51. I 、誘拐される
「うわっ、ビックリしたー……」
男の人の声にビクッと体が勝手に反応し、ガツっと、背中に何か当たる。うぅ、痛い……。と擦ろうとするも、身動きが取れない……
そうだ、私、木の虚の中に居るんだった……。ぼんやりと顔を上げれば、私を見下ろす2人分のシルエットが見える。
!! 意識が一気に覚醒し、状況を理解する。まずい、城の兵士に見つかった!!
「ぅおっかし」
ボコっと1人が殴られる。シー!! と言う、囁き声が聞こえた。月明かりを背にしているので、動きは全てシルエット。呆然とその影絵の様なやりとりを見てると、
「何をしている。」
低く、鋭い声が聞こえた。
「あ、お頭。ここに子供が隠れてて……」
「子供だぁ? こんな時間にか?」
お頭と呼ばれた男は無遠慮に私の顎を掴み、顔を持ち上げる。
「子供か? 大人の女に見えるが……まあ、いい。お前、ここで何をしている?」
「………………」
何て答えよう……。隠れてます? 迷子? 一休み中?
それより、ここは人獣か王家の関係者しか入れないと言ってなかったか?? え、もしかして王族関係者? でも、お頭なんて呼ぶ?
そのお頭は、質問に答えが来ないことが不満なのか、
「返事する気がねぇのか、それとも、口が聞けねぇのか? あぁ?どっちだ??」
「聞こえてます。けど……ちょっと待って下さい。今、何て答えようか迷い中……。」
一瞬、口答えされたことに驚いたような気配が伝わってくる。
「フッ、まあいい。お前ら連れていけ。」
「「へい!」」
少し、頭に衝撃があったのは覚えてる……けどそこからは先は覚えていない。
◇◇◇◇
「ダメだって言ってんだろー!」
「チョロっと! チョロっと味見位良いだろー?」
「価値が下がるから手を出すな! って言われてんだ、女が欲しきゃソイツ売った金で買え。」
「えー。こんな上玉、滅多に抱けねぇぜぇ?」
先ほどから際どい会話が続いているけど、起きた方が良いのかしら……
「バッカだなぁ、上玉だからこそ手を着けなきゃ高く売れんだろ。ソイツに手をだしてお頭にぶん殴られた上に、お前の取り分減らされるのと、我慢して3回は店に行ける金を貰うのどっちがいい?」
私を売ると3回も行けるのか……何てどうでもいいわ。本気でどうしよう、ガバッと勢いよく起き上がって走って逃げる?
出口を確認しようと薄目で周りを確認する。カチャッと扉を開ける音がしたので思わず振り向いてしまった。
「起きたか? おぉ、お前、目玉も黒いじゃねぇか。天創人か?」
「え? 目玉も黒いの?」
「………………」
親方と子分A・Bが覗きにくる。思わず眉間に皺を寄せて言う。
「顔近すぎ! そんなに近づいたら逆に見にくいでしょうに。」
お頭はハッっと鼻で笑うと、先ほどまで子分Bが座ったいた椅子にドカッと腰掛けた。
「しゃべる、雌の天創人ね……。昨日の兵士どもが探して、ネズミどもが守ってたのがお前か。」
つい、マジマジ見てしまった。お頭と呼ばれた男は顔に大きな切り傷があり、目が猫のような瞳孔をして、片腕だけピンクの肉球が付いた獣の手をしている。
「おい! 聞いているのか? ……フンっ、こんなもの見慣れてるだろうに……」
ジロジロ見たからなのか、返事をしなかったからなのか、物凄く不機嫌になってしまった……。
「あ、その、ジロジロ見ちゃってごめんなさい。」
お頭は はぁ? という表情をしたあと
「んなこたぁいい。で、追われてたのも守られてたのもお前か?」
「多分……私かな。そうだ、私の近くにハムスターが居ませんでした?」
「あぁ? ネズミ共とは相性がわりぃからな。俺らが近づいた時点で皆逃げ出したわ。お前にくっついてるのは一匹も居なかったな。」
「そうですか……それで、私は売られちゃうんでしょうか?」
お頭は少し考える素振りをすると、
「いや、お前は交渉に使えそうだ。売るのはやめた。」
「えぇー! そりゃないぜ、お頭ぁ……。おれ、すげぇ我慢したのに……」
「うるせぇ、ほら、これで行ってこい。」
じゃらじゃらと音がする巾着を投げて渡すと、子分Aは嬉しそうに受け取り、子分Bはやれやれ、と言った感じで部屋から出ていった。
「さて、じゃあ話を聞こうか? お前、何者だ??」
お頭は先ほどまでの嫌らしい笑い方をやめ、真顔で私に語りかけてかた。
ーーーーーー
「なるほどね……俄には信じられないが、城の兵士が探す理由にはなるわな。子族のボンボンもお前が欲しいタイプか。亥族の兄弟は……強制送還だろうな。フッ、思った以上に使えそうだ。」
お頭は黙って私の話を聞いたあと、
「じゃあ、お前も暫くVIP待遇だ。」
そう言って私を地下牢に引きずって行った。
「ここで仲良くやってな。おら、寂しがりやの卯の坊っちゃん、仲間を連れてきてやったぜ、仲良くしろよ!」
そう言うとヒラヒラと手を振って地下牢から出ていった。
卯の坊っちゃんと呼ばれていた子は、隣の牢の反対側の壁際に小さくなって膝を抱えている。よく見れば、えっぐえっぐと号泣である。子供を誘拐してきたのだろうか!?
「えっと、あの、大丈夫? こんな暗くてジメジメしたところに1人で居るのは怖かったよね?」
「……うん。」
「暫くは私もここに一緒にいると思うんだ。一華って言うの。よろしくね。」
「ぼ、僕はファジール」
「そう、それで、ファジール君は何で捕まっちゃったの?」
「…………僕は鍵だから……。」
会話がおかしくないか? 捕まってる理由が鍵だから? 鍵を持ってるってこと?
「ね、ねえ。もうちょっとこっちに来ない? ちょっと遠くての顔もよく見えないし、声も聞きづらいな。」
そう言うと、わかった、と立ち上がり近付いてくる。と小さくなっていたのは形容ではなく、本当に体を縮こまらせて小さくなっていたんだと思った。
何故なら、目の前の坊っちゃんと呼ばれて号泣していた子は、2M近くの大柄な男の人だったのである。
呼んで頂き、ありがとうございました。




