【帰らずの森】の話
とあるところに、それはそれは怖い魔女が住んでいました。
魔女は暗い森の奥にひっそりと家を建て、道に迷った旅人を見つけては、親切を装っては住処に引き摺り込んでいたそうな。
引きずり込まれたら最後、出てこられなくなってしまう。
それからというもの、魔女の住む森は【帰らずの森】と呼ばれ、人の寄り付かない場所になりました。
「いいかい、マルコ。絶対に【帰らずの森】に近づいてはいけないよ。魔女に捕まって、食べられてしまうからね」
おばあちゃんが、口を酸っぱくしてそんなことを言っていた。
僕は森に行ってみたかったけど、近付こうとすると必ずおばあちゃんが飛んできて、とても叱られた。
でもそのあとおばあちゃんは必ず「ごめんね」と謝って、クッキーを焼いてくれた。
そのクッキーはすごく美味しくて、僕はそのあと何回も森に向かう真似をしては叱られて、クッキーをかじっていた。
僕の好物は、おばあちゃんのクッキーになっていた。
今日も僕は森に向かおうと家の周りを徘徊していた。
でも、いつもはいるはずのおばあちゃんの姿が見えない。
「あれ? 出かけてるのかなぁ...ちぇー」
クッキーを食べ損ねた気分で、一気にやる気がなくなる。
しかし、ふと思いついた。
「あれ、じゃあもしかして、森に行ける?」
いつのまにか目的がクッキーになっていたが、初めは森に行こうとしていたのだ。
これは...チャンスだ!
「よーっし、行こう!」
ぼくは、意気揚々と森に足を踏み入れた。