44. S 、マストル村へ
私とマリア嬢で東へ向かう。リベル達と予め決めておいたのだ。本来なら、マリア嬢を別の方向に誘導し、時間を稼ぐつもりだったのだが、神託により急いでイチカ殿と合流しなければならない。なのに……
「次から次へと……キリがありません。何故か出てくるだけで襲ってはこないので倒す分には楽ですけど、進むのに時間がかかってしまいます。」
マリア嬢は初めて一人で乗るとは思えない程、薬師から買った馬を乗りこなして進む。馬の名は『だーく』だと言い、見たことのないような記号を鞍に風魔法で彫っていた。どうも、その記号でだーくと読ますのだそうだ。突然頭に名前と記号が思い浮かんだので神託かもしれないと言っていた。
マリア嬢殿は私よりも先行して道を塞ぐ魔物を勇者の剣と風魔法の併用でスパスパと切り倒していく。ただ、魔物は出てくるだけで襲ってはこない。試しに道の端にいた魔物を切らずに通り過ぎたら、暫くこちらを目で追ってから森に帰って行った。なんなのだ……
放っておいて進めばいいのだが、だーくはともかく、私の馬が魔物がいると怖がって進めなくなってしまう。面倒だが、マリア嬢に頼むしかない。
暫くそうして進むと、一匹の言俐が飛んで来た。
何も書かれていない紙を用意してやれば、言俐は文字となり紙に文をつくる。どうやらリベル達は無事に東の国に入れそうだ。急げば追い付けるかもしれない。
「マリア殿、今リベルより連絡が来た。神が全てを見てる頃に東の国境付近に居たらしい。」
「ご無事なのですね! その頃国境付近となればもう東の国には入ってますね。急ぎましょう。」
そういうと、だーくのスピードを少し上げた。剣を振るスピードも上がり魔物が次々と切り裂かれる。
不思議なのだが、魔物を切ると人族が使う金貨、銀貨や薬草、毒草等が出てくる。それは人を襲って入手したものだろうが、その出てきたものが、マリア嬢殿の腰に吸い込まれるように消えていくのだ。
「マリア殿、一つ聞きたいのだが……先程から魔物が持っていたであろう物が貴方の腰辺りに集まっては消えてしまうのだが……」
「あぁ、これ、母が可愛い布を見つけたからと作ってくれた袋なんです。少し開けておくと、集まれ! って思ったものは生き物以外は勝手に入ってくれるので、すごく便利なんですよ!」
……聞く限り、亜空間のスキルだろうか。空間を司るスキルは滅多にお目にかかれないと聞く。流石、勇者と感心してしまった。
◇◇◇◇
暫く進むと村があった。ここで一旦食事と休憩をとろう。と道中に話し、歓迎を意味するアーチをくぐる。見張りだろう、アーチの横に居た男が
「ようこそ、マストルへ! お食事、お泊まりでしたら北の端という名の宿屋がございます!」
「ありがとうございます。」
男はニコニコとマリア嬢に宿を進めた。が、宿に行く前に行きたい所がある。
「我が名はセレネス・ド・ウリーボ。このウリーボ領を収めるグリン・ド・ウリーボ公爵家の嫡男である。ここの代表にお会いしたいのだが?」
「え、あ、……主領様の……そ、村長の家にご案内いたします!はい!」
そういうと、走り出し、振り向いては転び、急いで立ち上がってはまた走り出す。そして、ゼーゼーと息を切らして時を告げる鳥のように こ、ここ、ここ、ここで……す。と一軒の屋敷を差した。
案内役の男にどうした? と声をかけ我々に話しかける老人。案内役が、主領の! 嫡男って! 良くわかんねぇけど、主領様と名前が一緒だ! と小声とも言えない丸聞こえの音量で話している。
「これはこれは、ウリーボ家の嫡男と言えばセレネス様でしたか……?」
「いかにも。」
「わたくし、この村長のノビと申します。何もないところですが、ゆっくりなさってくだされ。」
「あぁ、そうさせてもらう。ところで、この村は日にどれくらい旅人が立ち寄る?」
「ウリーボ領の端で国境が近いのでかなりの方が立ち寄りますよ。」
「本日はどれくらいだった?」
村長が先程の案内役に訪ねる。今日は今のところ7組の旅人や商人が通ったそうだ。
「その中に、若夫婦と成人前後の男の子の組み合わせは居なかったか?」
「あぁ、今日、日が出てすぐから来た旅人がその組み合わせだった。俺もすんげぇ早く起こされたからな……。宿で飯作って貰って食べたらすぐ出発したよ。」
アーチの横の小屋で、案内人の仕事をしている彼が起こされたと言うなら、かなり早い時間だったのだろう。
「じゃあ、俺は仕事に戻ります!」
「あぁ、よろしくな。」
村長は案内人を見送ると、こちらに顔を戻す。
「さて、セレネス様。他にも聞きたいことはございますかな?食事をするのでしたら宿の食堂がオススメですぞ。……それと先程から気になっておったのですが、お連れの女性がお持ちの剣は、勇者の証では御座いませんか!?」
「そうですが……」
マリア嬢が戸惑いぎみに返事をする。
「おぉ、おぉ……神よ感謝致します。勇者様、ここより南にある洞窟に魔物が住み着き、洞窟の周辺で取れる貴重な薬草がとりに行けないのです。どうか退治して頂けませぬか?」
主領の息子と勇者と分かったうえでの頼み事では、さすがに断れない……。
余計な事は聞くんじゃなかった……。
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