40. S の楽観
食堂で並んだ料理を前にひたすらマリア嬢を待つ。着替えて荷解きをする頃には食事の支度が出来る筈だから食堂に集合。と伝えた筈なのだが、マリア嬢が一向に下りてこない。
1人で先に食べてしまっても良いのだが、集合と言った手前待ってるのが道理かと徐々に湯気が無くなっていく料理をただただ見つめていた。
「セレネス様、温め直しましょうか?」
と、宿と食堂を任せている者達が気を遣い声をかけてくれた。頼む。と温め直しを頼むと二階の宿の部屋にマリア嬢を呼びに行った。
ドアをノックしようとすると、
「何故ここでは生きられないのでしょうか? イチカ様の事はセレネス様もあまり良くわからないとは仰っておりましたが、悪い方ではないと先程教えて下さいました。イチカ様がここが気に入られたならこの世界で生きていかれても……」
誰かに問うようなマリア嬢の声が聞こえる。誰かと話している?
マナーは悪いが聞き耳をたてる。不思議なことに、マリア嬢の声はボソボソと聞こえるのだが、話しているであろう相手の声が一切聞こえない。
階下から、セレネス様ーと声が掛かった。仕方がないのでマリア嬢の部屋の扉を叩く。しばらく待てば はい。とマリア嬢が出てきた。食事の時間だと言えば、時計をみて始めて時間を気にした様に申し訳ありませんと謝った。
二人でテーブルにつき、食事をはじめる。
「さっき……」
「セレネス様……」
お互い同時に話し始めてしまい、お互い顔を見合わせた。
「先に話せ。」
うながせば、マリア嬢は先程神託が下ったのだと話し始めた。
神託? 先ほどの話の相手は神だったのか……。にわかには信じられないが、マリア嬢は勇者だ。ヨルダ神様が作り出した魔素で魔王が生まれるかも知れないと言う話が聞こえてきた今、ヒルダ神様から神託が下っても可笑しくはない。まあ、普通は教会で託されるものだと思うのだが……
「イチカ様を探すように仰られました。」
「え?……魔王ではなく?」
「はい。魔王も探すが、イチカ様を優先するようにと……」
何故イチカなのだ? 確かにこことは異なる世界からきたとは聞いたが、ステータスをみる限り、放っておいても問題無さそうだったが?
「ヒルダ神様からだけではなく、異世界の神様からも神託を受けました。イチカ様はこことは別の世界から来た方かも知れないと。もし、異世界から迷いこんだのならこちらの世界では生きてはいけないと仰られました。それと、あまり時間が無いのだとも……」
「異世界……つまり別の世界から来たと言うことか?」
「はい。そう仰ってました。」
「……ならば神が探しておられるのはイチカで間違い無いだろう。」
「えぇ? 本当ですか?? あぁ、イチカははじめ、自分をニホンジンといい、バックとコウバンを探していた。」
「ニホンジン? コウバン?」
「そう、話を聞くとどうやらニホンジンは住んでいた地域の名前、我々ならノースキー人となるそうだ。コウバンは屯所のような所。他にもよく分からない言葉を言うのでな、確認したら自分は違う世界から来たと言っていた。」
天創人の特徴を持ち、天創人とは判別出来ない称号を掲げ、ここの世界の者が知らない行動や言葉を話す。
「そうだな、やはりイチカはここの世界の人間や天創人では無いのだろうな。」
「!! でしたら早く探さなければ!イチカ様が死んでしまいます。」
「待て待て、何故イチカが死ぬのだ?」
「分かりません。ただ、異世界の神は事情があってここでは生きられないと……」
ここでは生きられない? 元の世界に戻るか、別の世界なら平気と言うことか? 俺はあまりイチカに関わらず実家に戻ってしまっていたからくわしく話を聞いていないのだが……
「他には何か言っていなかったのか?」
「この宿に着く前の事を話してらっしゃいました。」
「着く前?」
「はい。どうもこの宿に来る前に、盗賊に襲われていたそうなのですが、それより前、意識を失っていたそうで。意識を失う前の事を聞いて欲しいと……」
ここに来る前、盗賊だか追い剥ぎに襲われた話は聞いているが、その前に意識を失っていたとはどういう事だ? あの日……イチカが来たこと以外、別段変わったことはないと思うが……
あっ! もしや、雨も降らないのに播種の天啓があった日か?? あの日か? イチカが来たのはあの日だったか??
自分の記憶に自信が持てない……
「よし、分かった。とにかくイチカを追おう。」
「イチカ様の居場所が分かるのですか? 神様達にもわからないと仰っていたのですが……。」
はぁ。と大きく息を吸い込むと、リベルとフィルソンとの計画、それと、オヤジ殿の考えをマリア嬢に聞かせた。
マリア嬢がイチカを目の敵にしたことで、事が少し大きくなった事も話したらかなり恐縮していた。
幸い、オヤジ殿が上手くやってくれたお陰で追う役は私とマリア嬢のみ。マリア嬢が味方になってくれるのであれば案外すんなり見つかるかも知れないと、この時は楽観視していた。
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