30. T の女上司再び
「休憩しませんか?」
先程のセレネスとマリアとムーの会話に集中しすぎて疲れてきた。ムーと別れ、マリアとセレネスを宿に誘導しながらハルさんに提案する。
「そうだねぇ。ちょっとデスクに目薬取りに行ってくる……」
町の教会で本来なら保存をするところだが、相変わらず選択すらさせてもらえないので中断セーブをしてハルさんに続いて部屋をでる。
両手を上げ、伸びをしながらゴキゴキと自らの骨が奏でる音を聞き休憩室へ向かう。
二人分の飲み物と社内で販売しているチョコレート菓子を買って、目薬で悶えるハルさんのもとに向かう。
「イチカが付けてた髪飾り、ムーの仕業でしたね……」
「ねぇ。あれがなきゃマリアに話して色々聞けたかもしれないのにねぇ…………」
「…………」
「…………」
「……ずっと考えてる事があるんですけど……。」
今日、プロデューサーと話してから頭の片隅にある考え。
通常ではあり得ない。俺が逆に聞かされれば、数日は休養をとれ! と言って、相手を本気で心配してしまうほど荒唐無稽な話。でも、どうしても考えてしまう。
「夕べコンビニで会った、影野 イチカさん。このゲームに出てくるイチカと同一人物じゃないでしょうか……?」
「…………」
「イチカって言う名前、名前だけならまだしも、名字迄同じっていうのは偶然とは思えません。あと、タイミング。俺がコンビニから帰ってきた時から突然出てきたキャラと、倒れて意識が戻らないイチカさん。」
「…………だよね。実は僕もちょっと引っ掛かってた事があるんだよねぇ」
思い付くまま言ってみたけど……あれ? 意外と受け入れられてる??
「イチカのスキル、教えてもらったよね?」
そういえば……とバグった時に出ていたステータスの話しをした事を思い出す。
「確か、鑑定と逃げ足と現実逃避と……愛想笑いでしたっけ?」
「そう、その中の現実逃避ってどう思う?」
思わずポカンとしてしまう。どう思う? と言われても……
「ゲーム内でスキルとして現実逃避ってどんな効果をもたらす?」
「…………」
「そもそも、イチカの役割はなに? 居なくても物語は進むように出来てる所に突然出て来てストーリー変えちゃう意味は? イケメンの攻略と魔王討伐がゴールのこのゲームで、主人公に成り代わるでもなく、ただ紛れ込んだかのようなイチカのキャラの最終目的は?」
「……つまり?」
確かにイチカは何を目的としたキャラなのか……ハルさんの言いたい事が判るような判らないような……
「ウーン。僕も今一何を言ってるか判らなくなってきた。……簡潔にいうと、リアルなイチカさんが現実逃避のスキルを発動してゲームの世界に入ったんじゃなかろうかと、……そう、今、話してて自分でも言いたかった事が纏まった。」
なんか、とてもスッキリした顔をしてらっしゃるが、俺はちょっとまだおいてけぼりを喰らった気分。
わかった? と聞かれても首を傾げる事しか出来ない。
「……この世界の、コンビニの駐車場で君に会ったという現実世界から、ゲームの世界に逃避した。逃げ込んだだけで特に目的もない。なんなら逃げ込んだ自覚すらなく、自分の身に何が起こってるかも分からない状況でただただ流れに身を任せてる感じなのかも。……って説明でどう?? 解る?」
「……どういう訳かゲームの世界に精神だけ入っちゃったって事ですよね? 体はこちらに残ってる訳ですから……」
「そう。精神なのか魂なのかは分からないけど、俺らの作り出した世界に行ったんじゃないかと思う……」
「……どうやって??」
「それは分からないよ。それこそ、たまにTVの特番でやってる、世の中の不思議な世界系の話になっちゃうよね。」
まあ、そりゃそうか。分かれば苦労はしない……。
「どうにか確かめられないですかね……」
「イチカを操作は出来なかったんだっけ?」
「イチカが出てきてる時は自動で話が進む感じで、こちらからは殆ど干渉出来ませんでした。」
「キャラ同士で話は出来ないのかなぁー……出来るなら、マリアを通して質問すれば早いんだけど……。」
「マリアが協力するかは疑問ですけどね……」
「あー……でも、髪飾りの誤解は解けたっぽいから何とかなるんじゃない??」
「そうか。あっ! でも、イチカが何処に行ったか分かりません。シナリオ通りに進んでくれれば何とかなりそうですけど……」
謎のキャラがシナリオ通りに進むとは限らない。
「あーー! おーつかーれさーまでぇーす!!」
相変わらず、声のボリュームとテンションの制御装置がぶっ壊れている女上司のプロデューサーが休憩室に入ってきた。
「今日一日、2人でコソコソなにやってたんですぅ? 狭い会議室に引きこもって……。あ、もしかして新作の相談? それとも打ち上げの店探し? どっちにしろ誘って下さいよー……打ち上げならいい店知ってるんですよー!!」
お酒を一杯ひっかけてきたのだろうか……
ハルさんも苦笑いでプロデューサーを見ている。空気を察したのか、エヘヘと笑うと用意した飲み物を持ち、俺たちのテーブルに座る。
「で、真面目に何のお話してたんですか?」
俺とハルさんはお互い顔を見合わせて、プロデューサーも巻き込む為の説明を始めた。
読んで頂き、ありがとうございました。




