38. F の苦手
次の日、お昼前辺りにイチカが目を覚まし、体調はどうかと聞けば問題ないという。確かに顔色も良く、表情も明るくなっている。
リベルに、起きたら風呂に入るように言え、と言われているので伝えると素直に入り、昼飯を出してやればモリモリと食べていた。
この調子なら夕食も食べるだろうと、食材の確認のためキッチンに向かうと、玄関が凄い勢いで開けられた。キッチンからは玄関は覗き込まなければ見えないので、急いで覗けば、黄色い髪の毛が見えた。
ジャワだ。イチカには害は無いだろうと判断し、思わず裏口から外へ出て隠れる。
「フィルソン様ー!」
歌うように何度も俺の名を呼びながら、扉と言う扉を全て開けていく。クローゼット迄確認するのは、俺が隠れる可能性を考慮しての事なのだろうか?
イチカはと言えば、食べるのをやめ、ジャワに近づく。
「ちょっとあなた!」
振り向き様にジャワに声を掛けられたイチカは、俺の居場所をあっさりジャワに教える。俺は、窓から見えていたであろう鼻から上を急いで隠す。
「居ないじゃない!」
と、ご立腹なジャワがキッチンから出ていったのでそうっと戻って様子を伺った。すると、あろうことかイチカに八つ当たりし始めた。助けてやりたいが、どうもジャワだけは煩くて敵わない。
◇◇◇◇
各国の王族の子供と、人獣の印持ちと次期当主を集めたお茶会、夜会が2年に一度帝国で開催される。
次期国王と国を守り、国の政に関わるであろう人達の顔合わせを小さい内から行い、円滑な継承と友好を保ち、ひいては安定した帝国を維持する為だそうだ。
9年前行われた茶会、成人以下の子供達が中心の顔合わせで、初めて合ったジャワは、髪がフワフワとしたとても可愛い子だったと思う。
保護者である母親達がお喋りに夢中になった頃、俺より1つ年下の西の国の申の公爵が嫡男、ダスキートと印持ちのドゥクランがジャワにちょっかいをかけていたのを目撃し、バカなことは止めろと嗜めた。それを切っ掛けにジャワは会うたびに俺に付いて回るようになった。
他の子供達と剣の稽古をしよう、と修練場に向かおうとすれば散歩に行こうと庭園に引っ張られ、王子達と話をしていれば話に割り込み強引に話を変える。
周りはたまにしか会えないのだから、年上の俺にジャワに付き合うように言うが、たまにしか会えないのは、王子達も他の子達も同じなのだ。
正直、嫌われて嫌がらせをされてるのかと思ったのだが、どうやらオーラをみる限り違うらしい。セスに相談したが、嫌われるよりいいじゃないか。と毒にも薬にもならないアドバイスをもらった。
一度、やんわり言っても伝わらなかったのでかなり強めに拒否の意思を示した事があるのだが、泣かれてしまい、後で母親やリベルにこっぴどく叱られた事がある。
そこからはひたすら隠れた。別に嫌いじゃないが、どう接して良いのか分からないのだ。
◇◇◇◇
ジャワを見ながら うわぁー な事を考えていたら、リベルが部屋から出できたようだ。見るからに怒っている。視線から察するに俺に怒っているのだろう。
どうしたもんかと思っていたら、ジャワがイチカを殴ろうと振りかぶったのを見て、隠れていることも忘れ思わず飛び出してしまった。
ジャワは何故止められたのか分かっていないようだ。が、メイドでは無いことは理解したうえで、今度は髪と瞳で天創人かどうかの疑いを持ったようだ。あまり話を方々に広げるのもよろしく無いだろうと誤魔化すことにした。適当に話をし、話を合わせるようにとイチカを見ると、綺麗に広角を上げ、にっこりと微笑んだ。
目を奪われるとはこういうことを言うのだろう……いや、神々しいとでも言うのか、それまで考えていたことが全てぶっ飛んでしまうような綺麗な笑みだった。
と、すぐに表情が変わり困ったように目尻を落とす。
「あ、あの…」
イチカのその一言で、全員の時が動き出した。
先程の事をすっかり忘れたかのようにジャワが自己紹介をする。そして、アモイからの伝言を伝えた。
ヨウセイが来た。ジャワはそう伝言を預かったという。詳しく聞かされていないのか、精霊の一種の妖精の話と勘違いしたようだが、要請の事だろう。
北の国から東の国に正式に、イチカを北の国に連れていく為の協力を求めたと言うことか……?
イチカは珍しい黒目黒髪の女性だ。天創人では無くても何かしらの能力はあるのかもしれない。どこまで伝えて探すように言ったのか分からないが、下手をすれば各国がイチカを欲しがり捜索を開始するかもしれない。
オヤジ殿やセスが居るのに何故そんな悪手を? もしかして国王の命令では無いのか……? 確か、第4王子が……
一点を見つめ考え込んでいた俺に、ジャワがガチャガチャと話しかけてくる。鬱陶しいことこの上ない……と思っていたら、
「うぅ……」
と何故かイチカが頭を押さえて蹲り、動かなくなってしまった。 大丈夫か?と聞いても唸るだけで返事はない。
抱き上げてベットに運ぶ。皆が心配そうに付いてくるも、ジャワだけは目を剥いてこちらを見ていた。
寒かったり、喉が渇いて居ないかと聴けば、やっと大丈夫と言う言葉を聞けた。一様にホッとしたようで、口々に休めと言い部屋から出ていく。
元気に見えたが、まだ本調子では無かったのかもしれない。
国からの要請が出たとなると、この先、少し面倒になるかもしれない。休める内にたっぷり休んでくれ。と思いを込め、頭を一撫でしてから部屋を出た。
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