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昭和の思い出話

蟹の粕汁

作者: 銘尾 友朗

挿絵(By みてみん)



 あれはまだ私が女子高生だった頃のことです。


 私には中学生時代に仲の好かった友人が4人程いて、その内の1人、Aちゃんは隣の隣の市の、全寮制の高校へ進学していました。もちろん夏休みや冬休み、春休みには帰ってきますが、お互い部活などで忙しく、なかなか会う機会はありませんでした。


 高2の冬休みだったと思います。その年の冬休みは珍しく「久しぶりに集まろう」となって、昼間はデパートの軽食コーナーで話しこみました。(今みたいなド○ールやスター○ックスのようなお手軽なカフェが無い時代で、本格的な喫茶店はまだ敷居が高く感じました。ファーストフード店はあったけど、ちょっと遠かったのでした)


 そしてその流れでAちゃんのお母さんが、「たまには、夜ご飯を食べにおいで」と言って下さりお邪魔することになりました。


 ……ところが、ウチの父親は過保護で過干渉。当時父の職場が家から近く、私は高校まで電車通学でした。部活を終え、夜6時過ぎに帰宅すると、玄関で父が仁王立ちしていることがよくありました。「お前はこんな時間まで何をやっていたんだっ!!」と、ご近所に聞こえるような怒号を浴びせられたものです。


 だから、友達の家で夜ご飯をご馳走になることも、友達の家に泊まることもしたことがありませんでした。


 なので親の機嫌を取りながらお願いし、近所のBちゃん・Cちゃんと、Aちゃんのお家に久しぶりにお邪魔させて頂きました。


 その日のメニューで印象に残っているもの。それがタイトルにした「蟹の粕汁」です。それまで「粕汁」というものを食べたことはありませんでした。もともと甘酒も好きではありません。正月のお屠蘇(とそ)は問題外です。(今は晩酌してますが、その頃は酒と名の付くものは全部苦手でした!(笑))


 久々の友人の家。暖かな部屋。初めて食べる友人のお母さんの手料理。初めて、友人と一緒に夜ご飯を食べるということ。


 私はかなり舞い上がってのぼせていました。ふわふわと、夢心地だったように記憶しています。


 その記憶が蟹の粕汁に直結しているようで、それ以外にどんな手料理が並んでいたのかは全く思い出せません。


 粕汁、美味しかった。本当ーーに美味かった。蟹の味も凝縮されて、濃厚で、優しくて温かかったのです。


 夜8時頃おいとまして、3人でダベりながら帰りました。Cちゃんと別れ、Bちゃんとバイバイし、私の家が最後です。


 玄関開けたら、はい、いましたよ、父親が。


「こら〰〰っ! お前はこんな時間まで、どこをほっつき歩いて来やがった〰〰っ!!」


 つい先ほどの幸せな気分は、木っ端微塵に消え去りました。


「どこって、だからAちゃんちに……」


「何がAちゃんだ、ふざけやがって、男と遊び歩いていたんだろうがっ」


 まあ、言いがかりです(しかし、今思い出してもクソ親父だな)。こんなもんです、昭和のオヤジっていうのは。


 後から母に聞いたところ、私がいない間にたまたま中学時代のクラスメートだった男子から電話があったそうなのです。


 あの時代は携帯電話なんかありませんから、当然ラインやツイッターもありません。彼女が欲しいな、と思っても、同じ学校やバイト先などで恋のライバルと競い合ったり、高校の友人と中学の卒業アルバムを見せあって、気になった子との間を取り持って貰ったり、ということになるようでした。


 で、その電話がたまたまのタイミングで、この日かかって来てしまったのでした。(それも殆ど話したことが無い男子だった……(遠い目))


「そんなに疑うなら、Aちゃんちでも、Bちゃんちでも、Cちゃんちでも、電話して聞けばいいじゃない!!」


 私は父が恐くて、この日まで言い返したことがありませんでした。だけど友達のことも悪く言っていたので、初めて怒鳴り返しました。自分への濡れ衣も腹が立ったけど、友達と、友達のお母さんの気持ちを踏みにじられたのが悔しかったのでした。


 その後どう話が治まったのか覚えていませんが、悔しくて、声を殺して泣きながら寝たのは覚えています。



 あれからウン十年。子供が中学生・高校生くらいから連絡無く帰宅が遅くなり、親の気持ちも分かるようになったけど、頭ごなしに怒鳴り付けることはしません。諭すように話すことを心がけています。


 寒い冬の夜は、あの日の粕汁を思い出します。真似して作ってみるけど、あの味にはなりません。


 彼女の親御さんが京都出身なので、そもそもの出汁(だし)の分量が違うのか、仕上げに入れる味噌の種類が違うのか、セール品のわたり蟹を使ってるのが悪いのか。三男が嫌がるから酒粕を少なめにしか入れないせいか、はてまた私が生姜好きで、(くさ)み消しについつい生姜を入れ過ぎてしまうせいか。



 今では笑い話となった思い出と共に、温かくもほろ苦い粕汁を、この冬もゆったりと味わっております。


 (女子高3年間演劇部で、男orオス役ばかりの私が異性にモテるなんぞ、親の幻想だぁーーーーっ!! という話でもございました)




          おしまい




イラストは秋の桜子様より頂きました~♪

美味しそう&温かそうですよね。

秋の様、ありがとうございました。m(_ _)m♪♪

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― 新着の感想 ―
[良い点] お友達の家でのあったかい思い出と厳しかったお父さまとの思い出、どちらも印象的で、粕汁というタイトルでまとめられて、昔の懐かしさを感じさせてくれました。 [一言] 実は、粕汁って食べたことな…
[良い点] 昭和のオヤジ! 昔は結構過保護というか怒鳴り散らすオヤジって多かったですよね。ちょっと世代はズレるかもしれませんが、ドラマなどではしょっちゅう見たので懐かしいです。 [一言] 最近は門限だ…
[一言] 粕汁、ポカポカ温まるご馳走ですね。 父親にとって娘は、世界一可愛い女の子で、いずれ自分のもとを巣立っていくとわかっていても、小さい頃はそれを受け入れられないのかもしれません(電話一本で大騒…
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