20. I の逃走
さて、また暇になってしまった……カチャッと扉を開けキョロキョロすれば、朝、馬車に並走していた兵士さんが扉の横に立っていた。
「えーっと、もしかして見張りをされてるんですか?」
「はい。旦那様の命令でイチカ様をお守り致します。」
「守る? ってことは何か危ない事があるんでしょうか? ……………………あ、逆か! 私が危険人物の可能性があるんだ!!」
「いや、あの……」
兵士さんを困らせてしまった。しどろもどろで申し訳ないことをした。そうだ! どうせここで立って居るのであれば少し話し相手になってもらおう。
「フフ、すみません。変なことを言いました。……ところで、お兄さんは天創人って見たことありますか?」
「は、はい。この街の防具屋の天創人を知っております。」
「結構、身近な所にいらっしゃるんですね。」
「そうですね。自分は防具屋しか会ったことはありませんが、他にも菓子屋や宝飾屋なんかにも居るそうです。」
「防具屋さんはやはり黒目に黒髪なのですか?」
「はい。あと、男で喋りません。見た目も特徴も完全に天創人のそれです。」
天創人のそれとは特徴の事か。
「黒目、黒髪、それに男性で喋れないのが天創人の特徴なのですか?」
「そうです。それに皆とても見目が良いそうです。オレ……自分の目からしても防具屋もかなりの色男だと思います。」
……ちょっと見てみたいかも。ではなく、昨日聞き逃した後半部分の特徴がわかった。
男で喋らないという特徴があるのなら私は当てはまらない。だから安心……いや、余計に要警戒ってことかことか。出来ればもう少し詳しく聞きたいので部屋へ誘うが、未婚の女性と2人きりはダメなんだそうで断られた。ならばこのまま廊下で! と思ったらリベルがこちらに向かって歩いてきた。
「イチカ! ちょっといい?」
疲れているのか心なしかぐったりしている。兵士さんにお礼を言い、リベルと部屋に入る。
「ねぇイチカ、今夜この部屋に一緒に泊まって良いかしら?」
お泊まり会だろうか。なんかちょっと楽しそうなので即OKした。良かったと笑うと準備をしてくるとまた部屋を出ていってしまった。
部屋がノックされる。と今度はグリンさんが訪ねてきた。
「イチカ、2日後に陛下に謁見する事になった。とりあえず、謁見に着るドレスは明日、ナイの店で見繕ってきてくれ。リベルに一緒に行くように行っておく。」
「ナイさん?」
「今日、君のドレスを作るように言っておいたのだが……」
昼間さんざんリクエストをして困らせてしまったあの人か……と納得する。
分かりました。と返事をすれば では、失礼したね。と出ていった。
身支度をとメイドさんがその後に来たが、今回は丁重に断り、1人でお風呂に入る。パジャマ用のワンピースを着てベッドに腰かけてそのまま大の字で横になる。マフッと良い感じに体が沈む。
また、部屋に誰かが訪ねてきた。
ハイと扉を開ければリベルが服を抱えて入ってきた。
「この部屋にはドレスしかないからね。動きやすい服をイチカの分も持ってきた。」
なんて気が利く良い子! ありがとう。 とお礼を言うと何故か申し訳なさそうな顔をする。なぜそんな顔をするのか理由を聞く前にリベルから色々話しかけられ有耶無耶になってしまった。
このお家のことや、ざっくりとした国の話、それにセレネスやフィルのちょっと内緒の話など色々と話していると、ふわぁと、欠伸がでた。そろそろ寝ようか。と二人で並んで蒲団にはいる。そしてまた他愛のない話をしていたらいつの間にか寝てしまった。
◇◇◇◇
「……カ、…………キテ! イチカ、起きて!」
耳許でリベルが呼ぶ。ん? どうした? と寝惚けて聞けば、起きて着替えろと言う。
「あれ?も………………」
「シッ! 急いで着替えて。」
………何故だ。と思ったら何故か外がザワザワしている。
「説明は後でする。とりあえずこの屋敷から出ないと。その格好じゃ連れていけないから急いで着替えて。」
わかったと呟き急いで着替える。街の男性が着ていた様な服だが、ズボンが脛の辺りまでしかない。もしかしなくても男の子が着る服なんだろう。まあ、こちらに来てから着た服の中では一番動きやすい。
着替える間、リベルは扉から顔を出して見張りの人と何か話しているようだ。扉を閉めると部屋の中を荒し始めた。花瓶なども布シーツなどで巻き音が出ないように割ると広げて争ったように偽装した。
「着替えた? じゃあ行くよ。」
リベルはそういうと廊下側の扉でもバルコニーに繋がる大きな窓ではなく、明かりとりの小さめの窓に向かうとリベルが私を抱き上げた。本当にヒョイっと軽々持ち上げるので、呆気にとられリベルを見上げる。
「絶対声を出すんじゃないよ!」
そういうとバルコニーの窓を魔法で派手に割り、そのまま3階の窓から飛び降りた。叫ばなかった自分を誉めてあげたい。
結果的には無事に降りられたものの、ヒモなしバンジーは寿命を確実に縮めると思う。
そのままリベルに着いて行くと物置小屋の様な建物の横に出た。すぐ後ろは敷地の境界を示す塀がある。よく見ると小屋の横に普通の扉の半分くらいの大きさの木戸があった。長いこと遣われて居ないのか、蝶番が外れ扉が斜めになっている。
リベルはそれを開けると私に潜って出るようにいう。しゃがんでは出られないので仕方なく這い出て後ろを振り返る。
リベルも後ろを着いて来ている。と、
「首尾は?」
前方から声が聞こえビクッとした。すぐ目の前にフィルがいた。
「予想外の事態。魔人が襲撃してきた。」
「「えっ?」」
聞いてない。フィルも一緒になって驚いている。
だから屋敷内がざわついていてバタバタと逃げてきたのか……。他の人は大丈夫だろうか。などと思っていたらリベルから驚きの一言が聞こえた。
「丁度いいから利用させてもらった。後はセスが上手いことやるでしょ。」
先程フィルに驚いて首がつって痛いので、つい振り返ってしまうような発言は遠慮願いたい。と思いつつリベルを見上げた。
~解説メモ~
天創人について
天創人→黒目・黒髪・無口・イケメン男子が特徴。
有益人→ヒルダ神が蒔いた種から生まれた天創人。『鉄人料理』
『国宝彫刻』『鍛治の匠』等々の上級スキルをもつ。子を成せば更に進化したスキルとして受け継がれる。国から有益印と言う魔術印を体の目立つ場所に刻印される。
魔人→ヨルダ神が生まれた魔物を守る為に送り込んだ天創人。生まれた場所の一番近くに居る魔物を守護し、何よりも魔物を魔王に進化させる事を優先する。が、守護している魔物よりより強い魔物を見つけるとそちらに鞍替えする。
読んで頂き、ありがとうございました。




