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16. I の髪飾り

「ダゴン村のマリアです。」


ビシイッとカーテシーを決める。素晴らしい体幹の持ち主である。


「一華 影野です。お見知りおきを。」


こちらも負けじとビシッと心の中で決めてみた。実際は斜めに傾いてる。と、マリアがじろじろと無遠慮に私を見る。


「……まめ。」


ん? まめ? 豆って言った?あ、豆菓子?あったかなぁー。とケーキタワーの方を見る。と、いきなりガバッとマリアが襲いかかってきて、ブチブチと髪の毛が抜ける感覚があった。


いたっ! っと痛みを感じたところを押さえながら涙目でマリアをみる。


グリンは慌てて立ち上がりやめなさい!とマリアに怒鳴る。セレネスはマリアを羽交い締めにし、フィルソンは私とマリアの間に立つ。リベルは私をぎゅうぎゅうと抱き締め頭を撫でている。


「何をするんだ! 君が会いたいと言うから場をもうけたと言うのに!!」


「悪魔め! 魔人じゃないですか!! 黒い髪に黒い目。ローナを連れ去った奴と一緒よ! ローナを返しなさいよ!! あの子に何かしたら只じゃおかないから!!」


相当なご立腹である。ただ、言いがかりも甚だしい。ローナさんが何者か知らないが一昨日この世界に紛れ込んだ私に何が出来よう?


そしてマリアさんが私に会いたがったとはどういうことだ。面識もないし、名前を知っていても私の姿を知っていた訳でもなさそうなので人違いかもしれない。


連れていけ! とグリンさんが言うとズルズル引き摺られながらマリアさんは部屋から追い出された。引き摺られながらも魔人だ悪魔だと私を罵り、ローナを返せと言い続けていた。


「済まないね。まさかこんなことになるとは……彼女とは面識はあるのかい?」


「いえ、初めてお会いしました。そもそも、この世界に知り合いは居ませんから。」


「あぁ、そうだったね。失礼した……今日は疲れただろう?部屋は用意するからここに止まって行くといい。」


「ありがとうございます。」


「それじゃあ、ゆっくり休んでいってくれ。先に失礼するよ。」


グリンさんは応接室から出ていく。大丈夫かい?とリベルさんがまた頭を撫でるのを再開した。セレネスさんもフィルソンさんもこちらを伺っている。 髪の毛は数本減りましたが、他は大丈夫です。 と笑顔で言えば少し空気が緩む。


お部屋の支度が出来ました。とオジ様執事が声をかけてくれた。行きましょう。とリベルさんが一緒に部屋まで着いてきてくれるようだ。


フィルソンさんに朝のサンドイッチの礼を言い、手を振っているセレネスさんに振り返して部屋を後にした。


案内された客間も広かった。何の為にこんなに広い部屋にしたのだろう。ベッドと風呂場とトイレが付いてるだけで客室としては十分だろうに……などと思ってしまうのは貧乏性なのだろうか。


執事さんがグリンさんは仕事があるので、夕食はリベルさん達と食べるようにと言付けて出掛けたことを告げ出ていった。


「イチカ、本当に大丈夫かい? あのマリアって子も突然襲いかかるなんて。咄嗟の事で対応出来なかった。ごめんね。」


「いや、リベルさんが謝ることでは……」


無いので、謝らないでと伝えたかった。の、だが……


「そう、それ!! リベルさんじゃなくてリベルでいい。フィルソンもセレネスもイチカより年下だし!あの二人にも敬称はいらないよ。」


リベルはそう言うが、二人には一応確認を取ろう。と心に決め、先程気になったフィルソンさんの呟きを確認する。


「年下ってセレネスさんと……」


「セレネス!!」


「……セレネスとフィルソンは年下って言ってたけど、フィルソンが一番下?さっき6歳差って聞こえた。」


「え? あ、そうか。言ってなかった。私達は3つ子だから年はみんな19だよ。」


衝撃の事実である。目の前のリベルが3人兄弟の一番上ってのは自己紹介で聞いたのだが、皆私とそう変わらない歳だと思ってた。だって、三人とも凄くしっかりしてるし、リベルに関しては大人の色気も十分って感じである。さすがに20前だとはおもわなかった。ぶっちゃけリベルだけは確実に年上だと思ってたし。


コンコンと扉を叩く音がする。ハイッと返事をすればメイドさんがリベルを呼びに来たようだ。暇潰しに庭の散歩でもするかと聞かれたが、もっさりドレスでは歩くことも儘ならないので着替えたいと言えば、わかったと朝の身支度を手伝ってくれた3人のメイドさんを寄越し、入れ違いに出ていった。


もっさりドレスとギリギリ締め上げたコルセットを外し、ツルツルと肌触りが良いワンピースに着替える。メイドさんにお礼を言い、庭に出ていいか確認すると案内してくれた。



◇◇◇◇



迂闊に大きなお屋敷の庭など見たいなどと言うものじゃないな。と後悔と反省しかない散歩を終え、部屋に戻ると夕食の用意が出来たと迎えが来た。


先程のティータイムで食べ過ぎ飲み過ぎだった私は、全くもってお腹は減っていないが案内されるまま食堂に向かう。食堂には、王族や貴族と言えば! 的な長いテーブルがあった。


お待たせしました。とペコリと頭を下げ引かれたイスに座ると待ってましたとばかりにお皿が幾つか出てきた。ここでもマナーの壁が立ちふさがる。セレネスが では。 と祈るポーズをとるので真似をする。確か、カトラリーは外側からだったか?チロチロと正面のフィルソンを盗み見て真似をする。必死過ぎて味はわからない。


宿屋では豪快に食べていたが、ここでは貴族の御子息ご令嬢らしくカチャカチャと言う音も殆どさせずに料理を口へ運んでいる。


そういえば、何故、宰相という高い地位の子供が宿屋などをやっているのか。社会勉強なのかな?と考えていたらフィルソンが口を開く。


「先程のケガはどうだ?」


「ご心配かけました。大丈夫です。」


「……敬語じゃ無くていい。それに周りにはフィルと呼ばれているからそう呼んで欲しい。」


最後の方は聞き取れなかったが、どうやらフィルと呼ぶ許可を得たらしい。一緒に食事をしてた2人は何故か驚いた顔をしてこちらを見ている。剣を突き付けられた時からは考えられない変化に嬉しくなり、


「うん。フィル。そう呼ぶね!」


思わず笑顔で答える。フィルはギクリとしたように固まり、フイっと目を逸らすと食事を再開した。


化粧崩れが酷かった最初の日の朝と同じ反応。もしや、口の周りにソースでも着いてまた酷い顔になっているのか!? とナプキンでごしごし口の周りをぬぐい、ことさらソースが付いた料理に気を使いつつ、味わえない食事をつづけた。


読んで頂き、ありがとうございました。

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