10. T の驚き
結局、寝られずに昼飯を食べて個人に与えられたブースに向かう。清掃の人が頑張ってくれたのか、昨日の栄養ドリンクは綺麗に片されていた。
デバッガーからの報告を元に修正を加え、充電中だったゲームを再開する。
今度はちゃんと女キャラが目覚めるところから話は再開されるようだ。キャラはRPGらしく部屋を隅々までみて回ると廊下にでた。
ここで一旦コントローラーを握り色々と試す。まず、メニューを開く。ゲームの画面が停止し普通にメニューのコマンドが表示された。 保存する は相変わらず選択出来ないが、それ以外は普通に使えるようだ。
アイテムを開き、薬草を使ってみる。薬草の数は減っているのに何事も起こらない。確認して気づいた。薬草を使う を選び、使うキャラを選択するのだが、選択支が主人公の初期設定の名前のマリアだけしかない。この女キャラのコマンドとは別のようである。他にも試したが、この女キャラに干渉出来ないみたいだ。
RPGをやったことのある人間は分かるだろうが、RPGでは王様が居るお城であろうが、他人の家の家であろうが無断で侵入し、タンスや釜戸、風呂や寝室まで容赦なく開けるし壊す。そして、中に入っているであろう服や薬草、それにお金も持っていけるものは全て持ってきてしまう。勇者である前に押し込み強盗だと思うのだが、それはゲームだからとなぜか誰も突っ込まない。
ゆえに、プレイヤーは扉があれば全て開くし、部屋の中にあるものは満遍なく触れるように歩き回るのがセオリー。
しかし、この女キャラは宿屋の他の客室の扉も、知っていれば壊すであろう廊下に飾られた花瓶なども全てスルーしてそのまま階段を降りていった。
キャラ同士の会話がテロップに流れる。挨拶を交わし御飯を食べるようだ。
次々に進んでいくテロップを読んでいくと公式キャラのリベルが女キャラが人族かどうか疑っていた。
このゲームの世界は人族の他に魔人、獣人族、虫人族、魚人族、それと希に天より降り立つ特殊な効果を持った天創人などが居る世界。
設定上、魔王、魔人、魔物は勇者たる主人公の敵役を与えられて人族や他の生き物には忌み嫌われている。そして、魔人に関しては天創人に紛れて同じような種から生まれる。と言う設定になっている。
主人公のサポートキャラのリベルが女キャラに質問する。その間に攻略対象の1人であるフィルソンが《真実の鏡》と《魔覇刀》を持って来たようだ。
女キャラはそんな事は気にならないらしくつらつらと話続け、自己紹介をした。
《ワタシハ、ニホンジンノ カゲノ イチカ トモウシマス。》
自己紹介をしたイチカというキャラにリベルが《真実の鏡》を向ける。ひいっ!!とイチカがおののくとフィルソンが《魔覇刀》をイチカに向けた。魔人のキャラなのだろうか。
コマンドが出現する。空白だったキャラ名の部分にイチカの表記がプラスされている。選択支は 逃げる・戦う・落とす・スキル・アイテム の5つ。
また出た。トイレに続き、見慣れないコマンドの落とす。そしてまた勝手にコマンドが選択される。 落とす だった。
テロップを読めば何の事はない、イチカが化粧を落とす選択をしただけらしい。
鏡も反応せず、人族と確認できたのかサポートキャラの本領発揮とばかりにリベルが甲斐甲斐しくイチカの世話をやきはじめる。
何やかんやと物語は進み、イチカとリベルは宿を出て街に出るらしい。ここはセオリー通りに街にある店に一件一件寄って話をしている。ただ、どうも会話の内容からすると会話をしているのは店員とリベルのようだ。目的地に着くと、ここに居るはずのないキャラが出てきた。三つ子の最後の1人、セレネスである。
セレネスと合流したイチカ達は用は済んだとばかりに来た道をまた戻っていく。
宿屋の一階にあるレストランでお客との固定会話のテロップが流れる。営業しているらしい。
それが終わると、イチカ、リベル、フィルソン、セレネスで食事をとるようだ。テーブルの上には色とりどりのなにかが入った皿か並べられているように見える。ピピピピと電子音とともにテロップが流れる。
会話の内容からゲームの世界観とザックリと内容に触れる話をしているようだ。イチカが驚いている。自分のキャラが天創人の特徴を有しているかららしい。
最終的に三つ子の親に会って話をする事になったらしく、イチカは最初に使っていた部屋に戻った。
◇◇◇◇
ブースのしきりをコンコンとノックする音が聞こえて振り返る。
先程のテンションMAXだった女上司が差し入れであろうコーヒーを見せながらブースから出るように促す。一時中断をして上司とともに休憩スペースで一息つく。窓の外を見れば綺麗な夕焼けだ。
「どう? 順調?」
「まあまあですかね。細かい修正が幾つか上がってきてます。大きいのは今のところ報告がありません。」
「そう。良かった。それとこれ。」
書いてね。と渡されたのは有給届。半日分の休みを取った書類の記入を催促されハイハイと必要箇所に記入する。
「そういえば、朝の王子御一行は夕べの騒動の家族なんでしょ? お礼に来たって言ってたけど、倒れた女の子は良くなったの?」
「色々検査して、異常は無いのに目が覚めないそうですよ。」
「ふーん。なんでだろうね。 それで……王子の事はなんか聞いた?」
「そんなワクワクして聞いたところでこれ以上接点なんて無いでしょうに。……倒れた子のお兄さんだそうですよ。カズヤ? さんだったかな……。俺と同じ歳だって聞いて驚きました。娘さんがイチカって名前で長男と長女だったから二人ともに一の字を……いれ……た。」
ご馳走さまっ!! と席を立つと急いで自分のブースに戻る。王子御一行が置いていったお菓子は社員皆で美味しく頂いた。それとは別に…… 引き出しを漁り、さっき貰ったばかりの名刺を探す。
影野 祐一 そう書かれていた。
ゲームを再開する。そして、すぐさまメニュー画面を開く。確認するのは履歴。流れてしまうテロップの表示を遡って確認出来る機能。一定の所までしか遡ることは出来ないが、まだ残ってる
筈だ。
ピッピッピと電子音を聞きながら会話を逆に読んでいく。あった。女キャラが自己紹介をした一文。
《ワタシハ、ニホンジンノ カゲノ イチカ トモウシマス。》
「……マジかよ。」
呟かずにはいられなかった。
天創人等のゲームの内容に関する事は、後々詳しく出てきます。今はザックリと詠んで下さい。
読んで頂き、ありがとうございました。




