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26. S の思惑

S = セレネス目線です。

ウリーボ邸の執務室、オヤジ殿と私は先ほどから同じ会話を繰り返す。


「イチカはやはり魔人では無いのか? リベルはまだしも、あの冷静なフィルソンまで連れて出ていくとは相当な能力を隠し持っていたに違いない。」


「ですから! イチカは魔人に連れ去られた可能性の方が大きいと言っているじゃ無いですか!! 部屋の窓も割られていたし、抵抗したような痕跡も残っています。」


「魔人が仲間を連れ戻しに来て、其を阻止しようとリベルが闘ったあとかも知れんだろ?」


「それですとリベルとフィルソン迄居なくなるのはおかしいじゃないですか。」


「ウム。ならばやはりイチカの魅力で「イチカに魔力はありませんでしたよ。印が出ている2人に効く位なら何も持たない私などイチコロの筈です。」……」


「印が出ているからこそということもある。」


「バリー氏には影響が無かったようですが?」


居なくなった3人に追手を差し向けるであろうオヤジ殿の決断を少しでも長引かせる為に、茶番と分かっていてもとにかく引き延ばし、あいつらが少しでも遠くに逃げる為の時間を稼ぐ。


オヤジ殿が何度目かのため息をついた。


「はぁ。そろそろシナの森を抜けた位までは逃げおおせたかな。」


オヤジ殿の言葉に驚き、声を潜め話続ける顔をマジマジと見つめる。


「ククッ。あの娘、あんなに無防備で大丈夫かと心配になる。私とてあの子が魔人等とは思っていない。城に行けばどうなるかも分かっておる。が、我らは勇者を主とした帝国に仕えている手前、マリア嬢が敵と見なしたものをそのままにするわけにはいかん。」


黙って頷く。


「この屋敷にも城からの間者がおる、格好だけでも追手を差し向けないわけにいかんのでな……お前が喰って掛かってきたので少し利用させて貰った。」


「オヤジ殿……」


コンコンと扉を叩く音に振り向く。返事をすればマリア嬢が入ってきた。


勇者であるマリア嬢が来た手前、まだ言い争いをしているフリを続けた。そして、とうとう追手をという話になったとき、オヤジ殿が提案してきた事に飛び付いた。私自身が追う立場なら3人をどうとでも出来る。


しかし、横で聞いていたマリア嬢が予想外の事を言い出した。自分も一緒に行くと言うのである。すぐさま断ろうとすると、オヤジ殿がアッサリ承諾した。タヌキオヤジめ。考えてる事がさっぱり分からない。


当主が決定したのなら自分が反対出来るはずもなく、渋々了承する。明日、陛下への謁見の調整がついたからと、朝から城に行って勇者の証を受け取る儀式をするのだという。儀式が終わり次第旅に出るのでそれまでに支度をしておけと言い、マリア嬢を執務室から出した。


「オヤジ殿、ど……」


どういうつもりか確認しようとすると、ゴホンっと咳払いをされた。見れば目で何かを訴えている。視線を辿れば、ドアの方を見て顎をクイクイと動かしている。誰か居るようだ。


「私は戦闘向きではありません。マリア嬢を守れるかどうか……」


「その心配はいらん。彼女は勇者だ、お前より数段格闘センスはあるだろう。お前はあくまで3人を探しに行くだけ。彼女はそれに着いていくのだ。お前に何かあれば困るのは彼女だろう?」


このオヤジ、勇者を私の護衛代わりに使う気らしい。


考え方によっては最強の護衛で、3人に会わせないように誘導も出来る。改めて了承の意を伝えて部屋を出る。


さて、旅支度とは何をすれば良いのか……


◇◇◇◇



セレネス坊ちゃま、朝でございます。俺の執事が礼儀正しく起こしにくる。実家に居る時のいつも通りの朝である。


「坊ちゃま、本日よりマリア様と旅に出ると聞き及びました。僭越ながら、夕べ坊ちゃまが支度なされた荷物を拝見致しましたが、ご旅行ですか? と、言わんばかりのモノしか入っておりませんでしたので、全てこちらで厳選したものをご用意致しました。」


うん、本当にいつも通り。


「……そうか、ありがとう。」


少し慇懃無礼なきらいのある執事が用意してくれたものを着て、出立の準備をする。マリア嬢は? と聞けば、オヤジ殿とずいぶん前に城に向かったと聞き、急いで屋敷を出る。


屋敷の皆は怪我などに気を付けろと見送ってくれた。執事も少し寂しそうに行ってらっしゃいませ。と朝飯代わりのサンドイッチを渡してくれた。


馬を飛ばして王都に戻り城へ向かう。父の名をだし玉座の前迄来ると丁度マリア嬢が出てきた。


「セレネス様、お待たせしました。」


「いや、私も今来たところなので……もう終わったのですか?」


「はい。玄の剣と言われる武器を頂きました。」


目的は果たしたらしく、そろそろ3人を探しに行きたいという。が、彼らが逃げてからまだ半日しか経っていない。もう少し時間を稼ぎたい。


「すみませんが、一度私の装備をとりに宿に戻っても宜しいですか?」


「……分かりました。確かに防具も身に付けてらっしゃらないですものね。武器ももっていないようですし……」


宿でフィルソンのやつを借りよう。と二人で城下町を歩く。とマリアが綺麗に磨かれた盾を見つけて、防具屋に少し寄りたいと言い出した。時間が稼げるのは万々歳なので2人で色々試してみた。が、私には重くて鎧はつけられない。細剣はなんとかなるが、刀等だと振り回せないし、盾など両手じゃなければ持ち上がらない。


結局、マリア殿は全ての装備を一新し、私はマリア殿が付けていた軽くて丈夫な防具と短剣を持つことにした。

読んで頂き、ありがとうございました。

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