35. I の体調
目を覚ますと体も気分も凄くスッキリしていた。汗をかいていたから風呂に入れと進められ、お腹は空いてないかとご飯を出される。
至れり尽くせりだ。
出されたパンをモグモグと咀嚼していると、マレーさんが耳をピクピクさせ、困惑気味に立ち上がり扉をみた。どうしたのかと声をかける。
「マレーさ………」
聞き終わる前に、バターンと勢いよく扉が開いた。と、黄色の髪に黒いメッシュが入った、腰までの長さの髪をフワフワと揺らしながら女の子が入ってきた。その後にマレーさんより少し小さな虎も入ってくる。
「フィルソン様! フィルソン様? こちらに居らしてると聞いたのですが…… フィルソン様?」
入って来るなり、全ての部屋を開け放ってフィルを探す女の子。フィルの知り合いのようだ。取りあえず食べるのをやめて声をかけようとすると、
「ちょっとあなた! フィルソン様は何処?」
「えっと、たぶんキッチンじゃないかと……。」
「何故フィルソン様が? 召し使いならキチンと己の仕事をなさい! しかも、あなたが食事をしているのにフィルソン様がキッチンに居るなど、おかしいでしょう?」
腕を掴まれて凄く怒られた……思わず、
「え、あ、ごめんなさい?」
「いくらフィルソン様がお優しくても身分を弁えなさい! 全く……」
やっと腕を解放される。フィルの知り合いのようだ。だが、何故かキッチンでキョロキョロと先ほどの女の子が辺りを見回している。
「居ないじゃない! ちょっとあなた!! ………………!!」
見つからないことで凄く怒っているのだが、フィルソンは何処に行ってしまったのか……この後、私と入れ違いに休んでいたリベルが部屋から出てくるまで女の子の説教を聞く羽目になった。
「ジャワ様、来て早々に何をなさるのです?」
「あ! リベル様今晩は。兄に、ここにフィルソン様が来てらっしゃると聞いて参りました!」
にこにこと、私に説教をしてた人物とは別人のようである。
「それよりも!! 先程、ノックもせず部屋を開けるなど、淑女の為さることとは思えません!」
「え……も、申し訳御座いません。」
そう言うとクルリと私の方を向き、
「あなた、本当に何をなさっているの? フィルソン様をキッチンに立たせ、リベル様がお部屋にいらっしゃるならそう伝えるのが貴方の仕事でしょう?! 仕事が出来ないならここには要りません! 兄にはわたしから伝えます。いますぐ出ていきなさい。」
え、何か凄い誤解をした上に、勘違いをしているようだ。
確かに、風呂から出た後、動きやすい黒のワンピースを着て、色々支度を手伝うつもりでエプロンをしているのでメイドにみえなくもない。
「いや、あの、私は……」
「……っ言い訳など見苦しい!!」
女の子は私が反論するとは思っていなかったのか、酷く怒った様子で持っていた扇子で私を叩こうと振りかぶる。
殴られるのを覚悟して肩を竦めてみるが、衝撃がこない。不思議に思いそっと目を開けると、すぐ目の前にマレーさんがいた。いつの間にきたのか、フィルが女の子の振り上げた扇子の正面に居て、女の子の後ろでリベルが扇子を扇子で押さえていた。
「な、なんですの? フィルソン様、リベル様。私どものメイドが失礼したのです。止めないで下さいまし。マレー! お前も何故そんな所に居るのです?」
女の子はなぜ自分が止められているかわからない様子でオロオロし始めた。ここは最年長であろうわたしが! と意気込んだのもつかの間、凄く低い声で、
「イチカに何をするつもりだ?」
「な。なにをと……もちろん、仕事をしないのであれば馘に。なお言い募り許しを乞うような者には罰を与えます。」
「よく見ろ。イチカはメイドではない。我々が招いた客人だ。」
えっ! と驚いた顔をしてこちらをみる。爪先から頭の天辺まで見たところで動きが止まった。
「あなた、天創人?」
「違う。」
「ですが、黒髪に黒い瞳のように見えます。」
「光の加減ね、もう日が落ちてきてこの光灯石の光ではこの子の濃い紺色の髪と瞳は黒に見えるのね。」
フィルとリベルが頑張って言い訳してる。訝しげに私を見るジャワと、話を合わせろ! と皆が訴える視線に、私は愛想笑いと苦笑いをミックスしたような笑みを浮かべた。と、私を見た全員がピタッと動きを止めた。ビックリして私も思わず固まる。
「あ、あのー」
「えっ、ああ、ごめんなさいねイチカ。こちらアモイ様の妹君のジャワ嬢、そしてその護衛のマトラよ。」
「初めまして、一華 影野と申します。」
カーテシー、ちょっと出きるようになってるかも!
「……イチカ様、私、アムーヌ・ウォン・トラット公爵家の娘ジャワと申します。仲良くして頂けると嬉しいですわ。」
完璧なカーテシー。これぞお嬢様!!惚れ惚れしていると、
「そうでした! 私、お兄様から伝言をお預かりしておりますの。」
すぐ私から目線を外し、フィルに向かい話しかけた。
「伝言? 」
「はい。何故か今、北と東の境の森全域に術者が結界を張ったらしく言俐を飛ばす事が出来ないそうです。それに父と兄は城から召集がかかりしばらく帰れないそうで……なので私が伝言を届けに来たのです!」
キラキラとした目でフィルを見つめながら話す。城に行ったアモイさんの話を聞いたマレーさんは首を上げてジャワをみている。護衛としては気になるのだろう。
「それで伝言とは?」
「こちらにもヨウセイがきた。だそうです。ヨウセイとは精霊の一種でございますよね? お探しになっておられるのですか?」
一生懸命フィルに話しかけるが、フィルは反応せずに黙って床を見つめている。なんかちょっと可愛そうになってきた。私も鈍感だとよく言われるが、そこまでアピールしてたら気づきそうなものだが……。
好きになってもらえるなんて有難い事じゃないか……そう思ったときにズキズキと頭が割れるように痛くなった。うぅ! と頭を抱えて蹲る。昨日の頭の痛さとはまた違った痛みだ……。
「イチカ!! どうした? 大丈夫か??」
すぐさまフィルが反応して様子を伺ってきた。大丈夫と一言言えば落ち着くのだろうが、その一言も発することが出来ない。ガンガンと頭を殴られているような感覚だ。
蹲った私をフィルが抱え込む。リベルと2人で使う予定のベッドに寝かされ心配そうに覗き込まれた。
寒くはないか? 飲み物はいるか? とオカンのようだ等と考えていたら少し楽になった。大丈夫、ありがとうと言えば、少し寝てろと皆部屋から出ていった。
私はそのまま、また眠ってしまった。
読んで頂き、ありがとうございました。




