166. F への悪い知らせ
「ちょ、ちょ、セス! セスー!! あの、ホルス! セス持って!! 俺じゃ持ち上がらない!!」
タイラ様が大事に抱えていた白竜、(『竜王』黒竜の番で竜の女王)が 無事に孵って竜王の元に飛んで行く。
馬車の後ろで何があったのかは分からないが、セスは無事だろうか?? 俺は幌内から出てきたマリアと並び、竜王に剣を向けたまま動けずにいた。
マリアも勇者の剣を構えて居るが、小刻みにカタカタと震えて居るのがわかる。竜王の殺気に気圧されて居るのだ。
「おー!! デッケェ!!」
タイラ様の呑気な声が後ろから近づいて来た。そして、そのまま我々の前に出ようとする。慌てて、
「タイラ様!! 危ないので下がって!!」
片手でタイラ様の行く手を阻んでみるも、
「待て待て、とりあえず剣を下ろそうよ。こっちから向かっていってもありゃ勝てないだろ……話をしなきゃなんないんだから、敵意は無いこと示さないと。な?」
そう言われ、みんな構えていた武器を下ろす。
「おぉーい! 聴こえる?? 聞こえたら手挙げてぇーー!」
タイラ様が竜王に向かって叫ぶ。と、しばらくして片手が上がりすぐに下ろされた。
おぉ! 聴こえるんだ!! とタイラ様。竜族は耳が良い。分かっててやってるのでは無いのか?? 話があるからそっちに行くぞ、とまた大声で言い、山のような竜王に近づいて行く。
すると不思議なことに、近づけば近づく程竜王は小さくなって居るように感じた。
「そのまま人型になれるかぁー??」
御者台の上でタイラ様が竜王に叫ぶ。叫ばなくても聴こえているはずだと教えた方が良いのだろうか……? そして、竜王はやはり小さくなっていたのか……
徐々に小さくなる竜王。その向こうに人だかりが見える。んん? よくよく目を凝らすと怪我人を移動させる騎士隊の制服を着た人々。その人たちを守るように2つの人影。
「あっ! ハスキスさん! ドラドさん!! 怪我してる!!」
イチカが幌から顔を出して心配そうに言う。我々が来るまで竜王と戦っていたのか……
「ホントだ!! マリア、イチカちゃんも!! 行ってけがしてる人を治してあげて!!」
タイラ様が言う。そして、タイラ様はそのまま馬車から降りた。1人にするわけにも行かずどうしようかと思ったらホルス様が一緒に降りてくれた。俺はマリアとイチカを騎士隊の元に連れていくために、脇に逸れて馬車を走らせる。
タイラ様の大声での話し声が聴こえる。と、ビュッとまた突風が吹く。振り替えれば、人型となった竜王がタイラ様の元へ移動していた。
「ハスキスさん! ドラドさん!!」
到着するや否や、馬車から飛び降りて2人の元へ向かうイチカ。怪我を心配してるだけだとわかるも、名前を呼びながら駆け寄る姿を見るのは楽しくない。
「「イチカ!!」」
ドラド様とハスキスと呼ばれた男はイチカに気付くと相好を崩した。ドラド様は人目も憚らずイチカを抱き締めようと両手を広げた。慌てて馬車を降りる。が、イチカを抱き締める寸前でノリアスがイチカを引き留め、ドラド様は空振りに終わった。
「イチカ、怪我の手当て僕もてつだう!!」
そう言うと、まず重傷者からと森の奥に張ったテントにイチカ、マリア、ノリアスは向かった。
ドラド様と目が合う。ドラド様は驚いたように目を見開き、
「フィルソン? 何故ここに? 人を探していると言ってなかったか??」
「はい。見つかりました。先程のイチカが私の探していた女性です。」
「えっ……………………?」
ドラド様が驚いた顔をする。正直俺も驚いた。まさか、ドラド様の思い人がイチカだとは思わなかった……
「そ、そうか……そうか………………。と、ところで、あのドラゴンと話しているのは誰だ? って、1人はホルスか?? 何故あいつがここに??」
と、ダーーーーっン! と人族が使う武器の発砲音が鳴り響く。キョロキョロと辺りを見回せば、人型の竜王が顔の高さまで片手を挙げてまた殺気を放ちながら森を見ている。
視線の先には大勢の魔物達。驚いて気配を探れば我々が通って来た道(竜王が吹っ飛ばした道)以外、魔物に囲まれているのが分かる。
「何のつもりだ?」
人型の竜王の怒りに満ちた、声が聞こえる。と、仮面を着け、背中に猿を背負った男が姿を現した。その男の腕には人が抱えられている。
「何のつもりも、もう少し暴れててくれれば良いものを……その白いチビ竜辺りならこの銃でも仕留められると思ったんだがなァ……」
明らかに挑発している。相手が竜王と分かって居るのだろうか……?
「ほう…………」
ピリピリとした空気が流れ、自然と仮面の男に剣を構える。
「お前達!! ここにお前達のボスは居る! 存分に暴れろ!!」
男は片手抱きにしている人を前に掲げる。
「!? タイラ様??」
先程まで竜王と話していたタイラ様が、何故か男に抱えられている。ぐにゃぐにゃとしているところを見ると、気を失って居るのかも知れない。
竜王も、神と知っているのか、男のボスと言う言葉に戸惑って居る。
「ドゥクラン! タイラ様がボスとはどう言うことだ!?」
「……フンッ、あのダスキートは身代わりもろくに勤められないとは……。この男、タイラと言うのか? 魔王と言うくらいだからもっと凶悪な顔をしているのかと思ったが、見た目は普通だな……まあ、キーツ(チンパンジー)の精神攻撃に屈しなかった位だから、やはり精神力は凄まじいのだろうがな!」
?? 魔王?? 精神攻撃?? と、後ろから声がする。
「あー! シロオオカミの時の!! 仮面の男とムカつく猿!! なんでタイラ抱いてんの?」
「タイラ様! お助け致します!!」
ノリアスの言葉を聞いて思い出した。タイラ様が始めて魔法を使った時に現れた仮面の男と腹立たしい猿!! あれはドゥクランだったのか……精神攻撃とはやはりあの時、猿は我々を『挑発』していたのか……
「お前達!! す……本土……………………帝国……マオ…………ゲキ……」
「バリー様! もう一度!!」
突然、馬車の方から大声が聞こえる。声からしてダンのようだ。が、途切れ途切れで何を言ったのか分からない。ファジールが聞き返しているが、バリーの名を呼び続けているので返事は無いようだ。
「チッ、モズの野郎も使えない……バリーの奴を逃しやがったな!!」
「バリーさんに何をしたんですか!!」
ドゥクランの呟きが聞こえたのか、マリアが問い詰める。
「……国に許可無く侵入してきたので、捕まえただけだが?」
ドゥクランが事も無げに言う。と、後方から騎士の1人が近づいて来た。
「ドラド様! 本部から連絡が……」
「なんだ?」
「帝国内に、数体の魔王レベルの魔物が出現との事です!」
「なんだと!?」
ただでさえ混乱状態の現場が、さらに混乱したのは言うまでもない。
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