100. S 、完成
本編の100話目
前方を注意しつつ、風魔法で車輪の水平を保ち、木の上を器用に移動するリスを追う。これから戦闘になる可能性がある以上、馬車の後ろで寝ている2人を起こすわけにはいかない。
と、2メートルはあろうかという、茶色い大きな熊が脇からガサガサと木々を揺らして飛び出してきた。そして低いうなり声を上げて此方を威嚇している。
馬が驚いて嘶き前足を上げ、今にも逃げ出しそうだ。咄嗟に、手綱を引き立て直す。
「ま、待て! 我々は敵じゃない!! 君に危害を加えるつもりはない!!」
通じるわけもないのに、必死に話しかける。とにかく馬が万全でなければ逃げ切れない!! と、なぜかスッと殺気とでもいうのか、ピリピリとした緊張感が一瞬揺るんだ気がした。
「こ、言葉が解るのか? 私は、北の国の公爵の息子でセレネスと言う。この馬車には勇者と別の国の公爵の息子も乗っている。ここには、奴隷商のアジトがあるかも知れないという報告を受け調査にきた。君が我々に害を成さない限り、そちらに危害を加えることはないと約束しよう。」
一気に言ってみる。前足を上げ、立ち上がった状態の熊が、コテンと首をかしげ、
「ホントに?」
と、体型の割には幼い子のような声と行動をとる。
「あ、あぁ、約束しよう。」
と、熊が熊耳を付けた10歳位の子供になった。熊の獣人だ。そして、その子供の後ろに、彼と同じかそれより幼い子供達が何人か姿を見せる。
「先程も言ったが、この近くに洞窟があって、そこが奴隷商のアジトかも知れないと連絡を受けて調べに来た。君達は何か知っているかい??」
「多分……僕たちが居た洞窟だと思う。」
「君達が居た?」
「うん。……」
彼から聞いた話では、この森の近くに熊の獣人の集落があったらしい。そこに、魔物と魔人を連れた人族が来て、大人達は子供を逃がしてから戦ったそうだ。
暫くして集落に戻ると、年老いた熊が一頭、息も絶え絶え集落の真ん中に居るだけだった。その熊によれば、獣化して戦ったが、魔物達には敵わず、次々とやられて吸収されてしまった。子供達を探しに行こうとするので、年老いた熊が命懸けで転送魔法を使い、奴らをどこかに転移させたそうだ。
その熊もすぐに息絶えてしまい、子供達だけで洞窟に隠れながら今日まで過ごして来たらしい。
途中から目を覚まし、話を一緒に聞いていた2人は、泣きながら子供達の頭を撫でる。
さて、どうするか……この子達をそのままにはしておけない。悩んでいると、眉間にシワが寄って怖い顔をしていたらしく、子供達に怯えられてしまった。
「悩み事ですか?」
マリア嬢に聞かれ、打開策を求めて意見を聞く。
「秘薬を作るために、小瓶は絶対に必要です。ディアン様の様態を聞く限り、あまり時間もありません。が、魔物の出没する森をこの子達を連れて歩く訳にもいきませんし、近くの街まで連れていくには時間がかかってしまいます。かといって、このままここに居させるわけにもいきません……」
「僕、残ろうか??」
「ファジールも未成年! いくら印持ちで強くても、ここに残していくわけにはいかない。」
チェッっと舌打ちをして、また小さな子達と遊び始める。
「……あの……」
遠慮がちに先ほどの男の子、ツキノが話し始める。
「秘薬って虹のなんだかって薬? 『雨色の小瓶』って奴に入れないとすぐに使えなくなるっていう……」
「そうだが、知っているのか??」
「父ちゃんと街へ行った時に、最近出るようになった魔物について聞いた。その魔物の毒にはその虹のナンチャラが効くって。で、それに使う瓶の原料が俺達が居た洞窟で採れるんだ。だから父ちゃんが、それを瓶を作ってる街に売りにいこうって言ってた……」
「原料……それがあれば誰でも瓶は作れるのかい??」
「ガラス職人が居れば出来ると思うよ。他の薬にも使えるからお弟子さん達が大量に作る物だし……」
ならば、原料だけ採ってシープスの街で手配した方が早いかも知れない。
「原料は全て洞窟で揃うのか??」
「洞窟の奥まで行けば揃うよ。たまに魔物が出たりするから、僕たちだけでは行けないけど……」
「我々が一緒に行く。案内してくれるか?」
「わかった。」
幼い子の達をマリア嬢に預け、私とファジール、それにツキノと戦闘経験のある、ヒグと言う子に案内を頼み、4人で洞窟の奥に向かう。
入ってすぐにあるピンク色の壁から採れる[桜雨の石]を採取すると、そのまま奥に進み、洞窟の穴から日の当たる場所に咲いた[白雨の花びら]、壁のヒビからガスが吹き出し、常に燃えている場所にある[秋霖の灰]、洞窟の奥の方にある、周りが氷だらけの場所にある[氷雨の砂]、と瓶を作るための原料を全て手に入れた。
戻る途中、魔素溜まりがあったらしく、生まれたての魔物にあったが、ツキノが踏み潰して事なきを得た。話を聞けば、集落の戦士として訓練を受けている最中だったそうだ。そのまま、これからの事を話す。
「我々は、ここの領主代理に頼まれてここまで来た。欲しいものは全部揃ったのでこのまま領主の邸に向かうが、君達もいっしょに行かないかい? 困っている領民を無下にするような方では無いから、子供達だけでここにいるより良いと思うんだが……」
ツキノとヒグでゴニョゴニョと話していたが、よろしくお願いします。と一緒に邸のある街へ戻ることになった。子供は全部で14人。上は10歳のツキノとヒグ、下は1才と旅をするには少々大変そうではあるが、皆、自分より下の子の世話は慣れたもので我々は幌内のスペースを明け渡すだけで済んだ。
その後は、街まで無事に戻り、秘薬は無事に精製され、子供達はツキノ等大きな男の子達は、私兵団の見習いに。その他の子は教会に併設された孤児院に皆一緒に入ることが出来たと聞いた。
そして今日、薬で目を覚ましたディアン様がお礼を言いたいからと、お屋敷にお邪魔させて頂いた。が、今、私の目の前に居るのは同姓同名の別人ではないのか?? 朧気な記憶にあるディアン様とは掛け離れた人物に、ただただ圧倒された。
読んで頂き、ありがとうございました。




