄格子に顔面を強打する。
「雌の方に傷を付けるな!!」
男の人がゴリラとマンドリルに怒鳴り付ける。と、マンドリルが注射器のようなものを取り出し、ファジール君に突き刺した。
「ファジール君!? ファジール君!! 大丈夫? 起きて!」
膝から崩れ落ちたファジール君が動かなくなった。名前を何度呼んでもピクリともしない。
「……何をしたの?」
マンドリルを睨んで、精一杯威嚇しながら聞く。。
「少し、寝ていて頂くだけですよ。……って、見たことのある顔だと思ったらフレミッシュの倅でしたか。……あぁ、やはり印もち……」
「印もち?」
「おや、御存じ無かったのですか? まあ、有益印と違い、必ずしも見える所にあるとは限りませんからね。確か10を少し過ぎた位の年でしたかね? 子供とはいえ、暴れないで居てくれて助かりました。」
「どういう事?」
「私も一応同じ人獣ですけどね、ここの頭を含めうっすらとでも印がある者たちには敵わないのですよ。ここに居る獣人も力自慢の二人ですが、彼が本気で暴れたら一たまりも無いでしょうな。」
ファジール君、かわいい顔してかなり強いのね……。暴れてくれれば良かったのに……
「まあ、卯の性質上、そう簡単に暴れないでしょうけどね。……にしても、体格もいいし、顔も良いので労働でも愛玩でも需要がありそうなのに……印もちでは仕方ない。連れていくのは貴方だけにしましょうか。」
男はこちらを見る。それと同時にゴリラとマンドリルがこちらの牢の鍵を開けようとする。
急いで内側から押さえる。も、指を一本一本丁寧に外され、開けられてしまった。開いた瞬間にゴリラにタックルを喰らわせて逃げようと試みるも、ただ優しく受け止められただけだった。
案外、ゴリラ紳士的……
結局、散々な抵抗も虚しく、私は猿ぐつわを噛まされ、両手を縛られた後、大きな麻袋に押し込まれた。そして、ゴリラかマンドリルに担がれてアジトから出ることになった。
多分、馬車に乗せられたのだろう。カタカタとリズよく揺れながら麻袋の中で考える。
ファジール君は大丈夫だろうか? 寝て貰うだけとはいえ、あんな昏倒するような薬を射たれたのだ。子分Aが早く目覚めて看病してくれると良いのだが………………って、人より自分の事か。商品って言ってたから、え? 私、売られちゃう??
見目が良いって言ってたな……。ファジール君もリベルも可愛いって言ってくれたし。
もしかして、この世界、美的センスが地球と違うのかも知れない。だったら私にも彼氏が…………ウッ。また頭が痛い……
こちらの世界に来てから、頻繁に起こる偏頭痛を、頭を抱えてやり過ごしてるうちに寝てしまったようだ。目が覚めたのは馬車が止まって、また抱き抱えられる時だった。
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