49. F の鬱憤
イチカが頭を抱えて蹲ってしまったのでベットまで運び、リビングに戻ると、心配そうにこちらに顔を向けるリベルと、眉間に皺を寄せ物凄く怒っているような顔をしたジャワがいた。
「私、お兄様からの伝言もお伝え出来たので今日は帰ります!」
ジャワが大きな声で叫ぶ。そんなに大きな声を出さなくても聞こえるのだが……と、見ていても一向に動かない。何をしているのだろう?
「外に馬車を待たせてあります。送って下さらないのですか?」
あぁ、いくら護衛のマトラが居るとはいえ、森の中の別荘なのだから暗くて怖いのか……。
「……送っていこう。」
「ありがとうございます。」
無言で馬車に乗り込む。と、
「フィルソン様、待っていて下さいね……。」
そう言い残し帰って行った。何を待っていろというのか……?よく分からないが、取りあえずリベルとマレーとダンと食事をし、体を休めなければ……
食事を終えると、リベルが片付けをしてくれると言う。俺は馬達の世話をし、明日の支度をすると風呂に向かった。
今後の事を考える。取りあえず、ここからは南に向かおう。バリーの 開眼 よりさらに上級の 真眼 を持つ巳のニシキ殿ならば、イチカの称号を解読出来るかも知れない。天創人であろうが無かろうが、魔人でないことを証明出来れば有益の印はもらえるだろう。もらえなければ黒目黒髪のイチカはこの世界では生き辛い。
ここを出たら卯のフレミッシュ領を突っ切らなきゃ行けないが、1日では無理だろうな。夜営の支度をしようと風呂から上がり、支度を終え、一度チェックをしてから布団に入った。
ウトウトとしかけた頃、マレーが部屋に入ってきた。バリーがリビングに来るように呼んでいると言う。わざわざ部屋に入った者を起こしに来る位だ、一応着替えておこう。
リビングに出てマレーを探せば、リベルも部屋から出てくる。二人と一匹でテーブルを囲み話を聞く。と言っても、マレーとは簡単な意志疎通位しか出来ない。
「バリーから、ドラトゥスト王子がここに来るって聞いた。」
「王子が?」
「そう、なんで王子がここを知ってるの?マレー、アモイから連絡無い?」
リベルは昔、王子と仲が良かったのだが、ある噂をきっかけに今は蛇蝎の如く嫌っている。
マレーは何も聞いていないようでガゥ。と小さくなっている。
カチャッと部屋からイチカが出てきた。また男の子のような格好に着替えて来たようだ。同時に出てきたバリーが俺たちを集めた理由を話始めた。
聞けば聞くほど分からない。ジャワが何故トラット公に告げ口したのかも、先ほどからバリーとマレーに非難めいた視線を向けられているのかも……取りあえず、俺の中でジャワの株は大分下がった。
リベルがイライラしながら話を聞いて居たので、珍しいと思いつつも、途中からアモイも説明に加わり事態はかなり深刻だと分かった。
とにかく時間がない。イチカが王子の元に連れていかれてしまえば、北からの要請等無視して自分との従属を強制するかもしれない。
思考をこちらに戻せば、話の流れ的にイチカとバリーだけを逃がす方向で進んでいる。
「待ってくれ、バリーが付くとはいえ今の姿では何かあったときに対処出来ないだろう?」
「何か無いように進むために、お前がここで一暴れして兵士達を少しでも引き留めろ。」
「旅慣れないどころか、この世界にすら慣れていないイチカが、森の中に1人で入って無事でいられる訳がない!」
「だから俺が一緒に行くと言ってるだろう?」
ハムスターが一匹着いて行ったとして何が出きるのか……。と、バリー? ダンの? 動きが止まると急に話始めた。
「森の一部に結界が張ってある場所を見つけた。どうやら人間には入れない場所らしい。アモイ、何か知っているか?」
「……悪いが俺の口からは言えない。」
言えないってことは国絡みで隠している場所か……?
「が、そこはここからは少し離れている上、人獣や王家の者が一緒に居なければ入れない場所だ。王子をここに足止めして置いて、たどり着けたなら見つかる可能性はほぼ無い。が……ハムスターのバリーで通れるかどうか……」
確かに。
「……迷ってる暇はない。王子達が大分近くまで来ている。」
子の眷属のネズミやモモンガやリス等が、常に森の中の状況をバリーに送って来るらしい。
と、リベルが突然立ち上がり、部屋から麻袋を持ってきてイチカに渡す。
「イチカ、後で絶対合流する。だから何とか逃げ切って!」
「は、はい。」
「妹をここに寄越した責任があるからな、王子達はなるべく足止めしてしておいてやろう。」
「ありがとうございます。」
「イチカ、南の国のジャメーノ公爵家のニシキ殿の許に向かえ。何とか伝言は送っておく。」
「ジャメーノのニシキさん。……分かりました。皆さんご迷惑をかけるばかりで申し訳無かったです。もし、誰かに何か言われるようなことがあれば全部私のせいにしておいて下さいね。じゃあ、ありがとうございました。皆さんお元気で!」
そう言うとイチカはバリーに急かされ別荘を出ていった。
リベルはセレネイに、俺はニシキ殿に向けて言俐を作り始める。と、
「お前達、何を始めた? 今は王子が結界を張ってしまったからな、言俐は飛ばんぞ!」
それを聞いたリベルが、俺ですら怖いと感じる顔をした。それを見たアモイは、慌てて自分の体に戻って行った。
程なくして、王子が。さらに暫くするとアモイの本体が別荘に到着した。テーブルに座り込んで動かないリベルとオレを、イチカからの魔法が解けた反動だと思ったのか、見当違いな慰めの言葉をかけて、王子と兵士達が近付いてくる。とにかくここで足止めをしなければ……
リベルも同じ事を思ったのか、二人ともイチカを1人で行かせなければいけなくなった鬱憤を晴らすべく、思う存分暴れさせてもらった。
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