42. T の焦り
「取りあえず、今はイチカを探さないと。 病院移っちゃったらアウトよ。」
「やっぱりアウトですかね?」
「そうね、彼女が倒れたところに立ち会っただけの男が、転院した先まで追いかけてお見舞いに来たらちょっと怖いと思うわ。」
確かに。ハルさんもうんうんと頷いている。やはり、早いことイチカを見つけて話を聞かなきゃね。
画面ではマリアがベット横で待機している。
部屋を出て、宿の人たちに一通り話を聞きてから宿を出るとセレネスが後ろに着いてくる。そのまま街の人たちにも話を聞くがこれといって変わった事はない。
街道を歩く。東に向けて進むのだが、魔物に出合う確率が異様に高い。マリアが一撃で全て片付けるのだが、少し進むだけで直ぐに出合って戦闘になる。イライラしながらも東の国を目指すと、ピロン。とゲームの設定にはない、メールが届いたような音がした。
3人とも一斉にスマホを確認する。俺ではない。2人を見れば、両方首を振っている。
「これはなに?」
画面の中の右端に封筒の真ん中に小鳥が書かれたアイコンのようなものが出ている。
「こんな設定無かったよねぇ。」
「無いですね。メールどころかスマホもない世界ですからね。」
「取りあえずみてみようよ。」
アイコンを選択すれば、テロップに文字が流れた。
【Sへ。ヒルダ神が天より全てを見守る頃、国境付近の森へ到着。全員無事。マストルの村の西の森に馬車あり。このまま東に向かう R。】
「ヒルダ神が出てくるってことはゲーム内の話ですよね。」
「うん。内容からしてSってことはセレネス宛て、で、Rだからリベルよりって解釈で良いのかな? 現状報告みたいだね。」
「そうですね……でも、ヒルダ神が天より全てを見守るって言うのは……」
何かの暗号なのだろうか?
「あぁ、これは多分時間だね。」
「「え?」」
「ボツにした設定にこういう時間表記があったと思う。ヒルダの目覚めが朝、昼間は太陽が当たって影が出きる長さでヒルダが昼寝をしたり散歩をしたりして、日が沈む頃にヒルダが寝て、ヨルダが起きる。そんな感じの時間表記。ちなみに全てをって事だから多分正午頃を表してると思う。」
「ボツにしたんですか?」
「そうだね、時間ってあんまりゲーム内では出てこないでしょ?画面の空の色で明け方、昼、夕方、夜が分かればいいからね。」
言われてみれば、ゲーム内の細かい時間設定はないな。でも、ボツになった案がゲーム内で遣われているのなら……
「他にもボツになった案ってありますか?」
「あるよぉ。それこそ大量にね。」
「そのボツ案がゲーム内で生きてるならこの先、俺じゃ分からない事が出てきます。」
俺はプログラマーだから、完成したシナリオしか知らない。ボツネタがどれくらい反映されているかは分からないが、今まで以上に先が読めないのは確実だ。
「そうね、ライターさん達が持ってきた話も多岐に渡るし、私もいちいち覚えて無いわ。」
「ボツネタ資料、まだありますか?」
2人は顔を見合わせると、探してくるわと出ていった。
相変わらず魔物に出合う確率がおかしい。画面内を数ミリ進むだけで戦闘が始まるゲームなんておれば絶対買わない!! とイライラしながら進めばやっと発見! 村のマーク。早速入ってみる。
「ようこそ、マストル村へ。」
村の入り口のアーチの近くの村人が出迎えてくれた。
「あ、さっきの手紙の村だ。」
入り口で歓迎をしてくれた男が村で、一番大きな屋敷に案内してくれた。
「村長のノビと申します。」
村長の自己紹介が済むと、
「おぉ、おぉ……神よ感謝致します。勇者様、ここより南にある洞窟に魔物が住み着き、洞窟の周辺で取れる貴重な薬草がとりに行けないのです。どうか退治して頂けませぬか?」
ヤバい、イベントがあることすっかり忘れてた……。そうか、マリアは勇者なんだ。あー、めんどくさい。
カチャッと扉があくと、2人がそれぞれファイルを抱えて戻って来るところだった。
「ハルさんのと被ってるのも多いと思うけど、取りあえずあるだけ持ってきた。」
「会議資料なんかも混ざってるけどね。」
「ありがとうございます。」
「お? どっか村に入ってるじゃん! どこの村??」
「さっきの手紙のマストルですよ。今、マリアに魔物退治のイベントの依頼がありました。」
「ああ、そっかぁ。マリアはイベントがあるのか。」
「ますます時間かかるじゃん。チャッチャとやっちゃえ、やっちゃえー。」
資料を持って帰って来るなり、少し離れてコーヒーを飲み始めた2人に言われ、遅々として進まない森をダンジョンめざして進み始めた。
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